断罪を逃れた転生令嬢は辺境で商才を発揮します
書籍化記念!番外編

【書籍化記念!番外編】ヒロインは祝福する

「アマリアが私の結婚式につくってくれるアクセサリー、とても楽しみだわ」


と仰ってくださったカロリーナお姉様の微笑みを思い出し、ため息を吐いた。

わたしの目の前には、曇りひとつないホワイトゴールドの地金に、夜空の星々を閉じ込めたかのような最高級のダイヤモンド。さらにはお姉様の瞳のように美しいラピスラズリが深い青色で輝いている。


「ほかにも必要なものがあったら、なんでも言ってちょうだいね」


と、お姉様は優しく微笑んでくださったのだけど、……正直、わたしにはまだ荷が重かった。


「ぜひ、私に新しいティアラをつくらせてくださいませっ!」


と、勢い込んでお願いしたのは、わたし自身だ。広場でのお姉様の〈婚約報告会〉に、気分が高揚しすぎていた。

ルチアさんは感激の涙でワンワン泣いてたし……、雰囲気に呑まれてしまってた。

お姉様から届けていただいた材料が、どれも高価な最高級品であるのを見て、


――こ、皇帝陛下もご臨席になられる結婚式で、お姉様が身に付けられる品なのだった……。


という現実に気が付いた。

皇帝陛下だけではないだろう。わが国の国王陛下も王妃陛下も、重臣方も、いや、帝国の重臣方もご列席になられるはずだ。

わたしなど目眩のしそうな煌びやかな場の中心で、カロリーナお姉様が身に付けられるのだ。

もちろん、総督任命式でつくらせていただいたティアラのように、出来が悪ければ使っていただけないだけだろう。

だけど……、


「アマリアの帝国デビューね!」


と、キラキラと輝く視線で、仕上がりを楽しみにしてくださっているお姉様のご期待を裏切りたくもない。

お姉様がロッサマーレに用意してくださった小ぶりだけど立派な工房で、ひとり、うんうんと悩んでしまう。


――ただ豪華なだけではダメ。お姉様の美しさを邪魔せず、引き立てるような……、おふたりの未来を祝福するのに相応しい……、ってどんなデザイン?


と、グルグル考えながら、スケッチブックにデザイン画を描いてみる。

いずれは帝国で皇后になられるお姉様に相応しく、威厳に満ちた豪華絢爛なデザイン。


――やっぱり、ダメ。これでは、お姉様の優しい笑顔が隠れてしまう……。


ミカンの花をモチーフに、可憐で可愛いデザイン。


――これだと、皇太子殿下のお隣に立たれる、女総督閣下としてのお姉様の凛々しいお美しさを邪魔してしまう……。


何枚もデザイン画をスケッチしては、白紙のページをめくる。

我ながら大変なことに立候補してしまった。

王都にはもちろん、帝国にも、もっと経験豊富で卓越した技術をお持ちの宝飾職人がたくさんおられるだろうに。

わたしをソニア商会の〈お抱え職人〉にしてくださった、お姉様の顔に泥を塗るようなマネは絶対にしたくない。


「……まだ、起きていたのかい? アマリア」


と、コンラート様の優しい声音で我に返った。


「あ……、ごめんなさい。なかなか、いい案が浮かばなくて……」

「うん。大恩あるカロリーナ様の結婚式に贈る品だ。アマリアの気持ちはよく分かるよ」


コンラート様は、側にあった椅子の背もたれを抱くようにして腰を降ろされた。

妻でありながらベッドから抜け出し、デザインと格闘するわたしに、文句のひとつも仰らず、優しく微笑んでくださっている。

わたしのことを分かってくださっているという安心感に包まれる。


「……コ、コンラート様は、カロリーナお姉様の側でお仕事をされてますわよね?」

「うん、そうだね」

「コンラート様からご覧になって、カロリーナお姉様とヴィットリオ殿下は……、どんなところがお似合いだと思われますか?」

「う~ん……」

「その……、ただ美しいとか、身分が釣り合ってるとか、そういうことではなくて……」

「うん。アマリアの言いたいことは、よく分かるよ」


と、微笑んでくださったコンラート様に、すこし〈はしゃいだ〉物言いになってしまった自分が気恥ずかしくて、そっと頬に手をあてた。


「……俺は騎士だし、あまり詩的な表現とか、気の利いた言い方は出来ないのだけど……」

「え、ええ……」

「先日、総督海軍の新しい訓練計画について、カロリーナ様とヴィットリオ殿下が議論されていたんだ」

「へぇ~」

「……総督海軍は、まだまだ帝国海軍からの指導を仰がないといけないからね」

「ええ」

「殿下からのご提案は、帝国流の実に先進的で大胆な訓練方法で、正直、俺には思いもよらない方法だった」

「……そうなのですね」

「だけど、カロリーナ様は首を横に振られたのだ」


お姉様は、ヴィットリオ殿下からのご提案を否定されたのではなかった。


『ビットの提案は素晴らしいわ。だから、ロッサマーレの気風を取り入れて、こう変えてみたらどうかしら?』

『うわぁ~っ! さすが、カーニャだね! じゃあ、こっちも変えてみようよ!』

『あら、いいわね。これなら、海軍に馴染みのない騎士たちもスムーズに運用を学べそうね』


コンラート様が語り聞かせてくださるおふたりの会話から、その光景が鮮やかに目に浮かぶようだった。

経験豊富で天から地を見渡すような広い視野をお持ちのヴィットリオ殿下と、しっかりと地に足を着け、その土地に生きる人々の心を大切にされるカロリーナお姉様。

おふたりに対立はなく、お互いの視点を補い合いながら、ひとつのおなじ未来を見詰めている。

コンラート様が優しく微笑んでくださった。


「……おふたりは、ただ隣に並んでいるだけではないんだ」

「ほんとうですわね。……お互いを尊敬し合い、信頼し合って、愛し合っておられるのですわね」

「ふふっ」

「……え? わたし、なにかおかしなことを言いましたか?」

「いや……。帆船カーニャ号で、殿下からの〈プレゼン〉を聞かれ、貴賓室から出てこられたときのカロリーナ様のなんとも嬉しそうなご表情を、つい思い出してしまった」

「ふふっ……、あのときのお姉様。とても可愛らしかったですわね」


コンラート様と微笑み合い、わたしのデザインを定めることができた。

夜明けの光が工房に差し込む頃。スケッチブックを高く掲げた。

総督府の始業時間をウズウズと待ちながら、コンラート様と朝食をいただき、それからお姉様のもとへと駆けていった。


「まあ! 素敵なティアラ!」


透んだ青い瞳を輝かせ、カロリーナお姉様の美しいお顔に満面の笑みが広がった。

わたしのデザイン画を、うっとりと眺めてくださっている。


「……そ、そうですか?」


というのは、わたしの〈ズル〉だ。

わたしにとっても自信作。敬愛するカロリーナお姉様から、もっと褒めていただきたかった。


「ええ、とっても素敵で独創的。……中央にひとつの石を据えるのではなく、ふたつのモチーフが寄り添ってる」

「は、はい……」

「星々に見立てたダイヤモンドは、皇太子殿下の威光と叡智を象徴してるのよね?」

「そ、そうです! お分かりいただけるのですね……」

「ふふっ、ビットにはもったいないけどね。……それと対になったホワイトゴールドの〈ミカンの花〉は、私の原点であり、豊穣と優しさを象徴してる」


やっぱり、カロリーナお姉様はわたしのことをよく知ってくださっているのだと、胸に嬉しさがこみ上げてくる。


「……ふたつのモチーフが支え合う真ん中に、未来の海を象徴するラピスラズリの青がある……。とても、素敵だと思うわ」

「わたしの込めた思いを、全部読み解いてくださるのですね……」

「ふふっ、アマリアだもの。……ありがとう、完成が楽しみだわ」


お姉様から製作のお許しをいただき、総督府をあとにする。

カロリーナお姉様。そして、ヴィットリオ殿下。

このティアラが、おふたりの未来を永遠に照らし続けますように――。

と、眩しく輝く朝陽を見上げて、目をほそめた。
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