妹に虐げられて魔法が使えない無能王女は、政略結婚でお飾り王太子妃になるはずなのに俺様王太子に溺愛されています
 ルフェーヌはディエゴに部屋まで送ってもらった。ディエゴと手を振ってわかれると、部屋へ入ってデスクに向かう。ルフェーヌはさっそく音属性が書かれているページを読み始める。
 書物は現在使われている単語や言い回しが違っていた。ルフェーヌはディエゴに借りた辞書で調べながら読んだがすぐに読み終わってしまった。
 「あれ、もう終わり?」
 ルフェーヌは目次を見て確認すると、風属性や炎属性はそれぞれ八十ページ以上は書かれている。しかし音属性についての記述は五ページほどしか書かれていなかった。
 ルフェーヌは音属性の記述を読み返していると、気になる事が書かれていた。

 ”音属性を持つ者は相手の声から感情が読める。”
 ”音属性の声や歌には感情が含まれ、この属性を持たない者へも伝わる。特定の相手にだけ感情を伝えることもできる。”
 ”音属性は相手から精神的負荷を与えられた時、音の波動によって相手に頭痛や耳鳴りを起こさせる場合がある。ひどい時には音の波動によって物を破壊する事がある。”

 書物には心当たりがある事がいくつも書かれていた。
 ルフェーヌはアデルと一緒にいるのが苦痛で、ディエゴへは緊張をしすぎて頭痛や耳鳴りを起こしてしまっていた。
 パーティーでアデルのティーカップが割れたのはルフェーヌの音魔法のせいだった。その直後にアデルは激しい頭痛に襲われていた。
 ルフェーヌがディエゴの魅力に反応しているのも音魔法のせいだった。
 式典でディエゴに会った時に意識してしまった事。色香を含ませた魅惑的な声色だった。あの声だけでディエゴの魅惑的的な深みにはまってしまいそうになった。あの声をずっと聞いていたいと思ってしまった。
 初夜の時、あんなに迫られて嫌で逃げるどころか、ルフェーヌが男性に慣れていないためディエゴの色香を受け止められずに逃げ出してしまった。
 公務で孤児院へ行く時にからかわれたのも同じく受け止めきれず、終始照れていた。
 ディエゴの色香がルフェーヌへ伝わり、ルフェーヌはその色香を嬉しく思い、過剰に反応している。
 (ん?)
 ルフェーヌにひとつの疑問が浮かび上がる。
 (それってディエゴ様がわたしを好きで、わたしもディエゴ様を好き、ってこと?)
 ルフェーヌはディエゴを思い浮べる。ディエゴは自信満々で素敵な人だ。ルフェーヌは自信がなく、自分は何もできないと思っている。ルフェーヌはディエゴがそんな自分自身を好きになるのだろうかと疑問に思う。
 (そんなことあるわけないよね)
 ルフェーヌは自分の感情がよく分からなかった。自覚はあるが、認識しないようにしている。
 ルフェーヌは魔法が使えず、無能王女と影で呼ばれていた。ルフェーヌは自分をダメな王女と幼少期から強く思っている。
 さらに母の逝去によってアデルが投げかけた言葉で心に深い傷を負い、さらに自己否定を強くしてしまう。
 自分なんかが、受け入れられるはずがない。好かれるはずがない。ルフェーヌは今も自分の素直に感じる幸せな感情に蓋をし続けている。その蓋は幼少期からの長い年月で固く閉じられてしまっている。
 しかしルフェーヌは固く閉じられた蓋が緩んできている事、その内容物であるルフェーヌの心が少しずつ漏れ出てきている事に気づいていない。
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