君の事好きになっても良いですか?


──バイト中



更衣室から出てきた琴音先輩を見た瞬間、
心臓が一拍、跳ねた。

……来た。

今日、バイト先のスマイルバーガー店に
着いて、店長から聞かされた。
琴音先輩が応援で入ってくれる事を。
凄く嬉しいし、モチベーションが上がる。

ニヤけが顔に出ないように、
嬉しい気持ちを出すのを堪えた。

「今日は急だったんですね。」

レジ横で、声をかける。

「うん。ちょっとね。」
「四宮さんが体調不良で。」


琴音先輩は、少し困ったように笑った。


その笑顔、反則……可愛すぎる。

……彼氏いるって分かってるのに……
触れたくなる。


ダメ、仕事に集中しろ。


自分に言い聞かせながら、
それでも目で追ってしまう。





「矢口君、こっちお願い。」

「はい。」

仕事中矢口君は、
相変わらず素直で一生懸命だった。

ほんと、いい後輩だな。
しかも覚えが早いから、
スムーズに仕事が進む。
頼り甲斐があるなぁ……。
だけど、なんだかどこか視線を感じる。

……気のせい、かな?

忙しい時間帯を越えて、
少しだけ落ち着いた頃。

「先輩、今日一緒ですね。」

「久しぶりだね!」

「ですね!」
「嬉しいです!」

ほんの短いやり取りなのに、
空気が少し柔らぐ。



言うなら今日だ…。

心の中で、何度も繰り返す。

先延ばしにしたら、また逃げる。

ちゃんと、この恋に向き合おう。

レジ締めを終え、
閉店作業に入る。

「先輩、これ終わったら何か予定あります?」

一瞬、間があく。

「理央……彼氏が、駅で待ってくれてる。」

はっきり言われて、
胸が少しだけ痛んだ。

やっぱり、いるよな…これが現実。

当たり前だ……

それでも。

「琴音先輩、バイト終わったら」
「少し、話してもいいですか」



「うん、いいよ。」





──バイト終了


私と矢口君はバイトが終わり、
外を出て駅まで歩く。

夜風が、少し冷たい……。


「矢口君、話しって?」

瑠斗は、足を止めた。

「この前の昼休みのことなんですけど。」

「……うん。」

「俺、ちゃんと伝えてなかったなって」
「思って……。」


私は、矢口君の顔を見て黙って聞く。
歩きながら、少し沈黙が続き
その後、矢口君が口を開いた。

「俺……」
「琴音先輩のこと、好きです。」
「ライクじゃなくて、恋です。」
「彼氏いるのも分かってます。」
「でも、好きになるのは止められなかった」
「すみません。」


言い切った瞬間、
胸の奥が少し軽くなる。



「ありがとう」

少し間を置いて、私は言った。
矢口君の気持ちが真っ直ぐに
清らかに伝わって、心がポカポカ
と暖かさを感じる。
好きと言ってくれたの嬉しい。
だけど、私の気持ちは揺るがない。

「でもね、私は理央が好きなの。」

「それは、揺らがない。」


琴音先輩、
ちゃんと向き合ってくれてる。

「……はい。」

俺は、深く息を吐いた。


「琴音先輩、言ってスッキリしました。」
「話し聞いてくれて」
「ありがとうございました」
「これで、終わりにします。」
「先輩のこと、好きになれてよかった。」
「……友達でいさせてください」

「うん」
「これからも友達としてよろしくね。」


小さく、でも確かな笑顔が交わされた。


「でわ、俺の家こっちなんで。」

そう言って、矢口君は駅からちょっと
離れた交差点の右側に体を向けた。


「うん。」
「また、学校で!」
「今日、気持ち伝えてくれて」
「ありがとう!」



「こちらこそありがとうございました!」
「でわ、また学校かバイトで。」
「お先失礼します。」


彼はそう言って、子犬のような
笑顔を見せて家に帰って行った。

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