部長と私の秘め事
 それから私たちは駅からまっすぐ歩き、途中で右手側にある赤レンガ庁舎を写真に収める。

 手前にはポプラ並木があって、夜はイルミネーションが点くらしい。

 次のフォトスポットは時計台だけど、その前に北二条西一丁目にあるラーメン屋さん『奥原流久楽』に入り、白味噌ラーメンにトッピングをして思う存分食べた。

 その隣にあるスープカレー屋さん『ピカンティ』は、テレビ番組でも紹介された有名な所らしい。紹介されたのは北大近くにある本店で、こっちは支店になる。他にも二駅隣の琴似、北海道神宮がある円山にも支店があるみたいだ。

 ラーメンを食べ終わったあとは、隣にある札幌創成スクエア一階に入っている、森彦コーヒーで休憩。こちらは北海道で展開しているお店で、ゆったりと寛げる空間がめちゃお洒落だ。各店舗、それぞれ内装の雰囲気が違っていて、けれどセンスが抜群なのは同じ。同じビルの二階には、森彦で経営しているフレンチレストラン『ダフネ』もある。

 休憩し終わったあと、時計台を写真に収めた。

「……思ってたより、ビルの間に埋もれてますね」

「それな」

 私たちはボソッと言い、無言で写真を撮る。

 時計台は現在の北大の前身に当たる、札幌農学校(『きのとや』に同じ商品名のクッキーがある)の、入学式や卒業式などを行うための演武場だったらしい。

 二百円払って中に入ると、歴史に関する資料が残されていて、二階には演武場だった名残の椅子が並んでいる。クラーク博士の銅像が座っているベンチもあったので、隣に座ってツーショした。

 そのあと大通公園まで歩き、一丁目から順番に雪まつりを見学していった。

 スケートリンクがあったり、中にはジャンプ台があってイベント時に華麗なアクロバットジャンプを披露する所もある。

 勿論、大雪像もあるし、有志が作った小さめの雪像もある。

 三丁目には食の広場があって、屋台で色んなどさんこグルメがあり、お腹いっぱいなのに何か食べたくなってしまう。

 十二丁目まで歩いたあと、西十一丁目から地下鉄に乗り、大通公園まで戻る。

 地下鉄から出ると三越やパルコがあり、尊さんが「カフェで一休みするか?」と言ってくれたので、沢山歩いて疲れた私は天の助けを得た気持ちになり、コクコク頷いた。

 尊さんは何回も札幌に来ているらしく、お店もよく分かっているみたいだ。

 だからお土産や写真スポット以外は、基本的にお任せしてる。

 そんな尊さんが連れて行ってくれたのは、パルコから少し東側にあるピヴォクロスという商業ビルの七階だ。『椿サロン』という名前のホットケーキのお店で、天井が高い空間にはグランドピアノもある。

「銀座と渋谷にも店舗があるんだけど、発祥は北海道なんだ。ここは本店じゃないんだけど」

 ホットケーキが大好きな私は、めちゃテンションを上げてメニューを見る。

 メニュー数はあまり多くないけれど、その分味に自信があるんだと思う。

 二月の期間限定メニューはフォンダンショコラのホットケーキがあり、それを頼む事にした。尊さんは普段進んで甘い物を食べないけど、今回は付き合ってくれるらしく、彼は一番ベーシックな物を頼んでいた。

「こういうお店、どうやって知るんですか?」

「ちょいちょい話に挟まってる、札幌の知り合いが食道楽なんだ。あ、男な」

「へぇ。今回は会わなくていいんですか?」

「朱里と一緒だし、その気になればいつでも会えるから大丈夫」

 尊さんは微笑んでから、その知り合いとの馴れそめを教えてくれる。

「……俺、色々あったろ。それで自尊心がとても低かった。少しでも幸せを感じられる事をしたいと思って、海外旅行に行って経験積んだし、美味いもんを美味いと思いてぇな、と感じたんだ。……一時期、何を食べても同じに思えていた時があって、町田さんに失礼だった。あの人は食のプロなのに、せっかく作ってくれた物を大して美味くねぇと感じてしまっていたんだ」

「……あぁ、なるほど……」

 私は溜め息混じりに言い、頷く。

「『まともな人間になりてぇな』と思った。朝起きて走って、仕事して、飯食って美味いと思って、余暇には旅行をして、音楽にも触れて心を豊かにして……。果たしてそうする事で本当に自分が幸せになれるかは置いておいて、〝ふり〟から始めたんだ。まずやってみないと分からないと思って」

「そうやって、まず行動してみるところ、尊敬してますよ」

 微笑んで言うと、尊さんは嬉しそうに笑った。

「それでメッセージアプリのオープンチャットで、全国の食いしん坊が集まってる所に入って、あちこちから情報を仕入れたんだ。その中で興味のある情報があったら質問して、個人でメッセージするようになり、直接会ったりとか。そういう、目的ありきのメッセージは好きだな」

「ほう、実用的ですね」

 頷いた時、スタッフの一人がグランドピアノのほうに行き、演奏を始めた。

「いい音色だな」

 尊さんは嬉しそうに笑い、目を細める。
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