君の事好きになっても良いですか?
──篠崎宅
玄関のチャイムを鳴らすと、
すぐに扉が開いた。
「琴音ちゃん、いらっしゃい!」
柔らかく微笑んだ晃のお母さんの声は、
昔と何も変わらない。
私は自然と背筋を伸ばし、
ぺこりと頭を下げた。
「晃ママ。」
「お誕生日おめでとうございます。」
「お邪魔します。」
「ありがとう。」
「もう、また1つ年取っちゃったわ(笑)」
「もう晃は部屋にいるわよ。」
「はーい!」
靴を揃え、慣れた廊下を進む。
この家に来るのは、何度目だろう。
幼い頃から何度も、
当たり前のように出入りしてきた場所。
私が引越ししてからは、なかなか
行けなくなっちゃった。
コンコン、と軽くノックしてから、
返事を待たずに扉を開ける。
「晃~!」
「……琴音か。」
部屋の奥でスマホを見ていた晃が顔を上げる。
一瞬、視線が絡んで、すぐに逸らされた。
機嫌悪いのかな?
「久しぶりの晃の部屋~!」
私はそう言いながら、
すでに部屋の中へずかずかと入っていく。
ベッド、机、本棚。
昔とほとんど変わらない配置に、
懐かしさが胸をくすぐった。
「ちょっと、琴音!」
「勝手に漁るなよ!」
「いいじゃん。」
「どうせ昔から見慣れてるし。」
琴音はそう言って頬を膨らませてすぐに
笑いながら、棚の奥に置かれた小さな箱に
目を留める。
「あっ、なにこれ?」
私は元がクッキーが入っていたであろう四角い
箱に手を伸ばした、その瞬間。
「――っ!!」
晃の手が、上から重なった。
私の指を包み込むように押さえ、箱を引き寄せる。
「それは、駄目。」
いつもより低く、強張った声。
私は驚いて晃を見る。
晃がこんなにも必死になるの珍しい……。
「え?なに、秘密?」
「……いいから」
「触るな。」
晃はそれ以上何も言わず、
箱を素早く引き出しの奥に隠した。
――開けられたら終わる。
箱の中にあるのは、
スマホにも残していない、紙の写真。
文化祭、帰り道、何気ない横顔。
全部、琴音ばかり。
今更また、
好きだなんて言えるはずもなく、
捨てることもできず、
誰にも見せられずに閉じ込めてきた想い。
琴音はもう、俺のじゃない。
分かっているのに、
琴音の指を触れた瞬間、
心臓がうるさくなった。
……今の、なんだったんだろ
晃の表情は一瞬で戻ったけれど、
どこか必死で、余裕がなかった。
でも――
深く踏み込む気にはなれなかった。
「そっか。ごめんね、」
「勝手に見ようとして。」
軽くそう言って、琴音は話題を変える。
「ねえ、晃聞いてよ」
「ん?」
二人はいつものようにじゃれ合いながら、床に座り込む。
「この前の、助っ人でバイト入った日」
「矢口君に告白された。」
晃の指先が、わずかに止まる。
「……は?」
「なんで?あいつ、琴音に彼氏いる事」
「知ってるんだよな?」
「うん、知ってるよ。」
「気持ちを伝えたかったんだって。」
俺の胸の奥が、
きゅっと締め付けられる。
「ちゃんと断ったよ。」
「私には理央くんがいるし。」
「でもそのあと普通に」
「話すようになって、友達になった。」
「……そうか。」
晃は笑おうとした。
けれど、うまく口角が上がらなかった。