部長と私の秘め事
「どういう変人なんですか?」

 尋ねると、尊さんはスクロールする手を止めて、斜め上の空間を見て考えた。

「うーん……、分かりやすい変人じゃねぇけどな。こうやってカフェとかで会話する分には、十分普通に受け答えできる。芸術家タイプなのかな……。いや、こう言ったら芸術家が変人だっていう事になりかねないから、語弊があるけど」

 うん……、なんか尊さんがスパッと言えないぐらいには、込み入った人みたいだ。

「具体的には?」

「俺は『レンコン』って言われたなぁ……」

「レンコン!?」

 訳が分からなくて、私は声を上げる。

「ちょいちょい、『お前ってレンコンだよな』って会話の途中で挟んだり、久しぶりに会ったら『やっぱりレンコンだわ』って言われた」

「その心は」

 私は謎かけのようにオチを求めてしまう。

「泥の中で耐え、いずれ美しい花を咲かせるでしょう」

「おおー!」

 彼の答えを聞き、私は思わずパチパチと拍手する。

「こういう感じで、関わった人を端的に……端的すぎる表現で表す時があるし、虫とかゲテモノもグイグイチャレンジするタイプだな。……一緒にフィリピンに行った時、あいつバロット食ってたな……。俺は無理だった……」

 そう言って、彼はガクリと項垂れる。

「バロットって?」

 目を瞬かせると、恵が渋面で言う。

「ほら、あの卵が孵化する寸前のアヒルの雛と卵が混じったやつ」

「おっほ」

 理解した瞬間、私は変な声を出していた。

「あいつ、臭豆腐とかシュールストレミングとか、なんでもいくんだよ。くせぇったらもう……」

「凄いチャレンジャーですね」

 素直な感想を述べると、尊さんはうんうんと頷いた。

「『世界は広すぎて、俺は世界の一億分の一も理解してない。だから知らないものはとりあえず全部体験しておく』って考えだ。その姿勢は買うんだけどな……」

 尊さんは遠い目をし、再びスマホをスクロールし始める。

 チラッと見たところ、彼のアルバムはジャンル別に写真を分けてるけど、凄く探さなければならないぐらい、涼さんとの写真がないみたいだ。

「あいつ、FXを学んでた時も、チャートを『ヒュッときてパーン』とか、大阪のおばちゃんみたいな表現で読むから、こっちもついてくのに大変だ。……まぁ、付き合いが長いから慣れてきたけど」

 ……うん。なんかフィーリングで生きてそうなところは、尊さんが芸術家タイプって言ったのが分かる気がする。

「お、あった。これこれ」

 そう言って尊さんがスマホを差しだし、私は前のめりになって見る。

「わ! イケメン!」

 写真は釣りをしている現場らしく、涼さんが大物を持って笑っている姿を写したものだ。

 尊さんもイケメンだけど、涼さんはタイプの違うイケメンだ。

 尊さんがちょっと影のある、クールで孤高な狼タイプだとすれば、涼さんは華のあるライオンタイプだ。

 写真は学生時代らしく髪は金髪で、笑顔も相まって余計にキラキラして見える。

 少女漫画みたいに、周りに赤い薔薇のエフェクトがあっても頷ける感じだ。

「凄い美形ですね……。にゅっ」

 放心してスマホの画面を見ていると、尊さんが片手で私の顎を掴んできた。指で両頬を押され、口がタコのように出てしまう。

「……あんまり褒めない」

 尊さんにジロッと睨まれた私は、嬉しくなってニヤァ……と笑ってしまった。

「嫉妬してます?」

「してるよ」

 彼はチッと舌打ちしたあと、私の頬をモチモチと弄んだあとに手を放す。

「あー、はいはい」

 恵は呆れたように言ったあと、しげしげと涼さんの写真を見た。

「……でも本当に美形ですね。これは二次元だわ」

「でもシュールストレミングいくんだぜ。すげぇだろ」

「臭いイケメンって貴重かもですね」

 恵は真顔で頷く。

「まー、あいつも周りからどう思われるか全然気にしてねぇな。こんな顔で三日月グループのボンボンだから、子供の頃から嫌ってほどモテて、今はもうモテとかまったく意識してねぇんだよ。むしろ原っぱで虫を追いかけてるタイプだ」

「虫!」

 あまりのギャップに、私は手を打ち鳴らして笑ってしまう。

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