部長と私の秘め事
(明日、温泉かぁ。楽しみだな)

 尊さんと温泉ってだけでも、ニヤニヤしてしまう。

(よし、早めに寝よう)

 温まったあと、酔いは大分醒め、体を拭いてTシャツとスウェットズボンに着替えると、ドライヤーを掛けてバスルームを出た。

 テレビの音が聞こえるのでリビングルームを覗くと、尊さんはカウチソファに横になって寝ていた。

 道具をしまった私は、彼の前にしゃがんで寝顔を見る。

(睫毛ながーい。唇のケアちゃんとしてる。プルプル。けしからん)

 国宝級の顔面を見ているとムズムズと悪戯心が湧いて、私はそっと顔を寄せると尊さんの頬にキスをした。

「……ん、……んー」

 目を覚ました尊さんは、うなりながら私を抱き締めてくる。

「あなた、お風呂ですよ」

 ふざけて新婚ごっこをすると、尊さんはガバッと顔を上げてまじまじと私を見てきた。

 ……あ、あれ?

「やべぇ。すげぇキた」

 彼は目を細め、色の籠もった目で私を見てくる。

「だっ、駄目! 明日行動不能になるから、駄目です」

「…………ちっ」

 尊さんは舌打ちをし、チュッと私にキスをしてから立ちあがった。

「やっぱり連休中、東京で抱き潰すべきだったな」

 なんとも物騒な事を言うので、私はヒイとなる。

「りょ、旅行ダイスキ! 札幌ダイスキ!」

 ぎこちなく言うと、彼は大きな溜め息をつき、また私を抱き締めてくる。

「悩ましいよなぁ……。朱里と一緒に色んな体験をしたいけど、引きこもって抱き潰したい気持ちにもなる」

「そんな自堕落な……」

「そのうち南の島でも行ってコテージ借りて、セックスするか……」

 しみじみと言うので、私まで溜め息をついてしまう。

「祭りが始まっちゃう」

「夜通しワッショイだよ」

 そこまで言ったあと二人でククク……と笑い出し、またキスをする。

「お風呂入ってきて」

「了解。先、寝てていいよ。睡眠姦なんてしないから」

 冗談を言われた私は、ハッとした顔をし、「野蛮……」と睨んでみせる。

 そのあとまた二人して笑い、尊さんは着替えを取りに寝室に向かった。

 私は少しの間、ミニバーにあるお茶を飲みながら、体の火照りが取れるまでテレビを見ていた。

 スマホをチェックすると、恵から【旅行楽しんで】とメッセージが入っていたのに気づき、微笑む。

(SNSに写真アップしちゃお)

 そう思った私は、無心に今日撮った写真を加工アプリで色味や明るさを調節し、写り込んだ人にモザイクをかけていく。

 勿論、私と尊さんの顔が映った写真は投稿しないし、文章にも〝彼氏と旅行〟とは書くけど、彼氏について掘り下げては書かない。

 それに記念のためにツーショはするけど、全部思い出専用だ。

 加工とモザイク処理が終わったあとは、SNSにポンポン投稿していった。

 私をフォローしてる人は恵や学生時代の友人ぐらいしかいなく、ハッシュタグをつけてもほぼ見られていないに等しい。

 他の人の投稿を見て、積極的にコメントして交流するのも面倒だし、備忘録的に投稿するのをメインで使っている。

(そういえば、尊さんのアカウント見てみたいな)

 いまだに彼のSNSアカウントを見た事がなく、ちょっと気になってしまう。

 でも慎重な彼が本名そのままでやっている訳がなく、探しようがない。

 聞いてみたいけど以前に照れくさいって言ってたから、もしかしたら教えてくれないかもしれない。

(何でも知りたがったら駄目なのかな。夫婦になっても、ある程度の秘密は持てる余白を作ったほうがいいんだろうか?)

 考えていると、また自分がグルグル悩んでいるのに気づき、「終わり!」と口に出すとピシャンと両頬を叩いた。

 テレビを消すとベッドに向かい、お茶を枕元に置いてスマホを充電し、布団に潜り込む。

 目を閉じたけど、尊さんがバスルームで水音を立ててるのがエッチで、色んな想像をしてしまう。
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