部長と私の秘め事
「いやー、お会いしてみたいです。勿論、尊さんが心配するような意味じゃなくて」
私がそう言うと、尊さんも嬉しそうに微笑んだ。
「変人だけど悪い奴じゃねぇし、慣れたら面白いから、俺としてもぜひ会ってもらいたいよ。数少ない友達だし」
すると恵が突っ込む。
「篠宮さん、聞いてるこっちが寂しくなるから『数少ない友達』なんて言わないでくだささいよ」
「悪い。……いや、海外も含めるともうちょっといるけど」
「海外!」
私は思わず復唱して目を見開く。
「……あ、そっか。例の海外旅行の流れで」
「そうそう、色々習うのにそこそこ長く滞在してるから、顔なじみができるんだよ」
ハッとして恵を見ると、よく分かっていない顔をしていたので、私は慌てて「ごめん」と言って、尊さんがダンスを踊れる事などをサラッと話した。
「ふーん、歌って踊れる部長ですか」
「ちょ……っ、恵! 私、芸人さん思いだした! 係長だけど!」
「「ぶはっっ」」
三人同時に同じ芸人さんを想像して、しばし震えながら笑う。
笑いながら、この三人でたわいのない会話をして笑顔になれる事が、とても嬉しかった。
(良かった)
微笑んだ私は、「リゾットたーべよ」と明るく言ってスプーンを持った。
モリモリ食べていた時、恵が私を見て半眼になり、尊さんに言う。
「朱里、よく食べるでしょう」
いきなり何を仰る。
「そうだな。や、食わねぇより全然いいから、健康的でいいと思うけど」
ちょっと気にしてはいたので、一瞬ピクッとしてしまったけれど、尊さんの返事を聞いて彼がかつて言っていた事を思いだした。
『俺の母親があんまり食えない人だったんだよ。線が細くてか弱いイメージの人だった。……だからかな、お前が美味そうにパクパク食べてる姿を見ると、安心するんだよ。もっと食わせたい』
年末におうちデートしていた時の事で、あの時の尊さんの少し寂しそうな顔は胸に残っている。
だから、わざと茶化すように言った。
「それが何か? 食べ物に感謝しておいしーくいただきますが」
こっくりとした濃厚なチーズのリゾットを食べつつ、そんな事を言うものだから、二人とも横を向いて噴き出した。
ひとしきり笑ってから恵が言う。
「篠宮さん、朱里の手料理食べた事あります?」
尋ねられて、尊さんは軽く瞠目して私を見た。
「……そういえば、一から十まで手作りっていうのはないかもな。合同作品ならあるけど」
「ですね」
尊さんの家に行った時、彼は私一人に料理を作らせたりしない。
そもそも家政婦さんがいるから料理をする機会はあまりないけれど、それでも台所に立つ時があるなら二人で……だ。
『いつか朱里の手料理食ってみてぇな』と言われた事はあるけど、私がソロで料理した事はまだない。
「……なんか問題あった? 私、恵と何回もお泊まりしてご飯作ってるけど、……そんなに不味かった?」
不安になって恵を見たけど、彼女はちょっと言いにくそうに視線を逸らし、溜め息をついてから言う。
「あんた、なんでも〝メガ〟がつくでしょ」
「めが?」
尊さんは瞬きをし、よく分からないというように私を見る。
「この子が作る料理、美味しいんですよ。昔、キッチンで働いていた事もあったし。でも量が多い! まともに全部食べたらお腹がはち切れて死にます!」
「しっ、死なないよ!」
私は焦って顔の前でパタパタと手を振る。
そんな私に向かって、恵はビシッと指をさしてきた。
「傷つけると思って今まで言わなかったけど、あんたは人より食べるタイプだと自覚したほうがいい。お泊まりで〝メガ炒飯〟を出された時、美味しかったけど食べきれなくて、夜に苦しくて眠れない。……って事が結構あったんだから……」
「ええ……。ご、ごめん……。初耳……」
私は呆然として謝る。
「私は苦しんでるのに、朱里はデザートのコンビニスイーツ食べてるでしょ? しかもお腹が膨らんで太ったらまだ納得できるのに、次の日ぺたんこに戻ってるんだよ? 『……化け物』って思ったよね」
「……っ、化け物……っ!」
とうとう尊さんが横を向いて背中を丸め、ヒイヒイ笑い出した。
私がそう言うと、尊さんも嬉しそうに微笑んだ。
「変人だけど悪い奴じゃねぇし、慣れたら面白いから、俺としてもぜひ会ってもらいたいよ。数少ない友達だし」
すると恵が突っ込む。
「篠宮さん、聞いてるこっちが寂しくなるから『数少ない友達』なんて言わないでくだささいよ」
「悪い。……いや、海外も含めるともうちょっといるけど」
「海外!」
私は思わず復唱して目を見開く。
「……あ、そっか。例の海外旅行の流れで」
「そうそう、色々習うのにそこそこ長く滞在してるから、顔なじみができるんだよ」
ハッとして恵を見ると、よく分かっていない顔をしていたので、私は慌てて「ごめん」と言って、尊さんがダンスを踊れる事などをサラッと話した。
「ふーん、歌って踊れる部長ですか」
「ちょ……っ、恵! 私、芸人さん思いだした! 係長だけど!」
「「ぶはっっ」」
三人同時に同じ芸人さんを想像して、しばし震えながら笑う。
笑いながら、この三人でたわいのない会話をして笑顔になれる事が、とても嬉しかった。
(良かった)
微笑んだ私は、「リゾットたーべよ」と明るく言ってスプーンを持った。
モリモリ食べていた時、恵が私を見て半眼になり、尊さんに言う。
「朱里、よく食べるでしょう」
いきなり何を仰る。
「そうだな。や、食わねぇより全然いいから、健康的でいいと思うけど」
ちょっと気にしてはいたので、一瞬ピクッとしてしまったけれど、尊さんの返事を聞いて彼がかつて言っていた事を思いだした。
『俺の母親があんまり食えない人だったんだよ。線が細くてか弱いイメージの人だった。……だからかな、お前が美味そうにパクパク食べてる姿を見ると、安心するんだよ。もっと食わせたい』
年末におうちデートしていた時の事で、あの時の尊さんの少し寂しそうな顔は胸に残っている。
だから、わざと茶化すように言った。
「それが何か? 食べ物に感謝しておいしーくいただきますが」
こっくりとした濃厚なチーズのリゾットを食べつつ、そんな事を言うものだから、二人とも横を向いて噴き出した。
ひとしきり笑ってから恵が言う。
「篠宮さん、朱里の手料理食べた事あります?」
尋ねられて、尊さんは軽く瞠目して私を見た。
「……そういえば、一から十まで手作りっていうのはないかもな。合同作品ならあるけど」
「ですね」
尊さんの家に行った時、彼は私一人に料理を作らせたりしない。
そもそも家政婦さんがいるから料理をする機会はあまりないけれど、それでも台所に立つ時があるなら二人で……だ。
『いつか朱里の手料理食ってみてぇな』と言われた事はあるけど、私がソロで料理した事はまだない。
「……なんか問題あった? 私、恵と何回もお泊まりしてご飯作ってるけど、……そんなに不味かった?」
不安になって恵を見たけど、彼女はちょっと言いにくそうに視線を逸らし、溜め息をついてから言う。
「あんた、なんでも〝メガ〟がつくでしょ」
「めが?」
尊さんは瞬きをし、よく分からないというように私を見る。
「この子が作る料理、美味しいんですよ。昔、キッチンで働いていた事もあったし。でも量が多い! まともに全部食べたらお腹がはち切れて死にます!」
「しっ、死なないよ!」
私は焦って顔の前でパタパタと手を振る。
そんな私に向かって、恵はビシッと指をさしてきた。
「傷つけると思って今まで言わなかったけど、あんたは人より食べるタイプだと自覚したほうがいい。お泊まりで〝メガ炒飯〟を出された時、美味しかったけど食べきれなくて、夜に苦しくて眠れない。……って事が結構あったんだから……」
「ええ……。ご、ごめん……。初耳……」
私は呆然として謝る。
「私は苦しんでるのに、朱里はデザートのコンビニスイーツ食べてるでしょ? しかもお腹が膨らんで太ったらまだ納得できるのに、次の日ぺたんこに戻ってるんだよ? 『……化け物』って思ったよね」
「……っ、化け物……っ!」
とうとう尊さんが横を向いて背中を丸め、ヒイヒイ笑い出した。