悪妻エリザベスは破滅回避のため冷徹公爵と契約を結ぶ~異常な溺愛はお断りです~
第一話
「エリザベス! 貴様は自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 屋敷の主――クラウス・ハーヴェイ公爵は、アイスブルーの瞳に怒りを宿して鋭い視線を妻へと向けた。普段は感情を映さぬ氷のような瞳だが、この瞬間は狂気と激情が混じり合い、銀髪とともに鋭くギラついていた。
 それも当然だろう。屋敷中の使用人達が血にまみれて倒れているのだから。
 使用人達のうめき声の中心に立つ公爵夫人――エリザベス・ハーヴェイは、痛んだハニーブラウンの髪を振り乱し、ナイフを片手に恍惚とした表情を浮かべている。
 
「あぁクラウス……! ようやく私を見てくれたの? でも、もう遅いわ。私はね、待ちくたびれてしまったの」

 目を細めて笑う彼女の瞳は虚ろで、かつて愛した夫すら映っていない。
 部屋にはむせ返るような甘い香りが、血の臭いをかき消している。エリザベスが愛用していたお香だ。精神作用のある毒入りの――。

「クラウスが悪いのよ? 私を放っておいたから……寂しかったの! でもね、この香りあれば貴方の夢が見られるの……。あぁ、夢の貴方は優しくて、私を抱きしめてくれたわ」

 クラウスはなるべくお香を吸わないように注意しながら剣を抜いた。ハーヴェイ公爵家に代々伝わる聖剣だ。
 キラキラと白く輝く聖剣の光が、血まみれの屋敷を照らし出す。

「君がここまで愚かだとは思わなかった。……後始末は当主の役目。君の最期は俺が責任を取ろう」

 クラウスはそう言うと、風よりも速くエリザベスの首元に剣を当てた。

 その瞬間、まばゆい光とともにエリザベスの首が跳ねられた。彼女の目にはクラウスの苦悩に満ちた表情が映っていた。


(私は……この話を知っている)



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