王命結婚 ~他の女性を一途に愛する旦那様との契約~
翌日、私は従兄オスカーの元を訪れた。
オスカー・クロイドン侯爵令息──クロイドン侯爵家の一人息子であり、見目麗しい容姿をした、近衛騎士団の団長。
夢中になるのは令嬢達だけではない、社交界から騎士団まで、皆がオスカーに憧れている。
そんな彼が──、
「え? 近衛騎士を辞めた?」
「ああ、陛下に直接辞表を叩き付けてきた」
いまだ怒りが収まらない様子で、不敬とも取れる言葉を放っていた。
「え、どうして……」
「どうしても何もあるか! 王弟殿下が君にあんな態度を取ったというのに、我関せずで王家に仕えるなんてこと、出来る訳がないだろう!!」
なんということだ。
我が従兄は結婚式での怒りが収まりきらず、近衛騎士団長の要職にありながら、王国騎士の立場そのものを投げ捨ててしまったのだという。
「何も、そこまで──」
「そこまでしなくても……なんて言うんじゃないだろうな?」
オスカーの碧眼でジロリと睨まれ、慌てて口を噤む。
ごめんなさい、言おうとしていました。
だって、素っ気ない態度を取られたのは私なのに、従兄のオスカーがそこまで怒ってくれるなんて……嬉しさ半分、戸惑い半分。
自分の気持ちをどう処理して良いか分からず、表情がぎこちなく歪んでしまう。
「そういう訳だから、時間が出来た」
「そっか」
クロイドン侯爵家の嫡男であるオスカーは、今後は次期当主として、侯爵家の領政に携わることになるのだろう。
とはいえ、王宮勤めだった頃から比べれば、格段に自由時間が増えるはずだ。
「王都に居る間は、私が護衛を務めよう」
「ふぁ?」
そこから、なぜ護衛の話になるのか──話の飛躍について行けずに、素っ頓狂な声が出た。
「他家の騎士に、リオの護衛を任せる訳にはいかないだろう」
「あー……」
他家の騎士というか、一応嫁入り先ではあるのだけれどね。
前世の記憶がある分、私は幼い頃から人とは違う発言をしてしまうことがあった。
従兄のオスカーはそれを知っている為に、事情を知らない騎士に護衛は任せられないと判断したのだろう。
「そうね、オスカーが居てくれるなら助かるわ。護衛の件もだけれど、それ以外も……」
「それ以外?」
私の言葉に、オスカーが首を傾げる。
言ったらますます機嫌を損ねそうだけれど……黙っている訳にはいかないからなぁ。
「その、祝賀会とか、パーティーとかの行事も……王弟殿下は、夫としての振る舞いは一切しないつもりみたいだし……」
契約書に、そう書いてあったものね。
結婚式さえ最後まで終えられなかった彼が、各種式典に参加する際に、私をエスコートしてくれるとは思えない。
とはいえ、貴族女性としては、エスコート無しで会場に向かう訳にはいかない。
そういう時、皆に親族だと知られているオスカーがエスコートしてくれるのは、こちらとしても大助かりな訳だけれど……。
──べきっと、鈍い音が響いた。
見れば、オスカーが手を置いていた肘掛けが、僅かに凹んでいる。
えーと、そんなに簡単に壊れるような物ではないと思うのだけれど……一体、どれだけの力を籠めたのよ……。
オスカーの表情は話を聞いている時の笑顔が張り付いたまま、口元とこめかみだけがヒクヒクと震えている。
「……やはり、辞表を提出して正解だった」
「少なくとも……王城に居なければ、不敬で罰せられる心配は減るわね」
先ほどは“どうして辞めてしまったの”って思ったけれど、前言撤回。
こんなにも顔と態度に出てしまうのなら、辞めて良かったのかもしれない。
こんな態度を人前で見せてしまっては、いくら近衛騎士団長とはいえ、ただでは済まないもの。
「来週、王太后陛下の誕生日を祝う祝賀会があるじゃない。そのエスコートをお願い出来ないかと思って、ここに来たの」
本当は、他にもお願いしたいことが色々とある。
実家の伯爵家の窮状を救う為に何かしたいと思いはしても、いざ何から手を付けるか、どう動くかは一人でとても決められるものじゃない。
でも、彼が私の護衛を務めてくれるというのなら、いつでも相談出来るじゃない。
こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
「分かった。それ迄にも、どこかに出掛けるようなことがあれば、教えてほしい。私が同行しよう」
「頻繁に呼び出すことになっちゃうけれど、それでも良いの?」
「勿論だ」
持つべきものは親族、血の繋がりって有難いよね。
オスカーは少々過保護が過ぎると思うのだけれど、それも私を心配してくれてのことと思えば、嬉しい限りだ。
幼い頃の私はふとした拍子に別世界のことを口走ってしまって、相当に危なっかしい存在だったと聞いている。
その頃のイメージが、いまだ抜けていないんだろうなぁ。
とにかく、こうして私は頼もしい協力者を得た。
こうなれば、自由に動ける今の立場って……案外、悪くないのかも?
オスカー・クロイドン侯爵令息──クロイドン侯爵家の一人息子であり、見目麗しい容姿をした、近衛騎士団の団長。
夢中になるのは令嬢達だけではない、社交界から騎士団まで、皆がオスカーに憧れている。
そんな彼が──、
「え? 近衛騎士を辞めた?」
「ああ、陛下に直接辞表を叩き付けてきた」
いまだ怒りが収まらない様子で、不敬とも取れる言葉を放っていた。
「え、どうして……」
「どうしても何もあるか! 王弟殿下が君にあんな態度を取ったというのに、我関せずで王家に仕えるなんてこと、出来る訳がないだろう!!」
なんということだ。
我が従兄は結婚式での怒りが収まりきらず、近衛騎士団長の要職にありながら、王国騎士の立場そのものを投げ捨ててしまったのだという。
「何も、そこまで──」
「そこまでしなくても……なんて言うんじゃないだろうな?」
オスカーの碧眼でジロリと睨まれ、慌てて口を噤む。
ごめんなさい、言おうとしていました。
だって、素っ気ない態度を取られたのは私なのに、従兄のオスカーがそこまで怒ってくれるなんて……嬉しさ半分、戸惑い半分。
自分の気持ちをどう処理して良いか分からず、表情がぎこちなく歪んでしまう。
「そういう訳だから、時間が出来た」
「そっか」
クロイドン侯爵家の嫡男であるオスカーは、今後は次期当主として、侯爵家の領政に携わることになるのだろう。
とはいえ、王宮勤めだった頃から比べれば、格段に自由時間が増えるはずだ。
「王都に居る間は、私が護衛を務めよう」
「ふぁ?」
そこから、なぜ護衛の話になるのか──話の飛躍について行けずに、素っ頓狂な声が出た。
「他家の騎士に、リオの護衛を任せる訳にはいかないだろう」
「あー……」
他家の騎士というか、一応嫁入り先ではあるのだけれどね。
前世の記憶がある分、私は幼い頃から人とは違う発言をしてしまうことがあった。
従兄のオスカーはそれを知っている為に、事情を知らない騎士に護衛は任せられないと判断したのだろう。
「そうね、オスカーが居てくれるなら助かるわ。護衛の件もだけれど、それ以外も……」
「それ以外?」
私の言葉に、オスカーが首を傾げる。
言ったらますます機嫌を損ねそうだけれど……黙っている訳にはいかないからなぁ。
「その、祝賀会とか、パーティーとかの行事も……王弟殿下は、夫としての振る舞いは一切しないつもりみたいだし……」
契約書に、そう書いてあったものね。
結婚式さえ最後まで終えられなかった彼が、各種式典に参加する際に、私をエスコートしてくれるとは思えない。
とはいえ、貴族女性としては、エスコート無しで会場に向かう訳にはいかない。
そういう時、皆に親族だと知られているオスカーがエスコートしてくれるのは、こちらとしても大助かりな訳だけれど……。
──べきっと、鈍い音が響いた。
見れば、オスカーが手を置いていた肘掛けが、僅かに凹んでいる。
えーと、そんなに簡単に壊れるような物ではないと思うのだけれど……一体、どれだけの力を籠めたのよ……。
オスカーの表情は話を聞いている時の笑顔が張り付いたまま、口元とこめかみだけがヒクヒクと震えている。
「……やはり、辞表を提出して正解だった」
「少なくとも……王城に居なければ、不敬で罰せられる心配は減るわね」
先ほどは“どうして辞めてしまったの”って思ったけれど、前言撤回。
こんなにも顔と態度に出てしまうのなら、辞めて良かったのかもしれない。
こんな態度を人前で見せてしまっては、いくら近衛騎士団長とはいえ、ただでは済まないもの。
「来週、王太后陛下の誕生日を祝う祝賀会があるじゃない。そのエスコートをお願い出来ないかと思って、ここに来たの」
本当は、他にもお願いしたいことが色々とある。
実家の伯爵家の窮状を救う為に何かしたいと思いはしても、いざ何から手を付けるか、どう動くかは一人でとても決められるものじゃない。
でも、彼が私の護衛を務めてくれるというのなら、いつでも相談出来るじゃない。
こちらとしては、願ったり叶ったりだ。
「分かった。それ迄にも、どこかに出掛けるようなことがあれば、教えてほしい。私が同行しよう」
「頻繁に呼び出すことになっちゃうけれど、それでも良いの?」
「勿論だ」
持つべきものは親族、血の繋がりって有難いよね。
オスカーは少々過保護が過ぎると思うのだけれど、それも私を心配してくれてのことと思えば、嬉しい限りだ。
幼い頃の私はふとした拍子に別世界のことを口走ってしまって、相当に危なっかしい存在だったと聞いている。
その頃のイメージが、いまだ抜けていないんだろうなぁ。
とにかく、こうして私は頼もしい協力者を得た。
こうなれば、自由に動ける今の立場って……案外、悪くないのかも?