君の事好きになっても良いですか?

第17話 晃の隠し事


*琴音*


九月は、静かだけど、感情の多い月だった。

バイトで後輩ができて、
想いを向けられて、
それをちゃんと終わらせて。

理央くんと向き合って、
不安も、信頼も、
少しずつ言葉にできるようになった。

色々あったな……。

窓から入る風が、もう夏とは違う。

私は、前に進んでる。

そう思えるようになったのは、
九月が終わる頃だった。

そして、
毎年変わらずやってくる日付が、
カレンダーに近づいていた。


──10月10日

毎年この日は、
篠崎家と小川家で、
晃のお母さんの誕生日を祝う。

それはもう、
「親戚」みたいなものだった。

琴音のお母さんと、晃のお母さんは
高校時代からの親友。
晃のお父さんとは、
晃のお母さんと大学で出会って結婚。


家族ぐるみで過ごすこの日が、
琴音にとっても当たり前の行事になっていた。



10月10日、土曜日。
昼前の少し静かな時間。

琴音は自分の部屋で、
スマホを手にしたまま一度深呼吸をした。

ちゃんと、声聞いておきたいな……。

事情はもう話してある。
今日は晃のお母さんの誕生日で、
先に晃の家へ行くことも。

それでも――
黙って向かうのは、嫌だった。

通話ボタンを押す。



「……もしもし?」

すぐに聞こえた理央の声に、
琴音の胸がふっと軽くなる。

「理央今、大丈夫?」

「うん。ちょうど家出る前だった」

「そっか……ごめん忙しいのに」
「電話しちゃって。」


「全然大丈夫だよ。」
「むしろ、電話嬉しい。」


少しだけ間が空く。


「今から、晃の家に行ってくる。」

「うん。」

理央は、もう分かっているのに
ちゃんと最後まで話を聞いてくれる。


「13時に先に琴音が」
「行くって言ってたよね。」


「うん。お母さんは夕方から。」

「そっか。」
「……ちゃんと電話くれて、ありがとう。」


その一言に、
琴音は小さく笑った。


理央は本当に優しい、優しすぎる。
当たり前みたいに、私を受け止めてくれる。

「ちょっとだけ……理央声聞きたくて」
「電話しちゃった。」

そう言うと、
理央は少し照れたように息を吐いた。

「俺も、めっちゃくちゃ」
「琴音の声が聞きたかったんだ。」


「良かった。」

「あっ、だけど……」
「正直、ちょっとだけ複雑だけど。」


「……だよね。」


「でも、隠されるよりずっといい。」


「隠し事なんてないよ。」


理央……心配しないで。
私の心は理央だけだよ……。




晃の家……

晃と、二人きりの時間……
晃のお母さん達が居るとはいえ
胸の奥が、ちくっと痛む。

でも――

昔からの行事で、親同士が家族ぐるみの仲だ
から仕方ない。
琴音はずっとその環境で生活してきたのだから、
俺のわがままでそれを壊すのは、
間違ってる。


「琴音がちゃんと戻ってくる場所は、」
「俺のところだろ?」


その言葉に、
私の胸がじんと熱くなる。


「……うん。」




「終わったら、連絡して。」


「うん必ず連絡する。」


「気をつけて行ってきてね。」


「理央こそ気をお出かけ」
「してきてね。」


短い沈黙のあと、
私は小さく付け足す。


「理央……大好き。」


一瞬、通話の向こうが静かになる。


「……俺も琴音が大好き。」
「それじゃまた……。」

「うん、またね。」


電話が切れたあと、
私はスマホを胸に抱えた。

はぁ……理央から大好きと言う声が、
色ぽっくて私の頬は赤くなる。
理央の事私、大好きすぎて頭が
変になりそう……。

だけど、余韻に浸ってる場合ではない。
早く支度を済ませて、晃の家に向かわないと。
また、遅れたら晃にガミガミ言われちゃう。

私は簡単に支度を済ませて、
晃宅へ向かった。



琴音 side 終わり
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