部長と私の秘め事
 札幌駅に着いたあと、駅前にある東急ハンズで雪道用の滑り止めスパイクを買った。

 つま先と踵に引っかける一時的な奴だけど、そのお陰で雪道初心者の私はなんとかコケずに頑張れてる。

「転んで骨折する人もいるし、怪我する事を考えれば多少の見た目は構ってられねぇな」

「です!」

 やがて狸小路に差し掛かり、昔ながらのアーケードを写真に収める。

「昔はかなり活気があったみたいだけど、札幌駅や大通り、すすきのに大きいビルができてからは少し寂れてしまったそうだ。今はレトロな雰囲気に目を付けて、飲食店とかリーズナブルなホテルとかができて、また注目されてるって」

 狸小路をちょっと歩いてみて、次はすすきのに向かう。

「わぁ、ニッカおじさんだ」

 すすきの交差点に差し掛かると有名な看板があり、私は雪がちらつくなか写真を撮る。

「本当はこの付近も美味い店沢山あるんだけどな。それこそラーメンもジンギスカンも」

「あぁ……、言わないで……。私の胃はお寿司のためにとってあるんですから……。浮気したくない……」

「朱里は一途な女なんだよな? 浮気はしないよな?」

「……いきなりネチネチ言うのやめてください」

「『雪風』ってラーメン屋がすすきのにあって、並ぶ人がいるぐらい美味いんだけど、浮気しねぇよな? 塩ラーメンのスープは透明で、チャーシューも大きめで……」

「あぁ~……。やめてぇええ……」

 私は大きめの声で言い、両手で耳を塞ぐ。何プレイだ。

 すすきの交差点にあるココノススキノというビルは、昔からある商業ビルを改装して、つい最近オープンしたてらしい。

 一階には『ショコラティエ・マサール』という北海道ブランドのショコラティエがあり、お菓子やソフトクリームを売っている。

 中に入ってみると二階までは全国展開の眼鏡屋さんや靴屋さんがあり、三、四階が飲食店、その上はシネコンで、さらに上はホテルになっているみたいだ。

 外に出てさらに南に進み、目的地のお寿司屋さんに着いた。

「こんばんは。速水です」

 引き戸を開くと尊さんが挨拶し、女性スタッフにコートを預ける。

 目の前にはカウンター席があり、大将がお客さんと話をしながらお寿司を握っていた。

 ドキドキして席に座るとお茶を出され、お寿司十貫とプラスアルファのコースが始まる。

 最初にタコと北寄貝のわさびマヨ和えが出て、ヒラメ、マグロ、大トロのお刺身でノックアウトされた。うまい!

「ここの白子焼き、絶品だぞ」

 私は普段あまりタチポンや白子を食べないので、冒険心で食べてみたけれど、塩加減が絶妙でトロッと口の中でクリーミーに広がり、全然生臭くない!

「んーっ! めちゃ美味しい!」

 目を見開くと尊さんは「だろ?」と嬉しそうに笑った。

 そのあと透明なイカ刺し、海老の姿煮が出たあと、ヒラメからお寿司が始まった。

 とろける大トロ、帆立、北寄貝、サーモン、甘くてプリプリの牡丹海老に昆布締めのヒラメ、柔らかい鮑、そして雲丹といくらの軍艦、ラストに玉子焼き。

「ふあぁ……、幸せ……」

 お寿司専用の日本酒、男山酒造の『つまみつつ』を飲みながらお寿司を食べると、寿司ネタの脂がサラッと癖のないお酒で流され、とても合う。

「他にも何か握りますか?」

 大将に尋ねられ、尊さんは帆立と牡丹海老、トロにトロたく巻き、ネギトロを頼む。

「わ、私もいい?」

「たまにしか来られないんだから、思う存分食え」

「ごちそうさまです!」

 私は大トロにサーモン、雲丹といくらを頼み、尊さんが頼んだ巻物を一緒に食べる。

「しゃーわせだ……」

 お酒を飲んで酔ってるはずなのに、いいお酒だからか頭が痛くならない。

 お店を出た私は尊さんと腕を組み、すすきのの街をプラプラ歩く。

「そうだ、〝いいもん〟見に行くか」

「行く!」

 元気よく返事をした私は、尊さんと一緒に南四条西五丁目まで歩く。

 てっきりお店に入るものかと思っていたけど、交差点前に差し掛かって尊さんが「ほれ」と言ったので
「ん?」と目を瞠る。

「向かいの店、見てみ」

「あーっ! バニーちゃん……」

 なんと向かいのガラス張りになったお店には、お尻も露わなバニーガールが大勢いて、接客している様子が丸見えになっている。

「すごーい。可愛い」

 普段興味があっても女性である手前、なかなかそういうお店とはご縁がないので、本物を前にすると興奮してしまう。
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