愛なき凸凹夫婦だったのに、生まじめ妻は御曹司の熱情愛に堕ちる
銀座にあるあんパンが有名な店の四階でランチプレートを食べたあと、交差点の向かい側にあるデパートで陽菜の服を見立ててもらうことになった。
「本当に俺が選んじゃっていいの?」
「はい。自分より俊哉さんのセンスの方が信用できるので」
陽菜だとどうしても、似合う似合わないより先に値段を見てしまうというのもある。
俊哉が選んだ店は、陽菜の知らないブランドだった。陽菜がよく行くファストファッションの店とは違い、服の陳列の様子にやけに余裕がある。
「いらっしゃいませ。なにかお探しでしょうか」
このブランドの服を着ている店員がにこやかに声をかけてきた。
「妻がちょっとしたパーティーに着ていくドレスを見せてもらえますか」
「かしこまりました」
俊哉の求めに応じて店員は一度じっと陽菜を見たあと、店内にあるドレスを何着か選んで持ってきた。
「こちらのドレスなど、とてもお似合いになると思いますよ」
「着てごらんよ」
俊哉に促されて、試着室に入る。
店員一押しのベージュのドレスは七分袖で、袖の部分がレースになっていて腕が華奢に見えた。スカートは長めで、少しスリットが入っている。
「どうでしょう」
カーテンを開けてドレスを着た姿を見せると、俊哉は「いいね」と満足そうな顔をした。
「でもせっかくだからいろいろ着てみよう。俺はこれもいいと思う」
さっきのものとは全然違う紺色のドレスは、紺地とはいえレースやフリンジ、スパンコールなどの装飾がいっぱいで華やかだ。試着してみると緩やかに広がるAラインのシルエットが上品で、陽菜も気に入った。
「こっちもいいな。じゃ、次はこれ」
次々とドレスを渡され、着せ替え人形になった気分になる。
五着目を着て試着室を出ると、俊哉がさっきまでいなかった中年男性と笑顔で話をしていた。このひとも店員なのだろうか。
「俊哉さん」
「お、パープルもよく似合うね。それももらおう」
それ〝も〟?
言葉尻に疑問を感じたが、俊哉以外のひともいるため聞き返しづらい。
「今日着ていくのはどれがいいと思った?」
「どれも素敵でしたけど、二番目に着た紺色のドレスが特に気に入りました」
「オッケー、じゃ、それを着ていこう」
陽菜は試着室に入り、もう一度紺色のドレスに着替えた。そして家から着てきた服を手に持って外に出ると、店員がショップの名前の入った紙袋にそれらを入れてくれた。
「それじゃ、それもお願いします」
「はい」
俊哉が当たり前のように言い、店員がカウンターのなかにあったもう一回り大きい袋の横にいまの袋を置く。
「え?」
「ありがとうございました」
ショップの店員と中年男性が深々とお辞儀してくる。
「よし、次に行こう」
「あの、今日着てきた服は……?」
「お客様センターに預かってもらって、最後に車まで運んでもらうんだ」
ということは、あの隣にあった大きい袋は。
「……もしかして、いま着たドレス、全部買ったんですか?」
「買った」
俊哉はいたずらが見つかった子供みたいな顔をした。
「だって全部似合ってたし、これからもパーティーに行く機会はあると思うからさ」
いったいいくらしたのだろうと頭がくらくらしてきたが、俊哉が上機嫌なので野暮なことは言わないことにした。
「さあ、次に行こう」
俊哉が張り切って歩きだした。
「次?」
「靴やバッグも必要だろ」
結局靴とバッグも五つずつ、さらにアクセサリーまでいくつか買ってもらってやっと買い物は終わった。どの売り場でも俊哉は外商伝票にサインをするだけで、その場で支払いをしていなかった。さっき途中から顔を見せた中年男性は、外商の担当者らしい。
この日買ったものは、一か月後くらいにまとめて請求書が送られてくるのだという。そんな買い物の仕方があるなんて、陽菜は初めて知った。
買い物のあとは、デパート内にある外商サロンで一休みすることになった。
サロンはホテルのラウンジのような雰囲気だった。窓際にある景色のいい席に案内されソファに横並びで座り、ふたりで温かい紅茶を飲む。デパートにこんなスペースがあることも、陽菜は初めて知った。
「今日はありがとうございました。たくさん買ってもらってしまって」
「いやー、めちゃくちゃ楽しかったよ。普段着の陽菜ももちろん大好きだけど、着飾った姿を見られるのも嬉しかった」
大満足、という感じで俊哉が笑った。
「それに──」
陽菜の耳元に俊哉が顔を寄せてくる。
「男性が女性に服を贈るというのは、それを脱がせたいという意味があったりする」
「えっ」
いままさに贈られたばかりの紺色のドレスを着ている陽菜は、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「本当に俺が選んじゃっていいの?」
「はい。自分より俊哉さんのセンスの方が信用できるので」
陽菜だとどうしても、似合う似合わないより先に値段を見てしまうというのもある。
俊哉が選んだ店は、陽菜の知らないブランドだった。陽菜がよく行くファストファッションの店とは違い、服の陳列の様子にやけに余裕がある。
「いらっしゃいませ。なにかお探しでしょうか」
このブランドの服を着ている店員がにこやかに声をかけてきた。
「妻がちょっとしたパーティーに着ていくドレスを見せてもらえますか」
「かしこまりました」
俊哉の求めに応じて店員は一度じっと陽菜を見たあと、店内にあるドレスを何着か選んで持ってきた。
「こちらのドレスなど、とてもお似合いになると思いますよ」
「着てごらんよ」
俊哉に促されて、試着室に入る。
店員一押しのベージュのドレスは七分袖で、袖の部分がレースになっていて腕が華奢に見えた。スカートは長めで、少しスリットが入っている。
「どうでしょう」
カーテンを開けてドレスを着た姿を見せると、俊哉は「いいね」と満足そうな顔をした。
「でもせっかくだからいろいろ着てみよう。俺はこれもいいと思う」
さっきのものとは全然違う紺色のドレスは、紺地とはいえレースやフリンジ、スパンコールなどの装飾がいっぱいで華やかだ。試着してみると緩やかに広がるAラインのシルエットが上品で、陽菜も気に入った。
「こっちもいいな。じゃ、次はこれ」
次々とドレスを渡され、着せ替え人形になった気分になる。
五着目を着て試着室を出ると、俊哉がさっきまでいなかった中年男性と笑顔で話をしていた。このひとも店員なのだろうか。
「俊哉さん」
「お、パープルもよく似合うね。それももらおう」
それ〝も〟?
言葉尻に疑問を感じたが、俊哉以外のひともいるため聞き返しづらい。
「今日着ていくのはどれがいいと思った?」
「どれも素敵でしたけど、二番目に着た紺色のドレスが特に気に入りました」
「オッケー、じゃ、それを着ていこう」
陽菜は試着室に入り、もう一度紺色のドレスに着替えた。そして家から着てきた服を手に持って外に出ると、店員がショップの名前の入った紙袋にそれらを入れてくれた。
「それじゃ、それもお願いします」
「はい」
俊哉が当たり前のように言い、店員がカウンターのなかにあったもう一回り大きい袋の横にいまの袋を置く。
「え?」
「ありがとうございました」
ショップの店員と中年男性が深々とお辞儀してくる。
「よし、次に行こう」
「あの、今日着てきた服は……?」
「お客様センターに預かってもらって、最後に車まで運んでもらうんだ」
ということは、あの隣にあった大きい袋は。
「……もしかして、いま着たドレス、全部買ったんですか?」
「買った」
俊哉はいたずらが見つかった子供みたいな顔をした。
「だって全部似合ってたし、これからもパーティーに行く機会はあると思うからさ」
いったいいくらしたのだろうと頭がくらくらしてきたが、俊哉が上機嫌なので野暮なことは言わないことにした。
「さあ、次に行こう」
俊哉が張り切って歩きだした。
「次?」
「靴やバッグも必要だろ」
結局靴とバッグも五つずつ、さらにアクセサリーまでいくつか買ってもらってやっと買い物は終わった。どの売り場でも俊哉は外商伝票にサインをするだけで、その場で支払いをしていなかった。さっき途中から顔を見せた中年男性は、外商の担当者らしい。
この日買ったものは、一か月後くらいにまとめて請求書が送られてくるのだという。そんな買い物の仕方があるなんて、陽菜は初めて知った。
買い物のあとは、デパート内にある外商サロンで一休みすることになった。
サロンはホテルのラウンジのような雰囲気だった。窓際にある景色のいい席に案内されソファに横並びで座り、ふたりで温かい紅茶を飲む。デパートにこんなスペースがあることも、陽菜は初めて知った。
「今日はありがとうございました。たくさん買ってもらってしまって」
「いやー、めちゃくちゃ楽しかったよ。普段着の陽菜ももちろん大好きだけど、着飾った姿を見られるのも嬉しかった」
大満足、という感じで俊哉が笑った。
「それに──」
陽菜の耳元に俊哉が顔を寄せてくる。
「男性が女性に服を贈るというのは、それを脱がせたいという意味があったりする」
「えっ」
いままさに贈られたばかりの紺色のドレスを着ている陽菜は、顔を真っ赤にしてうつむいた。