部長と私の秘め事

三人での会話

「あの激重感情の篠宮さんが、朱里を雑に扱うなんてないと思うけど、何かちょっとでも嫌な事があったら私に言いなよ? 『悪い』とか思わなくていいから、親友として相談に乗らせて。朱里が知らない時期の篠宮さんと会っていた分、彼について何か言えるかもしれないし」

「うん、ありがとう」

 そのあと、私たちはデートに良さそうな場所について話した。

 二人で魅力的だと思うスポットや、行ってみたい温泉、観光地、都道府県などについて話すと、楽しくなって尊さんが来たのにも気づかないほどだった。

「お疲れ」

 二人でスマホを覗き込んでキャッキャしていた時、上から声が降ってくる。

「あっ、尊さん。こっちにどうぞ」

 私は自分の席の隣を示す。

 彼が来ると分かった時点で、荷物はすでに除けてあった。

「サンキュ」

「篠宮さん、ドリンクメニューどうぞ」

 恵に「部長」ではなく「篠宮さん」と呼ばれ、彼はメニューを受け取りつつ軽く瞠目する。

「……そっか。そういう感じか」

 そして、納得がいったように小さく笑った。

「俺、ウーロン茶」

 尊さんはチラッとドリンクメニューを見てから即決し、店員に注文する。

「篠宮さん、食べたい物があったら自分で注文してくださいね。あと、私たちは割り勘のつもりで控えめに注文してましたが、篠宮さんの奢りという事で遠慮なく食べます」

 恵の図々しいとも言える言葉を聞いても、尊さんは「ははっ」と笑うだけだった。

「どうぞ遠慮せず食ってくれ」

 そのあと三人で食べたい物を注文したあと、再度三人で「お疲れ様」と乾杯した。

「……で、二人の話は解決したのか?」

 尊さんが切り出し、私はコクンと頷く。

「二十代の篠宮さんが、どんだけ病んでたかは話してませんけど、お互い知ってる事を話して状況を把握しました」

 恵の言葉を聞き、尊さんはじっとりとした目で彼女を見る。

「中村さん、君ね……。割と……、言うね……」

「あはは! もう開き直りましたから」

 恵はケロッと明るく言い、手をヒラヒラと振る。

 その様子を見て、尊さんは微笑みながら溜め息をついた。

「……まぁ、良かったよ。俺のやってた事は非常識だったし、中村さんを利用して二人の友情に亀裂が入ったらどうしようとか、悶々としてた」

 やっぱりそう思ってたか。

「大丈夫ですよ。流れ上、尊さんが責任を感じるのは仕方ないですけど、私たち二十六歳ですよ? 成熟しきった……とは言えませんけど、ちゃんと話し合える大人で、親友同士です」

 私が言うと、尊さんは頷いてからウーロン茶を飲んだ。

「女の友情は固いな」

「そうですよ。篠宮さんが首を突っ込む前からの仲ですから」

「中村さん……、当たり強いのヤメテ……」

 尊さんがしょんぼり顔で言うものだから、私たちはつい顔を見合わせて笑ってしまった。

「それより、付き合ってるならちゃんとしたデートに誘ってあげてくださいよ」

 恵に言われ、尊さんは申し訳なさそうな顔で私を見た。

「すまん。ちゃんとする」

「や、いいんですよ! 付き合ってからバタバタしてたのは、私が一番分かってますし。こないだ横浜帰りに言ってましたけど、そのうち温泉とかランドとか色々行くんですもんね?」

「ああ、どこでも連れて行く」

「言質とりましたからね」

 恵はそう言ってからグラスを傾け、二杯目のビールを呷る。

 彼女はテーブルにグラスを置いてから、渦中の尊さんに話題を振った。

「それはそうと、会社では噂の的ですけど大丈夫ですか? 私たちの心配をしてる場合じゃないでしょう」

「あー……」

 彼は少し上を向いて考える素振りを見せる。

「……まぁ、〝上〟の話し合いではなんとかなる……感じかな」

「前に予想していたような感じになります?」

 私が尋ねると、尊さんは「多分な」と頷いた。

 詳細を言わないのは〝外〟で不用意に社内の事を言いたくないからだろう。

「篠宮さんは大丈夫なんですか? 色々言われてるじゃないですか」

「まーなぁ……」

 今日は会社で胸糞悪い話を聞いてしまった。

 社食から戻る時、他部署の男性社員がこんな会話をしていたのだ。
< 140 / 313 >

この作品をシェア

pagetop