部長と私の秘め事
亮平と美奈歩
「……大丈夫です。あれでも一応家族だし、拉致されても亮平が私に〝何か〟する勇気なんてないって分かってました。もしも本当にヤバイ奴なら、私はすでに〝何か〟されていました。一時は同じ家に住んでいたんですから」
「……こういうと彼に悪いけど、疑わしかった事は?」
「いいえ。下着ドロや盗撮とかもありませんでした。本当にヘタレなんですよ」
「そうか……」
もう一度話を聞いて、ようやく尊さんは納得したようだった。
少ししてから、彼は大きな溜め息をついて言った。
「……俺は怖かった」
「…………ぁ…………」
その言葉を聞き、胸の奥をギュッと握られたような気持ちになる。
「……ごめんなさい」
「いいや、朱里が謝る事じゃないし、亮平さんが悪いわけでもない。……俺はずっと前から、お前がストーカーや痴漢に遭ってたと知ってたのに、側で守れなくてもどかしい想いをしていた」
彼が私を見守ってくれていた時期を思い、私は視線を落とす。
「……駄目だな、俺。ようやく手に入れた朱里が大切すぎて、どこかにしまっておきたくなっちまう」
「ふふふ、生憎、ミニサイズじゃないです」
冗談めかして言うと、尊さんも笑ってくれた。
「今回は『大丈夫』と分かっていましたけど、そうじゃない時もあります。その時はすぐ尊さんに助けを求めますから」
「ああ。……本当は呼ぶ距離もないほど、常に側で守りたいんだけどな」
「……気持ちだけ受け取っておきますよ」
本当は私だっていつも尊さんと一緒にいたいけど、現実問題、無理なのは分かっている。
ここで私が甘えてしまったら、尊さんの事だからどうにかしようと考えてしまうだろう。
無理はさせたくない。
可能な範囲で、危険な目に遭わないように私が気をつけていかないと。
そう思って答えたけれど、尊さんはどこか残念そうに笑う。
「……朱里は甘えてくれねぇなぁ……」
「えっ? 甘えてますよ」
「俺がいないと生きていけないぐらい、ズブズブに嵌まってくれればいいのに」
そう言って、彼は一瞬こちらを見て悪戯っぽく笑った。
「もう! ヤンデレですよそれ!」
「ははは! ストーキングしてたし、位置情報も把握してる立派なヤンデレだよ」
「開き直らないでください!」
私たちは軽快なジャズが流れる車内で、笑い合いながら帰路についた。
**
俺――上村亮平は、ハンドルを握りながら何度目になるか分からない溜め息をつく。
まるで失恋したような気持ちだ。
両親が再婚した時から、俺は朱里を可愛いと思っていた。
彼女は滅多に見られない美少女で、胸も大きくて魅力的だ。
さぞ学校ではモテているのだろうと思いきや、あまり人付き合いがないと知って意外に思った。
朱里は、俺の中にある『美人は遊び慣れている』という偏見を覆した。
俺は大学卒業まで実家で暮らしていたが、朱里はあまり家にいなかった記憶がある。
朱里は学校帰りは友達と遊ぶか、バイトに行っていた。
バイト先で客から言い寄られたのが嫌だと言い、途中から裏方の仕事をするようになったが、『ナンパされて嬉しくなかったんだ』と驚いたのを覚えている。
朱里は田村昭人という同級生と付き合っていたが、物凄く好きで堪らないという様子ではなかった。
『モテるのに男に興味がない。彼氏にベタ惚れでもない。なら、朱里は何を望んでいるんだろう?』
次第に俺は彼女が何を考えているのか知りたくなり、観察するようになった。
朱里は飯を食っているだけでも絵になる。
食べる事は好きみたいで、美味そうにパクパク食べている。好き嫌いもほぼない。
小さい口を動かしている朱里をぼんやり見ていると、隣に座っている美奈歩から蹴られる事がたびたびあった。
『みっともなく見とれるな』と言われているのは分かっていたが、気分屋の実妹のやる事なので、『いつもの事』とあしらっていたのが良くなかったようだ。
朱里には『美奈歩はブラコン』と言われたが、可愛く甘えてくる訳ではないし、普通の兄妹のつもりでいた。
美奈歩としても朱里が現れて思うところはあったんだろうが、俺は妹の気持ちの変化に気付けないまま朱里に夢中になっていった。
「……こういうと彼に悪いけど、疑わしかった事は?」
「いいえ。下着ドロや盗撮とかもありませんでした。本当にヘタレなんですよ」
「そうか……」
もう一度話を聞いて、ようやく尊さんは納得したようだった。
少ししてから、彼は大きな溜め息をついて言った。
「……俺は怖かった」
「…………ぁ…………」
その言葉を聞き、胸の奥をギュッと握られたような気持ちになる。
「……ごめんなさい」
「いいや、朱里が謝る事じゃないし、亮平さんが悪いわけでもない。……俺はずっと前から、お前がストーカーや痴漢に遭ってたと知ってたのに、側で守れなくてもどかしい想いをしていた」
彼が私を見守ってくれていた時期を思い、私は視線を落とす。
「……駄目だな、俺。ようやく手に入れた朱里が大切すぎて、どこかにしまっておきたくなっちまう」
「ふふふ、生憎、ミニサイズじゃないです」
冗談めかして言うと、尊さんも笑ってくれた。
「今回は『大丈夫』と分かっていましたけど、そうじゃない時もあります。その時はすぐ尊さんに助けを求めますから」
「ああ。……本当は呼ぶ距離もないほど、常に側で守りたいんだけどな」
「……気持ちだけ受け取っておきますよ」
本当は私だっていつも尊さんと一緒にいたいけど、現実問題、無理なのは分かっている。
ここで私が甘えてしまったら、尊さんの事だからどうにかしようと考えてしまうだろう。
無理はさせたくない。
可能な範囲で、危険な目に遭わないように私が気をつけていかないと。
そう思って答えたけれど、尊さんはどこか残念そうに笑う。
「……朱里は甘えてくれねぇなぁ……」
「えっ? 甘えてますよ」
「俺がいないと生きていけないぐらい、ズブズブに嵌まってくれればいいのに」
そう言って、彼は一瞬こちらを見て悪戯っぽく笑った。
「もう! ヤンデレですよそれ!」
「ははは! ストーキングしてたし、位置情報も把握してる立派なヤンデレだよ」
「開き直らないでください!」
私たちは軽快なジャズが流れる車内で、笑い合いながら帰路についた。
**
俺――上村亮平は、ハンドルを握りながら何度目になるか分からない溜め息をつく。
まるで失恋したような気持ちだ。
両親が再婚した時から、俺は朱里を可愛いと思っていた。
彼女は滅多に見られない美少女で、胸も大きくて魅力的だ。
さぞ学校ではモテているのだろうと思いきや、あまり人付き合いがないと知って意外に思った。
朱里は、俺の中にある『美人は遊び慣れている』という偏見を覆した。
俺は大学卒業まで実家で暮らしていたが、朱里はあまり家にいなかった記憶がある。
朱里は学校帰りは友達と遊ぶか、バイトに行っていた。
バイト先で客から言い寄られたのが嫌だと言い、途中から裏方の仕事をするようになったが、『ナンパされて嬉しくなかったんだ』と驚いたのを覚えている。
朱里は田村昭人という同級生と付き合っていたが、物凄く好きで堪らないという様子ではなかった。
『モテるのに男に興味がない。彼氏にベタ惚れでもない。なら、朱里は何を望んでいるんだろう?』
次第に俺は彼女が何を考えているのか知りたくなり、観察するようになった。
朱里は飯を食っているだけでも絵になる。
食べる事は好きみたいで、美味そうにパクパク食べている。好き嫌いもほぼない。
小さい口を動かしている朱里をぼんやり見ていると、隣に座っている美奈歩から蹴られる事がたびたびあった。
『みっともなく見とれるな』と言われているのは分かっていたが、気分屋の実妹のやる事なので、『いつもの事』とあしらっていたのが良くなかったようだ。
朱里には『美奈歩はブラコン』と言われたが、可愛く甘えてくる訳ではないし、普通の兄妹のつもりでいた。
美奈歩としても朱里が現れて思うところはあったんだろうが、俺は妹の気持ちの変化に気付けないまま朱里に夢中になっていった。