部長と私の秘め事
「恵ーっ! 酷いな! 化け物は酷いな!」
私はプンスコ怒ったふりをする。
「だってさぁ……。お腹パンパンなら『あぁ、朱里もお腹いっぱいだけど頑張って食べてるんだな』って思えるけど、お腹平らなんだよ? しかもあんた太らないし、いつまでもナイスバディだし、どうなってんのって思うでしょ」
そう言われるとなんだか怒りづらくなり、私は振り上げた拳を下げていく。
「この腹の中で、特別な消化液でも出てるのかね」
尊さんが私のお腹をポンポンと撫でる。
「ギルティ!」
私はとっさに彼の手をペチンッと叩いた。
その途端、尊さんと恵が弾かれたように笑った。もー。
ひとしきり笑ったあと、恵が尋ねてきた。
「今さらだけど、朱里って私と篠宮さんが会っていた事に妬いてない?」
「ん? んー……」
そういえばそうだな、と思い、素直な気持ちを口にした。
「即答するなら全然妬いてない。……多分、恵の気持ちを信じてるからかな。恵は魅力的だけど、男の人に興味を持ったり、何かされて照れた姿って見た事ないから。相手が尊さんであっても、惹かれる可能性は凄く低いんじゃ……と思ってる」
答えると、恵は嬉しそうに微笑む。
「そう思ってもらえたなら良かった。っていうか、万が一でも朱里に妬かれてたらやだな、って思ってたから、スッキリした」
すると尊さんも自分の意見を言った。
「こう言ったら悪いけど、俺も中村さんの事は女性として見てない。長年〝協力者〟として接してきたけど、それ以上の気持ちはない」
「安心しました。女として見られてたら、『キモ……』ってなると思うので」
恵が忌憚ない意見を言ったあと、尊さんが軽く挙手した。
「中村さん、失礼な質問かもしれないけど、いい?」
「どうぞ」
恵は牛肉のステーキをモグモグしながら頷く。
「デリケートな話題だけど、中村さんは恋愛対象が女性?」
尋ねられて、恵は腕を組みしばし考える。
「んー……。今までろくに恋愛してないから分からないんですが、女性限定ではない気がします。朱里は雁字搦めになっていた私の価値観を変えてくれたから特別なんです。私の心を救ってくれる人がいたら、男性でも特別に思うかもしれませんけど、今のところ、そういう人はいませんね」
「そっか。いや、ただ知りたかっただけなんだ。不快に思ったらすまない」
「全然です。むしろ気を遣われるほうが気持ち悪いので、なんかあったらストレートに聞いてくださいよ。……とはいえ、私の気持ちを知ってるのはこの場にいる二人だけなので、クローズドな場所限定ですが」
雰囲気がまじめな感じになったので、私はあえて明るいほうに水を向ける。
「じゃあ、いつか涼さんとダブルデートになったら、四人で虫網持って原っぱ行こうか!」
「朱里、セミファイナル食らって凄い悲鳴上げてたじゃない」
「あれはびっくりしたから」
「セミファイナルは怖ぇよな。『うおっ』てなる」
まさか尊さんまで乗ってくれるとは思わず、私はクスクス笑う。
「尊さんがセミにびっくりしてるの想像するだけで、一週間ぐらいは思いだし笑いできそうです」
「お前なぁ……」
そんなたわいのない話をしながら、隠し事のなくなった私たちは楽しく食事をした。
帰りは一度会社に戻ってから、彼の車で二人とも送ってもらった。
マンションの前に車が着き、私はお礼を言って車から降りる。
「じゃあな」
尊さんは運転席の窓を開けて言い、「チャンス!」と思った私は左右をキョロキョロし、人に見られないように注意しながら、彼の頬を両手で包んでチュッとキスをした。
「……お、おやすみなさい。また明日」
踵を返して玄関のドアに向かうと、後ろから声を掛けられた。
「おい」
足を止めた私は、真っ赤になってソロリと振り向く。
(……夜闇に紛れて、赤面してるのバレませんように……)
尊さんは運転席から少しの間私を見ていたけれど、やがてクスッと笑って言った。
「週末、〝お返し〟するからな」
「……う、受けて立ちます」
小さな声で言うと、尊さんはククッと笑ってから窓を閉め、車を発進させた。
「……はぁ、濃い一日だった」
これでまだ月曜日だって言うんだから、一週間は長すぎる。
(でも好きな人と親友が職場にいるから頑張れる)
エントランスに入った私は、ニヤニヤしながらエレベーターのボタンを押したのだった。
**
私はプンスコ怒ったふりをする。
「だってさぁ……。お腹パンパンなら『あぁ、朱里もお腹いっぱいだけど頑張って食べてるんだな』って思えるけど、お腹平らなんだよ? しかもあんた太らないし、いつまでもナイスバディだし、どうなってんのって思うでしょ」
そう言われるとなんだか怒りづらくなり、私は振り上げた拳を下げていく。
「この腹の中で、特別な消化液でも出てるのかね」
尊さんが私のお腹をポンポンと撫でる。
「ギルティ!」
私はとっさに彼の手をペチンッと叩いた。
その途端、尊さんと恵が弾かれたように笑った。もー。
ひとしきり笑ったあと、恵が尋ねてきた。
「今さらだけど、朱里って私と篠宮さんが会っていた事に妬いてない?」
「ん? んー……」
そういえばそうだな、と思い、素直な気持ちを口にした。
「即答するなら全然妬いてない。……多分、恵の気持ちを信じてるからかな。恵は魅力的だけど、男の人に興味を持ったり、何かされて照れた姿って見た事ないから。相手が尊さんであっても、惹かれる可能性は凄く低いんじゃ……と思ってる」
答えると、恵は嬉しそうに微笑む。
「そう思ってもらえたなら良かった。っていうか、万が一でも朱里に妬かれてたらやだな、って思ってたから、スッキリした」
すると尊さんも自分の意見を言った。
「こう言ったら悪いけど、俺も中村さんの事は女性として見てない。長年〝協力者〟として接してきたけど、それ以上の気持ちはない」
「安心しました。女として見られてたら、『キモ……』ってなると思うので」
恵が忌憚ない意見を言ったあと、尊さんが軽く挙手した。
「中村さん、失礼な質問かもしれないけど、いい?」
「どうぞ」
恵は牛肉のステーキをモグモグしながら頷く。
「デリケートな話題だけど、中村さんは恋愛対象が女性?」
尋ねられて、恵は腕を組みしばし考える。
「んー……。今までろくに恋愛してないから分からないんですが、女性限定ではない気がします。朱里は雁字搦めになっていた私の価値観を変えてくれたから特別なんです。私の心を救ってくれる人がいたら、男性でも特別に思うかもしれませんけど、今のところ、そういう人はいませんね」
「そっか。いや、ただ知りたかっただけなんだ。不快に思ったらすまない」
「全然です。むしろ気を遣われるほうが気持ち悪いので、なんかあったらストレートに聞いてくださいよ。……とはいえ、私の気持ちを知ってるのはこの場にいる二人だけなので、クローズドな場所限定ですが」
雰囲気がまじめな感じになったので、私はあえて明るいほうに水を向ける。
「じゃあ、いつか涼さんとダブルデートになったら、四人で虫網持って原っぱ行こうか!」
「朱里、セミファイナル食らって凄い悲鳴上げてたじゃない」
「あれはびっくりしたから」
「セミファイナルは怖ぇよな。『うおっ』てなる」
まさか尊さんまで乗ってくれるとは思わず、私はクスクス笑う。
「尊さんがセミにびっくりしてるの想像するだけで、一週間ぐらいは思いだし笑いできそうです」
「お前なぁ……」
そんなたわいのない話をしながら、隠し事のなくなった私たちは楽しく食事をした。
帰りは一度会社に戻ってから、彼の車で二人とも送ってもらった。
マンションの前に車が着き、私はお礼を言って車から降りる。
「じゃあな」
尊さんは運転席の窓を開けて言い、「チャンス!」と思った私は左右をキョロキョロし、人に見られないように注意しながら、彼の頬を両手で包んでチュッとキスをした。
「……お、おやすみなさい。また明日」
踵を返して玄関のドアに向かうと、後ろから声を掛けられた。
「おい」
足を止めた私は、真っ赤になってソロリと振り向く。
(……夜闇に紛れて、赤面してるのバレませんように……)
尊さんは運転席から少しの間私を見ていたけれど、やがてクスッと笑って言った。
「週末、〝お返し〟するからな」
「……う、受けて立ちます」
小さな声で言うと、尊さんはククッと笑ってから窓を閉め、車を発進させた。
「……はぁ、濃い一日だった」
これでまだ月曜日だって言うんだから、一週間は長すぎる。
(でも好きな人と親友が職場にいるから頑張れる)
エントランスに入った私は、ニヤニヤしながらエレベーターのボタンを押したのだった。
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