部長と私の秘め事
実家に挨拶
けれどそうしてもらったほうが安心だと思って、すぐ頷いた。
「はい! ぜひ」
《俺、先に店に入って大人しくしてるから、とりあえず二人で話してくれ。何かあった時のための保険だと思ってほしい》
「はい。めっちゃ心強いです」
そこまで話したあと、尊さんは大きめの溜め息をついた。
《……悪かったな。前に六本木で彼とすれ違った時、つい嫉妬して爆弾を放り投げた。二人はあれで別れるだろうと思ったし、俺も恋敵に一矢報いられたし、朱里もスッキリしたと思ってた》
確かに、めっちゃスッキリした。
《……でも田村クンの気持ちの矛先が、朱里に向かう事まで考えられなかった。……何があっても守るけど、まさかマンションに入り込むとは……》
彼はかなり自己嫌悪に陥ってるみたいで、私は慌ててフォローした。
「そこ、尊さんが反省するところじゃないでしょう。確かにあの時はスカッとしました。でも、あれが理由で別れるかどうかは昭人と加代さんの問題です。二人がどこで出会ったか知りませんが、昭人は彼女に惹かれて結婚しようと思った。……でも、加代さんが何をしていたのか見抜けなかったのは、彼の責任です」
私は自分の言った事は、あまり間違えていないと思っている。
確かに尊さんの暴露が原因になったかもしれないけど、二人がいつ何が原因で別れるかなんて、誰も分からないものだ。
「ぶっちゃけ、不倫してた加代さんが悪いですし、彼女さえ身綺麗だったら二人は別れなかったでしょう。それにあの事を知っても、二人が真剣に愛し合っていたなら結末は違っていた。だから本当に彼らの問題であって、こっちは知ったこっちゃないんです」
鼻息荒く言うと、尊さんはクスッと笑った。
《サンキュ》
お礼を言われ、私はどや顔で胸を張る。
「いつでも頼ってください。泣きたい時は胸を貸しますよ」
《胸を貸してもらうのに、朱里ポイント貯めねぇとな》
「やだ。尊さんだったら、めっちゃポイ活してすぐに高ポインターになりそう」
《ポイントサイト越しの高額買い物も辞さないし、毎日一万歩は歩く》
「あははは! ガチのやつだ!」
《そんでもって、高品質の朱里サービスをじゃんじゃんしてもらいてぇな。使う時はポイントを湯水のように使ってやる》
「んひひひひ」
私は笑いすぎて変な声を漏らし、ソファの上に転がる。
尊さんと軽口を叩き合える事自体が楽しいし、彼がポイ活してると考えるだけで、おかしくて堪らない。
気がつくと、昭人に家まで押しかけられたモヤモヤが、少し軽くなっていた。
私は安堵に似た溜め息をつき、微笑んでお礼を言う。
「ありがとうございます。不安だったの晴れました」
《ん、なら何より。明後日、緊張するだろうけど、同じ空間にいるから堂々としてろよ。田村クンが無理強いしてきたら、すぐ行く。目標は二度と今回のような事が起きないように、彼に納得してもらい円満に完全にお別れする事》
「はい」
私は尊さんからミッションを出され、ビシッと背筋を伸ばして頷いた。
「明日は上村家にお邪魔しないとだし、全部終わったらちょっとゴージャスなデートしような」
「やった!」
素直に喜ぶと、尊さんは電話の向こうでクスクス笑っていた。
**
翌日、尊さんは花束を持って私の家にやってきた。
「何ですか!? これ!」
花束はピンクを基調としているけれど、くすんだピンクを主体にしているので甘すぎず大人っぽい。
加えてグリーンがかった白のスプレーバラや白とピンクが混じったシルバーデイジー、毛糸で作ったボンボンのようなピンクのピンポンマム、フワフワッとしたスモークグラスなどで花束が構成されていた。
「すごーい! 可愛い! お洒落! どうしたんですか? 非誕生日?」
思わず大好きな『不思議の国のアリス』ネタを披露してしまったが、尊さんは笑って首を横に振る。
「そう言いたかったけど、昨日飲み会も含め色々嫌な思いをしただろうから、明るい気持ちになってほしいと思って」
ああもう! 速水クオリティ!
「好き!!」
私は花束をテーブルの上に置き、尊さんにギュッと抱きついた。
「俺も好きだよ」
彼は私を抱き締め返し、少し顔を離すと甘く微笑み、チュッチュッと優しいキスをくれた。
もうそれだけで嬉しくて堪らなくなった私は、彼の胸元に顔を埋めてぐりぐりと額を押しつける。
「……しゅき……。しゅきぴすと」
「お、最上級きたな」
語彙力がなくなってとろけた私を見て笑った尊さんは、「花瓶あるか?」と尋ねてくる。
それを聞き、私はハッと顔を上げた。
「……な、ないです……。たまに一輪だけ買って、百均で買った一輪挿しに飾る事はあるんですが」
こんな立派な花束を飾るに相応しい、お洒落な花瓶は持っていない。
「……と思って奥様、なんとここに花瓶が。イマナラナント」
彼が少し高めの声で言って紙袋を差しだしてくるので、私はお腹を抱えて笑う。
「痒いところに手が届きすぎ! ありがとうございます!」
紙袋の中にはラッピングされた箱があり、開けると透明な花瓶が入っていた。
「シンプルだから何にでも合わせやすいと思う」
花瓶は口が少しすぼまって開いている、いわゆるラッパ型と呼ばれる形だ。
確かにこれだと花束を生けるのに、中で茎が交差しても底のほうが広がっているから、綺麗に飾れるかもしれない。
「私、初心者なんですがうまくできるかな? ……篠宮家の尊さんとお付き合いするなら、お花とか習ってたほうがいいんでしょうか?」
「興味があれば習う、でいいと思うけど。それに、ブーケの場合は花屋さんがセンスよく纏めてくれてるから、このままスポッと入れてOK」
「なるほど」
私はひとまず花瓶の中を軽く洗う。
「はい! ぜひ」
《俺、先に店に入って大人しくしてるから、とりあえず二人で話してくれ。何かあった時のための保険だと思ってほしい》
「はい。めっちゃ心強いです」
そこまで話したあと、尊さんは大きめの溜め息をついた。
《……悪かったな。前に六本木で彼とすれ違った時、つい嫉妬して爆弾を放り投げた。二人はあれで別れるだろうと思ったし、俺も恋敵に一矢報いられたし、朱里もスッキリしたと思ってた》
確かに、めっちゃスッキリした。
《……でも田村クンの気持ちの矛先が、朱里に向かう事まで考えられなかった。……何があっても守るけど、まさかマンションに入り込むとは……》
彼はかなり自己嫌悪に陥ってるみたいで、私は慌ててフォローした。
「そこ、尊さんが反省するところじゃないでしょう。確かにあの時はスカッとしました。でも、あれが理由で別れるかどうかは昭人と加代さんの問題です。二人がどこで出会ったか知りませんが、昭人は彼女に惹かれて結婚しようと思った。……でも、加代さんが何をしていたのか見抜けなかったのは、彼の責任です」
私は自分の言った事は、あまり間違えていないと思っている。
確かに尊さんの暴露が原因になったかもしれないけど、二人がいつ何が原因で別れるかなんて、誰も分からないものだ。
「ぶっちゃけ、不倫してた加代さんが悪いですし、彼女さえ身綺麗だったら二人は別れなかったでしょう。それにあの事を知っても、二人が真剣に愛し合っていたなら結末は違っていた。だから本当に彼らの問題であって、こっちは知ったこっちゃないんです」
鼻息荒く言うと、尊さんはクスッと笑った。
《サンキュ》
お礼を言われ、私はどや顔で胸を張る。
「いつでも頼ってください。泣きたい時は胸を貸しますよ」
《胸を貸してもらうのに、朱里ポイント貯めねぇとな》
「やだ。尊さんだったら、めっちゃポイ活してすぐに高ポインターになりそう」
《ポイントサイト越しの高額買い物も辞さないし、毎日一万歩は歩く》
「あははは! ガチのやつだ!」
《そんでもって、高品質の朱里サービスをじゃんじゃんしてもらいてぇな。使う時はポイントを湯水のように使ってやる》
「んひひひひ」
私は笑いすぎて変な声を漏らし、ソファの上に転がる。
尊さんと軽口を叩き合える事自体が楽しいし、彼がポイ活してると考えるだけで、おかしくて堪らない。
気がつくと、昭人に家まで押しかけられたモヤモヤが、少し軽くなっていた。
私は安堵に似た溜め息をつき、微笑んでお礼を言う。
「ありがとうございます。不安だったの晴れました」
《ん、なら何より。明後日、緊張するだろうけど、同じ空間にいるから堂々としてろよ。田村クンが無理強いしてきたら、すぐ行く。目標は二度と今回のような事が起きないように、彼に納得してもらい円満に完全にお別れする事》
「はい」
私は尊さんからミッションを出され、ビシッと背筋を伸ばして頷いた。
「明日は上村家にお邪魔しないとだし、全部終わったらちょっとゴージャスなデートしような」
「やった!」
素直に喜ぶと、尊さんは電話の向こうでクスクス笑っていた。
**
翌日、尊さんは花束を持って私の家にやってきた。
「何ですか!? これ!」
花束はピンクを基調としているけれど、くすんだピンクを主体にしているので甘すぎず大人っぽい。
加えてグリーンがかった白のスプレーバラや白とピンクが混じったシルバーデイジー、毛糸で作ったボンボンのようなピンクのピンポンマム、フワフワッとしたスモークグラスなどで花束が構成されていた。
「すごーい! 可愛い! お洒落! どうしたんですか? 非誕生日?」
思わず大好きな『不思議の国のアリス』ネタを披露してしまったが、尊さんは笑って首を横に振る。
「そう言いたかったけど、昨日飲み会も含め色々嫌な思いをしただろうから、明るい気持ちになってほしいと思って」
ああもう! 速水クオリティ!
「好き!!」
私は花束をテーブルの上に置き、尊さんにギュッと抱きついた。
「俺も好きだよ」
彼は私を抱き締め返し、少し顔を離すと甘く微笑み、チュッチュッと優しいキスをくれた。
もうそれだけで嬉しくて堪らなくなった私は、彼の胸元に顔を埋めてぐりぐりと額を押しつける。
「……しゅき……。しゅきぴすと」
「お、最上級きたな」
語彙力がなくなってとろけた私を見て笑った尊さんは、「花瓶あるか?」と尋ねてくる。
それを聞き、私はハッと顔を上げた。
「……な、ないです……。たまに一輪だけ買って、百均で買った一輪挿しに飾る事はあるんですが」
こんな立派な花束を飾るに相応しい、お洒落な花瓶は持っていない。
「……と思って奥様、なんとここに花瓶が。イマナラナント」
彼が少し高めの声で言って紙袋を差しだしてくるので、私はお腹を抱えて笑う。
「痒いところに手が届きすぎ! ありがとうございます!」
紙袋の中にはラッピングされた箱があり、開けると透明な花瓶が入っていた。
「シンプルだから何にでも合わせやすいと思う」
花瓶は口が少しすぼまって開いている、いわゆるラッパ型と呼ばれる形だ。
確かにこれだと花束を生けるのに、中で茎が交差しても底のほうが広がっているから、綺麗に飾れるかもしれない。
「私、初心者なんですがうまくできるかな? ……篠宮家の尊さんとお付き合いするなら、お花とか習ってたほうがいいんでしょうか?」
「興味があれば習う、でいいと思うけど。それに、ブーケの場合は花屋さんがセンスよく纏めてくれてるから、このままスポッと入れてOK」
「なるほど」
私はひとまず花瓶の中を軽く洗う。