部長と私の秘め事
やきもきしながらドアのほうを見ていると、母が笑う。
「心配しなくても美奈歩ちゃんにとられたりしないから、安心しなさい」
「姉妹で三角関係って泥沼だな……」
亮平が呟き、私は奴をギロリと睨む。
(心の狭い事考えたくないのに、モヤモヤしちゃって駄目だな)
溜め息をついた時、廊下に続く引き戸がカラ……と開き、美奈歩が顔を出して私にちょいちょいと手招きした。
「ちょっと……」
「う、うん」
ゴクリと喉を鳴らした私は、立ちあがってリビングを出た。
階段前には尊さんがいて、私たちはチラッと視線を交わして「……お、おう」みたいな顔をする。
「朱里、美奈歩さんが話をしたいって」
けれど尊さんにそう言われ、とうとう決着をつける時がきたのだと覚悟した。
美奈歩は階段に座ったので、私は尊さんの隣に座る。
継妹はしばらく私を見つめたあと、一つ溜め息をついて尋ねてきた。
「私の事、嫌い?」
「え? なんで?」
ズバッと尋ねられ、私もズバッと素で聞き返す。
「嫌いじゃないよ。逆に美奈歩こそ、私の事嫌いじゃない? 今まで私がいるとわざとらしく溜め息ついたり、言葉に棘があったりで、快く思われてないんだなっていうのは感じていたけど」
「……お父さんやお兄ちゃんに、私の目の前でわざとらしく甘えていなかった?」
「なんですと?」
初耳だったので、思わずまた聞き返してしまった。
「……そんな事、した覚えないけど……」
これ以上ない、チベットスナギツネみたいな真顔で言うと、美奈歩は困惑する。
私はなるべく美奈歩を刺激しないように言葉を選びながら、自分が感じていた事を説明した。
「……悪く言ってるように感じたら申し訳ないけど、最初はどう接したらいいか分からなくて、お継父さんと亮平を完全に他人扱いしていた。亮平は仲良くなろうとしてくれてたみたいだけど、私にはその距離感が合わなくて、逆に警戒してしまった。……この辺は本人と先日会って話す機会があって、誤解がとけた……と思っているけど」
そう言うと、美奈歩もおずおずと頷く。
「……私も、先日お兄ちゃんからちょっと……言われた。『お互い言葉が足りてない』って」
きっと横浜の日のあとだ。亮平、一応言ってくれてたんだ。
美奈歩はそのあとも、ボソボソと、時々言葉を止めては考え、少しずつ自分の気持ちを打ち明ける。
「……言われて『確かにそうかも』って思って、色々考えた。……私は私なりの理由があって、……確かに、……ちょっと避けたり冷たい態度をとってしまっていた。……ムカついていたのは事実だけど、今、……『嫌い?』って聞いても訳が分からない顔をしてたし、……やっぱりお兄ちゃんが言ってたみたいに、言葉足らずなのかもって思った」
(美奈歩は頑張ってくれてる)
俯いた彼女はとても恥ずかしそうで、その表情を見ていれば、物凄く頑張ってくれているのが分かる。
(私も歩み寄らなきゃ。きっと今しかない)
覚悟を決めた私は、小さく息を吸って自分の気持ちを伝える。
「……私も、今まで嫌な態度をとってごめん。『美奈歩は私を嫌っている』と思い込んで、直接気持ちを聞いたわけじゃないのに、美奈歩の気持ちを決めつけてた。それで対話するのを面倒くさがって避けてた」
私の言葉を聞いて美奈歩はコクンと頷き、しばらく〝次〟の言葉を考える。
私も何か言おうと思うんだけど、なかなかいい言葉が見つからない。
美奈歩が私に突っかかってきたのは、大好きな亮平が私を気にしてる事が大きいと思う。
けど、亮平から聞いたとはいえ、『亮平が私を意識してた』なんて自意識過剰みたいで言いづらい。
その時、尊さんが挙手した。
「私からも補足させてもらいます。亮平さんは美奈歩さんにとって、〝いいお兄さん〟だったでしょう? 優しくて頼りがいがあって、性格は温厚で滅多に怒らない」
「……そうです。私はそんな兄を自慢に思っていますし、大好きです」
尊さんに言われ、美奈歩は頷く。
彼女の言葉のあとに「だから兄に近づく継姉が嫌いでした」と続きそうな気がしたのは、被害妄想かもしれない。
「亮平さんは〝いい兄〟であった反面、我慢もしてきたと思います。もともと温厚な性格だと思いますが、お母さんが亡くなられたあと、お父さんが働きに出ている以上、『自分が妹を支え、家を守らないと』と思ったでしょう。多感な時期に大好きなお母さんを亡くされ、小さい妹さんの面倒を見て家事もして……という生活を送った亮平さんは、同じ年頃の友人と満足いくまで遊べなかった可能性もあります」
「……そうですね」
美奈歩は昔を思いだす目で頷く。
「心配しなくても美奈歩ちゃんにとられたりしないから、安心しなさい」
「姉妹で三角関係って泥沼だな……」
亮平が呟き、私は奴をギロリと睨む。
(心の狭い事考えたくないのに、モヤモヤしちゃって駄目だな)
溜め息をついた時、廊下に続く引き戸がカラ……と開き、美奈歩が顔を出して私にちょいちょいと手招きした。
「ちょっと……」
「う、うん」
ゴクリと喉を鳴らした私は、立ちあがってリビングを出た。
階段前には尊さんがいて、私たちはチラッと視線を交わして「……お、おう」みたいな顔をする。
「朱里、美奈歩さんが話をしたいって」
けれど尊さんにそう言われ、とうとう決着をつける時がきたのだと覚悟した。
美奈歩は階段に座ったので、私は尊さんの隣に座る。
継妹はしばらく私を見つめたあと、一つ溜め息をついて尋ねてきた。
「私の事、嫌い?」
「え? なんで?」
ズバッと尋ねられ、私もズバッと素で聞き返す。
「嫌いじゃないよ。逆に美奈歩こそ、私の事嫌いじゃない? 今まで私がいるとわざとらしく溜め息ついたり、言葉に棘があったりで、快く思われてないんだなっていうのは感じていたけど」
「……お父さんやお兄ちゃんに、私の目の前でわざとらしく甘えていなかった?」
「なんですと?」
初耳だったので、思わずまた聞き返してしまった。
「……そんな事、した覚えないけど……」
これ以上ない、チベットスナギツネみたいな真顔で言うと、美奈歩は困惑する。
私はなるべく美奈歩を刺激しないように言葉を選びながら、自分が感じていた事を説明した。
「……悪く言ってるように感じたら申し訳ないけど、最初はどう接したらいいか分からなくて、お継父さんと亮平を完全に他人扱いしていた。亮平は仲良くなろうとしてくれてたみたいだけど、私にはその距離感が合わなくて、逆に警戒してしまった。……この辺は本人と先日会って話す機会があって、誤解がとけた……と思っているけど」
そう言うと、美奈歩もおずおずと頷く。
「……私も、先日お兄ちゃんからちょっと……言われた。『お互い言葉が足りてない』って」
きっと横浜の日のあとだ。亮平、一応言ってくれてたんだ。
美奈歩はそのあとも、ボソボソと、時々言葉を止めては考え、少しずつ自分の気持ちを打ち明ける。
「……言われて『確かにそうかも』って思って、色々考えた。……私は私なりの理由があって、……確かに、……ちょっと避けたり冷たい態度をとってしまっていた。……ムカついていたのは事実だけど、今、……『嫌い?』って聞いても訳が分からない顔をしてたし、……やっぱりお兄ちゃんが言ってたみたいに、言葉足らずなのかもって思った」
(美奈歩は頑張ってくれてる)
俯いた彼女はとても恥ずかしそうで、その表情を見ていれば、物凄く頑張ってくれているのが分かる。
(私も歩み寄らなきゃ。きっと今しかない)
覚悟を決めた私は、小さく息を吸って自分の気持ちを伝える。
「……私も、今まで嫌な態度をとってごめん。『美奈歩は私を嫌っている』と思い込んで、直接気持ちを聞いたわけじゃないのに、美奈歩の気持ちを決めつけてた。それで対話するのを面倒くさがって避けてた」
私の言葉を聞いて美奈歩はコクンと頷き、しばらく〝次〟の言葉を考える。
私も何か言おうと思うんだけど、なかなかいい言葉が見つからない。
美奈歩が私に突っかかってきたのは、大好きな亮平が私を気にしてる事が大きいと思う。
けど、亮平から聞いたとはいえ、『亮平が私を意識してた』なんて自意識過剰みたいで言いづらい。
その時、尊さんが挙手した。
「私からも補足させてもらいます。亮平さんは美奈歩さんにとって、〝いいお兄さん〟だったでしょう? 優しくて頼りがいがあって、性格は温厚で滅多に怒らない」
「……そうです。私はそんな兄を自慢に思っていますし、大好きです」
尊さんに言われ、美奈歩は頷く。
彼女の言葉のあとに「だから兄に近づく継姉が嫌いでした」と続きそうな気がしたのは、被害妄想かもしれない。
「亮平さんは〝いい兄〟であった反面、我慢もしてきたと思います。もともと温厚な性格だと思いますが、お母さんが亡くなられたあと、お父さんが働きに出ている以上、『自分が妹を支え、家を守らないと』と思ったでしょう。多感な時期に大好きなお母さんを亡くされ、小さい妹さんの面倒を見て家事もして……という生活を送った亮平さんは、同じ年頃の友人と満足いくまで遊べなかった可能性もあります」
「……そうですね」
美奈歩は昔を思いだす目で頷く。