部長と私の秘め事
親友との対峙
「分かんない……」
もう社内ではその話で持ちきりだ。
浮気していた社長を悪く言う人がいれば、尊さんが実は社長の息子だと知って俄然色めき立つ女性社員もいる。これは予想通りだ。
私もずっと落ち着かなく、仕事も上の空になってミスを連発していた。
「ねぇ、気になるのは分かるけど、朱里がそんなに動揺する事?」
恵に尋ねられ、私は思わず彼女を見つめる。
(知ってるんでしょ?)
言いたいけれど、今はまだ言えない。……だから……。
「……恵、今日ちょっと……、話せる?」
私が強張った表情で言ったからか、彼女も何かピンときたようだった。
「いいよ。いつもの店予約しとく?」
「うん……」
恵と行く〝いつもの店〟は、会社近くにあるお気に入りの肉バルだ。
でも今ばかりは、親友と飲みと言われても素直に喜ぶ事はできなかった。
(ろくに心の準備ができないまま、恵と話す事になっちゃった)
私はなんとも言えない感情になったまま、トイレに入ったタイミングで尊さんにメッセージを送っておく事にした。
【ちょっと流れで、恵と話す事になりました。会社での騒ぎから……なんだけど、きっと尊さんの事を話すと思います。全部話すわけじゃないけど、言ったら駄目な事があったら教えてください】
すぐに返事はこないだろうから、メッセージを送ったあと、すぐにフロアに戻る。
席につく前、チラッと恵を見ると、いつも通りにデスクに向かい、企画書を作っていた。
(気まずくなったらやだな……)
私は心の中で溜め息をつき、気持ちを切り替えて仕事に戻った。
**
私と恵は十八時を過ぎてから退勤した。
〝いつもの店〟は会社から歩いてすぐなので、十八時半の予約でも十分間に合う。
トイレに寄って個室でメッセージを確認すると、尊さんから連絡が入っていた。
【いってらっしゃい。事情を説明する役が必要だったら、召喚してくれ】
(ふふっ、召喚って)
私はトイレの個室にいるのに、声を出して笑ってしまいそうになる。
「お待たせ」
そのあと個室から出ると恵に声を掛け、手を洗ってリップを直した。
「ん、行こっか」
恵はいつも通りの表情で言い、先に歩き始めた。
私たちはいつ通りに話しながら歩き、件の肉バルに入る。
席に案内されたあとはコートを脱ぎ、水を飲んでからドリンクメニューを開いた。
「シャンディーガフにしよー」
「私はビール」
決めたあとにオーダーし、さて……、という雰囲気になる。
「朱里、リゾット好きだから頼むでしょ? あとはいつもの牛のカルパッチョとトリュフのオムレツ」
「うんうん」
恵が食べ物の話題を振ってくれたので、私は前のめりになってメニューを覗き込む。
いつものように相談して、あとはシーザーサラダとジェノベーゼも頼む事にした。
「かんぱーい」
飲み物が運ばれてきたあとにフードメニューのオーダーをし、恵とグラスを合わせる。
シャンディーガフはビールとジンジャーエールを混ぜたもので、ビール単体よりスイスイ飲めるので好きだ。
「はぁ……」
恵は喉を鳴らしてビールを飲み、テーブルの上にグラスを置いて私を見る。
その大きな目を見て、ドキッとした。
恵は格好いい。学生の時はショートヘアだったのもあり、かなりボーイッシュだった。
でも今はサラッとした前髪なしの前下がりボブに、顔立ちに似合うコスメを使ってしっかりメイクをし、できる女感を出している。
今日はマスタードイエローのニットにネイビーのタックパンツを穿いていて、ビシッと決まっている。
「恵、学生時代と比べて、随分女性らしくなったよね」
思わずそう言うと、彼女はニヤッと笑った。
「うまく〝擬態〟できてるでしょ」
キスの件以降、その手の話はあまりしなかった。
もう社内ではその話で持ちきりだ。
浮気していた社長を悪く言う人がいれば、尊さんが実は社長の息子だと知って俄然色めき立つ女性社員もいる。これは予想通りだ。
私もずっと落ち着かなく、仕事も上の空になってミスを連発していた。
「ねぇ、気になるのは分かるけど、朱里がそんなに動揺する事?」
恵に尋ねられ、私は思わず彼女を見つめる。
(知ってるんでしょ?)
言いたいけれど、今はまだ言えない。……だから……。
「……恵、今日ちょっと……、話せる?」
私が強張った表情で言ったからか、彼女も何かピンときたようだった。
「いいよ。いつもの店予約しとく?」
「うん……」
恵と行く〝いつもの店〟は、会社近くにあるお気に入りの肉バルだ。
でも今ばかりは、親友と飲みと言われても素直に喜ぶ事はできなかった。
(ろくに心の準備ができないまま、恵と話す事になっちゃった)
私はなんとも言えない感情になったまま、トイレに入ったタイミングで尊さんにメッセージを送っておく事にした。
【ちょっと流れで、恵と話す事になりました。会社での騒ぎから……なんだけど、きっと尊さんの事を話すと思います。全部話すわけじゃないけど、言ったら駄目な事があったら教えてください】
すぐに返事はこないだろうから、メッセージを送ったあと、すぐにフロアに戻る。
席につく前、チラッと恵を見ると、いつも通りにデスクに向かい、企画書を作っていた。
(気まずくなったらやだな……)
私は心の中で溜め息をつき、気持ちを切り替えて仕事に戻った。
**
私と恵は十八時を過ぎてから退勤した。
〝いつもの店〟は会社から歩いてすぐなので、十八時半の予約でも十分間に合う。
トイレに寄って個室でメッセージを確認すると、尊さんから連絡が入っていた。
【いってらっしゃい。事情を説明する役が必要だったら、召喚してくれ】
(ふふっ、召喚って)
私はトイレの個室にいるのに、声を出して笑ってしまいそうになる。
「お待たせ」
そのあと個室から出ると恵に声を掛け、手を洗ってリップを直した。
「ん、行こっか」
恵はいつも通りの表情で言い、先に歩き始めた。
私たちはいつ通りに話しながら歩き、件の肉バルに入る。
席に案内されたあとはコートを脱ぎ、水を飲んでからドリンクメニューを開いた。
「シャンディーガフにしよー」
「私はビール」
決めたあとにオーダーし、さて……、という雰囲気になる。
「朱里、リゾット好きだから頼むでしょ? あとはいつもの牛のカルパッチョとトリュフのオムレツ」
「うんうん」
恵が食べ物の話題を振ってくれたので、私は前のめりになってメニューを覗き込む。
いつものように相談して、あとはシーザーサラダとジェノベーゼも頼む事にした。
「かんぱーい」
飲み物が運ばれてきたあとにフードメニューのオーダーをし、恵とグラスを合わせる。
シャンディーガフはビールとジンジャーエールを混ぜたもので、ビール単体よりスイスイ飲めるので好きだ。
「はぁ……」
恵は喉を鳴らしてビールを飲み、テーブルの上にグラスを置いて私を見る。
その大きな目を見て、ドキッとした。
恵は格好いい。学生の時はショートヘアだったのもあり、かなりボーイッシュだった。
でも今はサラッとした前髪なしの前下がりボブに、顔立ちに似合うコスメを使ってしっかりメイクをし、できる女感を出している。
今日はマスタードイエローのニットにネイビーのタックパンツを穿いていて、ビシッと決まっている。
「恵、学生時代と比べて、随分女性らしくなったよね」
思わずそう言うと、彼女はニヤッと笑った。
「うまく〝擬態〟できてるでしょ」
キスの件以降、その手の話はあまりしなかった。