どうぞ、貴方がお望みの結末を。~死を偽装した才女と、彼女を搾取した人々の破滅の物語~
クラリスはそうなるまで完璧に自分の痕跡を消すつもりだ。
 都合がよいことにブール港のすぐ近くには、時おり人が身投げをする岬がある。そのためここの消印を利用しようと考えた。
「はあ、すっきりした。これから新しい自分になれそう」
 クラリスがバスルームから出ると、部屋で待っていたリリーが悲鳴をあげる。
「なんで綺麗な銀髪を切っちゃったの? ウィッグにすればよかったのに!」
「ウィッグだと脱げた時にばれるでしょ。だから切っちゃったわ。ふふふ、私、男の子に見えるかしら?」
「それが目的? 服装によってはどうにか……。ねえ、今からでも一等客室取りなおそうよ。危険だわ」
「ありがとう、リリー。私は大丈夫よ。四等客室は相部屋でしょ? どんな出会いがあるのか今からワクワクしているの! それに一等客室みたいに目立たないで済むし」
「信じられない。これだから世間知らずは……、身の危険を感じたらすぐに一等客室に移ってね」
 リリーは頭を抱えていた。

 翌朝、髪を茶に染めフードを目深にかぶり、顔を隠したクラリスは、ブール港の慣れない雑踏の中を歩いていた。
 チュニックとズボンの上に安物のフード付きの長い外套を羽織り、軽い旅行鞄ひとつを片手に持つ。
 リリーは心配そうに物陰からクラリスを見送ってくれたが、クラリスの気持ちは初めての旅に浮き立っていた。
 停泊している大きな客船を見上げるとワクワクしてくる。
「客船って近くで見ると思ったより大きくて、迫力があるのね」
 子供の頃から乗ってみたかった客船を前にして、クラリスの感動はひとしおだ。
 ただ感傷があるとしたら、リリーとの別れがつらい。
 クラリスは軽い足取りで、タラップを上ると、今度は下の船室に向かい自分の部屋を探し始めた。
「相部屋だから、相手が女性だといいわね」
 クラリスが船室に入ると、行商人風の中年女性が狭いベッドに腰かけていた。
「こんにちは」
 クラリスが元気に挨拶すると彼女は相好を崩した。
「あら、かわいい坊ちゃんね。あたしのことはイブと呼んでおくれ。あたしはヴェルタ王国のカレイの港まで行くんだよ」
「うん、僕の名前はクリス。よろしくイプ」
「そう。クリスはどこまで行くの?」
「セルーア国の叔父のもとへ行くんだ」
 前から考えていた設定なので、よどみなく話せる。
(やった! ちゃんと男の子に見えている!)
 こうしてクラリスの新しい冒険の旅は始まった。

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