どうぞ、貴方がお望みの結末を。~死を偽装した才女と、彼女を搾取した人々の破滅の物語~
 船が出港するとクラリスは、さっそく甲板に出る。
 遠ざかるブール港、リリーとの別れは悲しかったが、家族に対する思いも、ロランに対する未練もなにもなかった。
 そしてなにより全身に浴びる潮風が心地よい。
 今までの苦労が早朝の青い空と海に溶けていくようだ。
 風でフードが脱げたが、クラリスはそんなことにお構いなしで叫ぶ。
「やった! 自由だ!」
「それはよかった。君の念願がかなったんだね」
 聞き覚えのある声が後ろから聞こえて、クラリスはびっくりして振り返る。
 そこにはいるはずのない、懐かしい友人の姿があった。
 艶めく黒髪に神秘的な金色の瞳、端整な面立ちに浮かぶ人懐こい笑み。すらりした長身。
 元同級生のオーエン・ガラアドだ。彼は二年時に留学してきて、三年時終了まで同じ学園のAクラスで学んでいた。
 オーエンは非常に美しい容姿を持ちながら、気さくな人柄で学園の人気者だった。
「やあ、クラリス嬢、約一年ぶりだね」
「え? なぜ、あなたがここに? というか、どうして私だってわかったのですか?」
 同じ船室の女性だって騙せた自信があった。髪の毛も切って、茶色に染めて少年の姿をしている。
「俺が君の瞳の色と声を忘れるわけがないだろ?」
「声を出さなければよかったわ。それにフードを脱がなければ、ばれなかったかも」
 悔しそうに言うクラリスを見て、オーエンが声をあげて笑う。
「君ってやることが意外に大胆だね。死を偽装したんだって?」
「ど、どうして、それを!」
 クラリスは紫色の目を見開いた。
「ふふふ、知っているのはそれだけさ。安心して誰にも言わないから。それより、なぜ君がこういう状況になったのか、詳しく教えてほしい」
「あの、あまり私に関わらない方がいいです。それにどうしてあなたがこちらにいるんです? ああ、もうわけがわからないわ。完璧な作戦だったのに!」
「世の中に完璧なんてないさ。落ち着いてクラリス嬢、旅は道連れというじゃないか、ゆっくり聞かせてよ。君の物語を」
「旅の序盤で正体がばれるなんて早すぎます。同室の女性は男の子だって信じてくれたのに」
 クラリスは正体がばれたのが無念でならない。
「大丈夫。俺は君の味方だから。それにしも君、ほんの少し国を離れたからって気を抜きすぎじゃないか? 警戒心もなにもない」
 オーエンはそう言って肩を竦めた。
「そうですね。気を付けます」
「そうそう、俺のことはオーエンと呼んで。敬称も敬語もなしで」
「え? でも」
「お忍びなんだ」
「わかった。オーエン。僕のことはクリスと呼んでくれ」
「そう来たか」
 オーエンは愉快でたまらないというように声をあげて笑った。

 卒業パーティでロランがクラリスに婚約破棄と国外追放を言い渡したことは、すぐに父である国王ギヨームの耳に入った。
 パーティがあった晩、ロランはさっそくギヨームに呼び出される。
 謁見の間に入ると、ギヨームの怒りはすさまじく、ロランは寿命が縮む思いだった。
< 8 / 77 >

この作品をシェア

pagetop