愛なき凸凹夫婦だったのに、生まじめ妻は御曹司の熱情愛に堕ちる

両親にご挨拶

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 婚姻届けを出した翌日、陽菜は事務的な手続きをしてもらうため戸籍謄本と住民票の写しを持って図書館の館長に結婚を報告した。館長は急な話に驚いてはいたが、おおいに祝福してくれた。
「それではよろしくお願いします、失礼します」
 一礼して館長室から出ようとすると、ドアに張り付いていた職員が三人ばかりバタバタと倒れ込んだ。
「あたたたた……」
「……みなさん、仕事してくださいよ」
「気になっちゃって無理! それでそれで? 結婚したって本当?」
 友里が皆を代表して尋ねてきた。目が好奇心でキラキラしている。
「ほ、本当です」
 一瞬後ろめたい気分になったが、同居人みたいな関係とはいえ俊哉と夫婦になったのは事実だ。
「相手は? もしかして、この前カウンターに来ていたあのイケメン?」
 そういえばあのときみんなに見られていたんだった。
「……はい」
 認めた瞬間、一斉に拍手が湧いた。
 通りかかった利用者が、なにごとだというふうにぎょっとした顔をする。
「すごーい、おめでとう!」
「ありがとうございます」という声が小さくなったのは、照れくさかったからだ。
「めちゃくちゃかっこよかったよね。あんなに素敵なひとと結婚できるなんて、羨ましいー!」
「日曜に結婚式の二次会で出会ったって言ってたよね? まだ一週間経ってないじゃない。超スピード結婚だ」
「どうしてそんなに結婚を急いだの? もう少し交際期間を楽しんでもよくなかった?」
 もっともな疑問だ。陽菜と俊哉の結婚が普通の恋愛結婚なら、だが。
「彼がすぐに籍を入れたいと言ったので」
 アパートの更新料がもったいなかったのでと正直に答えることもできず、俊哉のせいにした。
「きゃーっ」と図書館で許されるぎりぎりの音量で嬌声が上がる。
「のろけられた!」
「のろけてません」
「いいから、いいから。新婚さまにはのろける権利あるし大丈夫」
 あっはっはと笑いながら友里に肩を叩かれる。
 たぶんいまはなにを言ってものろけだと思われそうだ。照れと気まずさでお腹の辺りがむずむずするが、結婚したことによりみんなに迷惑をかけることもありそうなので、甘んじて受け止めておくことにする。
「新婚さんだと、引っ越しとか結婚式の準備とかやることいろいろあるよね。シフト換わってほしいとかあったら遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます」
 陽菜はみんなに頭を下げた。
「それでさっそくなんですけど、館長にお願いして明日の土曜日、急遽お休みをいただくことになりました。忙しい週末に人数を減らしてしまって申し訳ありません」
「大丈夫大丈夫、ひとりくらいなら減ったってどうにでもなるよ」
 みんなニコニコと笑っている。迷惑そうな顔をしているひとは誰もいない。本当に居心地がよく働きやすい職場なのだ。非常勤で給料が安いという欠点を除けば。
 アルバイト先であったファミレスも、忙しくて大変ではあったけれど一緒に働いていたひとたちはいいひとばかりだった。
 昨晩店長に電話で結婚したことを告げ退職の意向を伝えると、「おめでとう」と手放しで祝福してくれた。残っていたシフトも今晩だけ出ればあとはどうにかできるので大丈夫、とのことだった。夜の時間帯のアルバイトの数は足りていたようだ。急な退職にもかかわらずあまり周囲に迷惑をかけずに済んだことに陽菜はホッとしていた。
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