愛なき凸凹夫婦だったのに、生まじめ妻は御曹司の熱情愛に堕ちる
2
食パンの焼けるいい匂いがしてきた。
レタスときゅうり、トマトのサラダはもうできている。あとは半熟の目玉焼きとカリカリのベーコン。そして淹れたてのコーヒー。
「……おはよう」
俊哉が眠気を引きずった顔でダイニングにやってきた。洗顔と着替えはもう済ませているが、まだまぶたが重そうだ。
「おはようございます」
一緒に暮らしはじめてから、朝に弱いという俊哉の意外な一面を知った。陽菜は、いつもきりっとしている彼がぼんやりしているのを見るのが嫌いではない。
自分の定位置に座り、マグカップを持ってコーヒーをひと口飲んでいる。このあたりからだんだんと俊哉の顔つきがはっきりしていく。その変化を見るのも好きだ。
「美味しい」
「よかったです」
朝食をすべてテーブルに並べ、俊哉の向かい側に腰を下ろす。
いただきます、と軽く手を合わせてから、さっそく朝食を食べはじめる。
夜は残業や会食などで俊哉の帰りが遅く、別々に食事することが多いが、朝はほぼ毎日一緒に食べている。メニューは俊哉の要望で、いつも洋食だ。
パンは最初スーパーの特売のものを買っていたけれど、近所にあるベーカリーのものにしてくれと言われて以来そうしている。倍ぐらいの値段がするだけあって、たしかに美味しい。
生活費は基本カード払いだ。好きに使っていいと言われているが、どうしても節約したくなってしまうので、たびたびベーコンを自家製の鶏ハムにしたりはしている。
俊哉は基本水木休みだけれど、忙しくてそれも潰れがちだ。陽菜は陽菜でシフト制で不規則勤務だから、夜は顔を見ないまま一日が終わることも少なくない。
陽菜としては夕食の支度がない分勉強時間がたくさん取れるので、ありがたい。
これが恋愛結婚だったら、きっと寂しく思ったり不満を持ったりするのだろう。
というわけで、結婚以来陽菜は極めて快適に生活できているのだが、俊哉の方はどうなんだろうとたびたび不安になる。
俊哉の仕事はハードだ。へとへとになって家に帰ってきて、愛してもいない女がそこにいたら気づまりじゃないのだろうか。
つい心配になるが、一緒に暮らしはじめてからというもの、俊哉はいつも上機嫌だ。
陽菜は特別おもしろい人間ではないし、可愛げがある方でもない。自分なんかといて、このひとはいったいなにがそんなに楽しいのだろうとたびたび思ってしまう。
陽菜が経済的に困っていたから、ボランティア精神で一緒にいてくれているんだろうか。それじゃ聖人みたいだ。
それとも実は思い切り性格が悪くて、陽菜がすっかり安心して俊哉に懐いた頃にぽいっと捨てて歪んだ爽快感を味わいたいとか? もともと結婚にいいイメージを持っていないせいで、どうしても思考が暗い方向に向く。
「どうかした?」
気づいたら朝食を食べる手が止まっていた
少し迷ってから、本人に直接尋ねることにする。
「俊哉さんは」
「うん」
「どうして私といてくれるんですか」
「どうしてって……夫婦だから?」
俊哉は質問の意図がよくわからないというように目をパチパチさせた。
「手っ取り早く妻帯者になりたかったというのはわかるんですけど、それだったらべつに私じゃなくてもよかったですよね? もっと身元のたしかな、それこそもともとの知り合いの女性にでもプロポーズしてみたら、けっこうな確率でオッケーしてもらえていたと思うしご両親とも揉めずに済んだと思うんですけど」
裕福な家庭の子供たちが通う学校で育ってきた俊哉には、お嬢様の知り合いが大勢いるはずだ。いまさらながら、なぜそういうなかから相手を探さなかったのか不思議に思う。
俊哉は少し俯いて、手に持っていた食パンを皿に置いた。
「……ちゃんと悩むのが、いいと思ったんだ」
「え?」
「俺はつい笑って済ませちゃうから。ちゃんと悩んだり悲しんだりするの苦手で」
「はあ……」
出会った日のバーでの会話のことを言っているんだろうか。
わかるような、わからないような。
しかし俊哉はもう言うべきことは言ったという感じで食事を再開している。
庶民的な陽菜はいままで俊哉の周りにいなかったタイプで、新鮮だったのかもしれない。そういうことにしておこう。と納得して、陽菜も再び朝食を口に運びはじめた。
食パンの焼けるいい匂いがしてきた。
レタスときゅうり、トマトのサラダはもうできている。あとは半熟の目玉焼きとカリカリのベーコン。そして淹れたてのコーヒー。
「……おはよう」
俊哉が眠気を引きずった顔でダイニングにやってきた。洗顔と着替えはもう済ませているが、まだまぶたが重そうだ。
「おはようございます」
一緒に暮らしはじめてから、朝に弱いという俊哉の意外な一面を知った。陽菜は、いつもきりっとしている彼がぼんやりしているのを見るのが嫌いではない。
自分の定位置に座り、マグカップを持ってコーヒーをひと口飲んでいる。このあたりからだんだんと俊哉の顔つきがはっきりしていく。その変化を見るのも好きだ。
「美味しい」
「よかったです」
朝食をすべてテーブルに並べ、俊哉の向かい側に腰を下ろす。
いただきます、と軽く手を合わせてから、さっそく朝食を食べはじめる。
夜は残業や会食などで俊哉の帰りが遅く、別々に食事することが多いが、朝はほぼ毎日一緒に食べている。メニューは俊哉の要望で、いつも洋食だ。
パンは最初スーパーの特売のものを買っていたけれど、近所にあるベーカリーのものにしてくれと言われて以来そうしている。倍ぐらいの値段がするだけあって、たしかに美味しい。
生活費は基本カード払いだ。好きに使っていいと言われているが、どうしても節約したくなってしまうので、たびたびベーコンを自家製の鶏ハムにしたりはしている。
俊哉は基本水木休みだけれど、忙しくてそれも潰れがちだ。陽菜は陽菜でシフト制で不規則勤務だから、夜は顔を見ないまま一日が終わることも少なくない。
陽菜としては夕食の支度がない分勉強時間がたくさん取れるので、ありがたい。
これが恋愛結婚だったら、きっと寂しく思ったり不満を持ったりするのだろう。
というわけで、結婚以来陽菜は極めて快適に生活できているのだが、俊哉の方はどうなんだろうとたびたび不安になる。
俊哉の仕事はハードだ。へとへとになって家に帰ってきて、愛してもいない女がそこにいたら気づまりじゃないのだろうか。
つい心配になるが、一緒に暮らしはじめてからというもの、俊哉はいつも上機嫌だ。
陽菜は特別おもしろい人間ではないし、可愛げがある方でもない。自分なんかといて、このひとはいったいなにがそんなに楽しいのだろうとたびたび思ってしまう。
陽菜が経済的に困っていたから、ボランティア精神で一緒にいてくれているんだろうか。それじゃ聖人みたいだ。
それとも実は思い切り性格が悪くて、陽菜がすっかり安心して俊哉に懐いた頃にぽいっと捨てて歪んだ爽快感を味わいたいとか? もともと結婚にいいイメージを持っていないせいで、どうしても思考が暗い方向に向く。
「どうかした?」
気づいたら朝食を食べる手が止まっていた
少し迷ってから、本人に直接尋ねることにする。
「俊哉さんは」
「うん」
「どうして私といてくれるんですか」
「どうしてって……夫婦だから?」
俊哉は質問の意図がよくわからないというように目をパチパチさせた。
「手っ取り早く妻帯者になりたかったというのはわかるんですけど、それだったらべつに私じゃなくてもよかったですよね? もっと身元のたしかな、それこそもともとの知り合いの女性にでもプロポーズしてみたら、けっこうな確率でオッケーしてもらえていたと思うしご両親とも揉めずに済んだと思うんですけど」
裕福な家庭の子供たちが通う学校で育ってきた俊哉には、お嬢様の知り合いが大勢いるはずだ。いまさらながら、なぜそういうなかから相手を探さなかったのか不思議に思う。
俊哉は少し俯いて、手に持っていた食パンを皿に置いた。
「……ちゃんと悩むのが、いいと思ったんだ」
「え?」
「俺はつい笑って済ませちゃうから。ちゃんと悩んだり悲しんだりするの苦手で」
「はあ……」
出会った日のバーでの会話のことを言っているんだろうか。
わかるような、わからないような。
しかし俊哉はもう言うべきことは言ったという感じで食事を再開している。
庶民的な陽菜はいままで俊哉の周りにいなかったタイプで、新鮮だったのかもしれない。そういうことにしておこう。と納得して、陽菜も再び朝食を口に運びはじめた。