愛なき凸凹夫婦だったのに、生まじめ妻は御曹司の熱情愛に堕ちる
2
クリスマスイブの夜は、ふたりきりで家で過ごした。
俊哉はどこかレストランを予約しようとしていたのだが、陽菜が自宅でゆっくりしたいとリクエストしたのだ。
陽菜が前日から仕込んでおいたビーフシチューを食べ、俊哉がデパートで買ってきたシャンパンを飲み、もうお腹がいっぱいだと言いながら有名パティスリーの五号のクリスマスケーキをふたりで食べきった。
「もう駄目だ。もうひと口も食べられない」
後片付けは後回しにして、ふたりしてソファにゴロンと横たわる。
「俊哉さんが五号のケーキなんて買ってくるから」
ふたりなら四号でも大きいくらいだ。
「だって並んでいるのを見ると、大きい方が豪華で美味しそうだったんだ。美味しかっただろう?」
「美味しかったですけど」
いまさらだが最初に半分を残しておいて、明日に回すべきだった。
「陽菜、ビーフシチューってもうなくなった?」
「まだ二人前くらいありますよ。明日の朝パンと一緒に食べましょう」
「やった」
こんなにお腹が苦しいのに明日の朝食の話をしているのがおかしくて、陽菜はクスクス笑った。
そんな陽菜を見て、俊哉が目を細める。
「あー……」
「どうかしました?」
「俺こんなにしあわせでいいのかなって」
「俊哉さん……」
自分だけでなく俊哉もしあわせでいてくれていると思うと、胸のなかが温かくなる。
「私もしあわせです、怖いくらい。でも、思い出したんですけど」
「うん?」
「私たちって、一年間のお試し期間中なんじゃありませんでしたっけ」
そう言うと、俊哉はパチパチと目をしばたたかせた。
「そんなこと言ったっけ──言ったな」
「言いました。プロポーズしてくれたとき」
「撤回してもいい?」
俊哉は慌てたようにソファの上で身を起こした。
「俺はもう陽菜と離れるなんて考えられない」
「私もです」
「よかった……」
俊哉が胸をなでおろしているのを見て、陽菜がまた笑う。
「その代わりと言ってはなんなんですけど、ひとつお願いがあります」
「俺にできることなら、なんでも」
「俊哉さんのピアノが聞きたいです」
「どんな曲がいい?」
「そうですね、クリスマスっぽいのがいいです」
「オッケー」
ニコッと笑って俊哉が立ち上がった。陽菜も体を起こして、グランドピアノの方へ行く彼についていく。
俊哉がグランドピアノの前に座った。陽菜もその辺にあった椅子を持ってきて、演奏の邪魔にならないような位置に座った。
ひとつ深呼吸して、俊哉が鍵盤に手を置く。跳ねるように音が鳴りだし、陽菜は楽しい気分になる。
「これなんていう曲でしたっけ」
「チャイコフスキーの『くるみ割り人形』」
俊哉の手が鍵盤の上をなめらかに動く。
真剣な表情で弾いている俊哉を見ていると、ここが自分の帰る場所なんだと強く思う。
演奏を聞きながら、だいぶ住み慣れた広いリビングを見回す。そして狭い家でひとりでクリスマスを過ごしているであろう両親のことを少しだけ考える。
きっぱりと線を引いたつもりではあるけれど、気持ちの整理なんて、たぶん一生つかない。ごちゃごちゃの気持ちを抱えたまま、できるだけ前向きに生きていこうと思う。
やがて演奏がやみ、俊哉が大きく息を吐いた。
陽菜は拍手の代わりに、心を込めて彼の頬にキスを贈った。
クリスマスイブの夜は、ふたりきりで家で過ごした。
俊哉はどこかレストランを予約しようとしていたのだが、陽菜が自宅でゆっくりしたいとリクエストしたのだ。
陽菜が前日から仕込んでおいたビーフシチューを食べ、俊哉がデパートで買ってきたシャンパンを飲み、もうお腹がいっぱいだと言いながら有名パティスリーの五号のクリスマスケーキをふたりで食べきった。
「もう駄目だ。もうひと口も食べられない」
後片付けは後回しにして、ふたりしてソファにゴロンと横たわる。
「俊哉さんが五号のケーキなんて買ってくるから」
ふたりなら四号でも大きいくらいだ。
「だって並んでいるのを見ると、大きい方が豪華で美味しそうだったんだ。美味しかっただろう?」
「美味しかったですけど」
いまさらだが最初に半分を残しておいて、明日に回すべきだった。
「陽菜、ビーフシチューってもうなくなった?」
「まだ二人前くらいありますよ。明日の朝パンと一緒に食べましょう」
「やった」
こんなにお腹が苦しいのに明日の朝食の話をしているのがおかしくて、陽菜はクスクス笑った。
そんな陽菜を見て、俊哉が目を細める。
「あー……」
「どうかしました?」
「俺こんなにしあわせでいいのかなって」
「俊哉さん……」
自分だけでなく俊哉もしあわせでいてくれていると思うと、胸のなかが温かくなる。
「私もしあわせです、怖いくらい。でも、思い出したんですけど」
「うん?」
「私たちって、一年間のお試し期間中なんじゃありませんでしたっけ」
そう言うと、俊哉はパチパチと目をしばたたかせた。
「そんなこと言ったっけ──言ったな」
「言いました。プロポーズしてくれたとき」
「撤回してもいい?」
俊哉は慌てたようにソファの上で身を起こした。
「俺はもう陽菜と離れるなんて考えられない」
「私もです」
「よかった……」
俊哉が胸をなでおろしているのを見て、陽菜がまた笑う。
「その代わりと言ってはなんなんですけど、ひとつお願いがあります」
「俺にできることなら、なんでも」
「俊哉さんのピアノが聞きたいです」
「どんな曲がいい?」
「そうですね、クリスマスっぽいのがいいです」
「オッケー」
ニコッと笑って俊哉が立ち上がった。陽菜も体を起こして、グランドピアノの方へ行く彼についていく。
俊哉がグランドピアノの前に座った。陽菜もその辺にあった椅子を持ってきて、演奏の邪魔にならないような位置に座った。
ひとつ深呼吸して、俊哉が鍵盤に手を置く。跳ねるように音が鳴りだし、陽菜は楽しい気分になる。
「これなんていう曲でしたっけ」
「チャイコフスキーの『くるみ割り人形』」
俊哉の手が鍵盤の上をなめらかに動く。
真剣な表情で弾いている俊哉を見ていると、ここが自分の帰る場所なんだと強く思う。
演奏を聞きながら、だいぶ住み慣れた広いリビングを見回す。そして狭い家でひとりでクリスマスを過ごしているであろう両親のことを少しだけ考える。
きっぱりと線を引いたつもりではあるけれど、気持ちの整理なんて、たぶん一生つかない。ごちゃごちゃの気持ちを抱えたまま、できるだけ前向きに生きていこうと思う。
やがて演奏がやみ、俊哉が大きく息を吐いた。
陽菜は拍手の代わりに、心を込めて彼の頬にキスを贈った。
