部長と私の秘め事
(体、どこから洗うんだろ。あの筋肉質な体にお湯が滴って……)

 そこまで考え、照れくさくなって「ひひひ」と笑って、布団の中で脚をバタつかせる。

 私は仰向けになると尊さんがのし掛かってくる妄想をし、布団に両手と両足を回して抱き締める。

(しゅき……!!)

 もっふー! と顔面を布団に埋めた時、バスルームのドアが開いた。

「……何、にゃんにゃんプロレスしてるんだ」

 顔を上げると、まだ髪を濡らしたままの尊さんが驚いた顔をしていて、私は恥ずかしくなって布団の中に潜り込んだ。

「おーい、こら」

 尊さんは歩み寄ってきて、布団をポンポン叩いてくる。

 まさか一人で悶えていたなんて言えず、布団から顔を出した私はスンッと澄ました顔で言う。

「マッサージしてあげましょうか?」

「いいよ、俺がしてやろうか?」

 そう言って、尊さんは羽布団を捲ると、私の体をうつ伏せにしてふくらはぎを揉み始めた。

「ん、……や、大丈夫ですって」

「今日、沢山歩いただろ」

「尊さんだって同じだけ歩いたのに」

「俺はいいの」

「……エッチな事しなくて大丈夫ですか?」

 思い切って尋ねてみたけれど、意外な事を言われた。

「一晩寝かせて熟成させる」

「え?」

 尊さんは私の足の裏を揉み始め、溜め息をつくとじっとりとした目で私を見てくる。

「……あのなぁ、お前は自分で思ってるより一万倍可愛いんだよ」

「はい?」

 目を瞬かせると、尊さんはまるで職人のように足裏を揉みつつ言う。

「今回、朱里と初めての旅行だろ? 旅先で見る彼女っていつもと違う魅力があるんだよ。今日一日、すぐにでもホテルに連れ帰って押し倒したいのを、ずーっと我慢してた。朱里が旅行を楽しみにしてたの知ってたし、直前に嫌な思いをしたのも分かってるから、とにかく楽しんでほしかった。そのためなら自分の性欲なんて二の次だ」

「じゃあ……」

 エッチしても良かったのでは?

 おずおずと言いかけると、ジロリと睨まれる。

「あのな、いつもの性欲が百二十パーセントとして、今の俺は二百五十パーセントぐらいいってる」

「デフォが振り切ってるじゃないですか」

「朱里に対してだけな。最近はエロ動画見ても三十パーもいかねぇよ」

「それはそれで、ちょっと心配です」

「あのなぁ……。そこは『私にだけ反応してくれるの?』って喜んでくれよ」

 尊さんはガクッと項垂れ、反対の足裏を揉み始める。

「そんな感じで、今の俺は触れたら大爆発な訳。今ここでスイッチオンしたら、朝まで止まんねぇ自信がある」

「……じゃあ、手とか口でしてあげましょうか?」

 そろりと尋ねると、尊さんは首を横に振る。

「そんなんされたら、朱里の中で達きたくなるだろ」

 しょんぼりすると、尊さんは私の脛をすべすべと撫でてきた。

「さっきも言ったけど、セックスも楽しみながら旅行する時って、もう少しゆっくりした行程のほうがいいと思うんだ。……そうだなぁ、最低でも国内で一週間から十日はほしいな」

「確かに二泊三日だと、観光もあるとバタバタしちゃいますね」

 理解を示すと、尊さんは申し訳なさそうな顔をする。

「求めてもらえるの、すげぇ嬉しいんだよ。観光も、恋人としての時間も楽しんでくれてるって思える。ありがとな。……でも、明日の夜まで待ってくれ。我が儘言って悪い」

「わっ、我が儘言ったの私だし!」

 とっさに尊さんの手を両手で包むと、彼は愛しそうに笑った。

「朱里は普通に求めてくれただけで、落ち度はない。俺の性欲がちょっとやべぇから、適度にストップかけないとお前に迷惑掛けちまうんだ」

 そういうふうに言われると、なんとも言えなくなる。

(というか、自分が悪いって事にして喧嘩にならないようにしてくれるの、大人だな)

 私はしみじみ思い、自分の単純さを反省した。

「じゃあ明日の夜、かなまら祭り待ってます」

「ぶふぉっ!」

 私がいきなり某珍祭をぶっ込んだからか、尊さんは噴き出した。

「や、め、ろ……」

 尊さんはベッドに突っ伏して体を震わせ、笑いを堪える。

「なんで我慢するんですか。笑えばいいじゃないですか」

「…………夜なんだよ…………」

 彼はシーツに顔を埋めたまま、くぐもった声で言う。

 我慢している姿を見ると、ムクムクと悪戯心が湧き出て、つい彼の耳元で囁いてしまった。

「ワッショイ」

「っ…………!」

 尊さんは掌でバンバンとマットレスを叩き、体を震わせる。
< 212 / 325 >

この作品をシェア

pagetop