部長と私の秘め事
部屋に戻ると尊さんは洗面所にいて、顔を洗い終えたところだった。
「おー、早いな」
「おはようございます。んー……」
私は彼に抱きつき、首に両手を回すとチュッチュッとキスをする。
「お風呂入りました?」
「いや、まだ」
「じゃあ、ご飯までに時間があるから、ちょっと入りましょう」
「OK」
露天風呂で温まったあと、私たちは朝食会場に向かった。
昨日の『仙食庵』に行くと場所が違うみたいで、スタッフに『喜庵 』に案内された。
『仙食庵』ではバイキングをしているらしく、そちらもとても気になるけれど、私たちはスペシャルな朝食らしい。
「わぁ……」
案内されたのは木製のテーブルセットで、近くにはシルクロードの番組で出てきそうな楽器や、不思議な形の駒がセットされてあるチェス盤があった。
「ここのオーナーが、こういう物を集めるのが好きみたいだ」
「そうなんですね。不思議な物が沢山あって、博物館みたい」
周囲を気にしつつも、一番目がいくのは卓上だ。
左手前には伏せられたお茶碗、奥にはご飯が入った小さなお釜があり、一人用の小さな鉄鍋には湯豆腐もある。
さらに宝箱みたいな箱もあり、中に何があるのかめちゃくちゃ気になってしまった。
箱は貝細工のような繊細な模様で、ピンクと白の色使いで牡丹の花が描かれてあり、本当に綺麗だ。
「尊さん、お宝ボックス開けてもいいかな?」
「まだ加熱してないから、いいんじゃないか?」
言われて開けてみると、木の板の上に鮭の切り身とチンゲン菜、帆立があった。
「これ、どうやって加熱するんですか?」
尋ねると、尊さんはニヤッと笑った。
「あとからのお楽しみ」
「えー」
楽しみでニヤニヤしていると、スタッフが来て食前のフルーツ酢を出してくれた。
酸っぱ美味しいそれを飲んでから食べたのは、ガラスのボウルに入ったサラダ。
わさびのドレッシングが掛かっているらしく、底の方にはコーンも入っていて、甘くて美味しい。
そしてスタッフが例の宝箱に何かを入れて蓋を閉じ、中でもうもうと水蒸気が立ち始めた。
何を入れたか尋ねると、乾燥剤に水を掛けて発熱反応を起こし、それで中に入っている物を蒸しているというので、思わずうなってしまった。
そのあと湯豆腐やたっぷりのなめこと三つ葉が入ったお味噌汁、そして山菜のおこわを食べて幸せいっぱいになっているところ、物凄い物がきた。
「すっごーい! プルプル!」
運ばれてきたのは、とても大きくてプルプルな、できたての玉子焼きだ。
綺麗な色をしていて、ホカホカと湯気が立って、こんなに美味しそうな玉子焼きを見た事がない。
満腹になったあと、デザートに果物と温かい自家製プリンが出され、ホットコーヒーで締めとなり、私たちはお腹ポンポンになって部屋に戻ったのだった。
歯磨きをしたあと、まだ時間はあるのでもう一回露天風呂に入ろうか迷う。
「チェックアウトに合わせて、タクシーは呼んである。荷造りしてすぐ出られるようにして、もう一回入っておくか」
「はい!」
尊さんに言われ、私はまた螺旋階段を上がり、すっぽんと作務衣を脱いで露天風呂に入った。
「はー……」
「極楽、だな」
「です。個室露天風呂大好き!」
「おっ、じゃあ、次回の温泉旅行も個室露天で決まりだな」
「あっ、そういう意味じゃ……」
図らずもおねだりする言い方になってしまい、私は声を小さくする。
「いいんだよ。生きる金は使うべきだ。朱里と思い出を作るためなら、ジャンジャン使うから、頼ってくれ」
「もう……」
私はぷすっとむくれたフリをして、尊さんの腕を組み肩に頭をのせる。
でも、彼の愛情が嬉しくてすぐに微笑んだ。
「今日の夕方には東京にいるんだぜ。信じらんねぇ」
「ですねー」
返事をした私は、明日から仕事だと思うと、温泉から出たくなくなる。
「……でも、女子会楽しみだな」
春日さんとエミリさんとの約束を思い出すと、尊さんが微妙な顔になった。
「何を話すんだ?」
「んー、よく分からないけど……、恋バナ?」
「どこまで話すんだ? エミリがなかなかの性格をしているのは知ってるとして、あのお嬢さんが何に興味を示すかだな……。……女の下ネタはすげぇって言うし、……食われんなよ?」
尊さんはしみじみと言い、溜め息をつく。
「そこまで怖い事になると思ってませんけど……。うん、一応用心しますね」
「あと、俺らのベッド事情や過去については、お口チャックな」
彼は私の唇をつぅっとなぞり、軽く睨んでみせる。
「はい」
私も、彼との大事な事を話すほど、迂闊ではないつもりだ。
「タクシーで中心部に戻ったら……、カニ買って東京に送っておくか」
「やった! カニ!」
「タラバと毛蟹と、両方いっとくか。家のでかい冷凍庫なら保存できるから」
「尊さんだいしゅき!」
ガバッと抱きついて頬にキスをしたけれど、彼は私をしげしげと見て言った。
「……お前、いつか食い気に負けて誘拐されるなよ?」
「されません!」
思わず笑った声が、凜と澄み渡った冬の空気を震わせた。
**
「おー、早いな」
「おはようございます。んー……」
私は彼に抱きつき、首に両手を回すとチュッチュッとキスをする。
「お風呂入りました?」
「いや、まだ」
「じゃあ、ご飯までに時間があるから、ちょっと入りましょう」
「OK」
露天風呂で温まったあと、私たちは朝食会場に向かった。
昨日の『仙食庵』に行くと場所が違うみたいで、スタッフに『喜庵 』に案内された。
『仙食庵』ではバイキングをしているらしく、そちらもとても気になるけれど、私たちはスペシャルな朝食らしい。
「わぁ……」
案内されたのは木製のテーブルセットで、近くにはシルクロードの番組で出てきそうな楽器や、不思議な形の駒がセットされてあるチェス盤があった。
「ここのオーナーが、こういう物を集めるのが好きみたいだ」
「そうなんですね。不思議な物が沢山あって、博物館みたい」
周囲を気にしつつも、一番目がいくのは卓上だ。
左手前には伏せられたお茶碗、奥にはご飯が入った小さなお釜があり、一人用の小さな鉄鍋には湯豆腐もある。
さらに宝箱みたいな箱もあり、中に何があるのかめちゃくちゃ気になってしまった。
箱は貝細工のような繊細な模様で、ピンクと白の色使いで牡丹の花が描かれてあり、本当に綺麗だ。
「尊さん、お宝ボックス開けてもいいかな?」
「まだ加熱してないから、いいんじゃないか?」
言われて開けてみると、木の板の上に鮭の切り身とチンゲン菜、帆立があった。
「これ、どうやって加熱するんですか?」
尋ねると、尊さんはニヤッと笑った。
「あとからのお楽しみ」
「えー」
楽しみでニヤニヤしていると、スタッフが来て食前のフルーツ酢を出してくれた。
酸っぱ美味しいそれを飲んでから食べたのは、ガラスのボウルに入ったサラダ。
わさびのドレッシングが掛かっているらしく、底の方にはコーンも入っていて、甘くて美味しい。
そしてスタッフが例の宝箱に何かを入れて蓋を閉じ、中でもうもうと水蒸気が立ち始めた。
何を入れたか尋ねると、乾燥剤に水を掛けて発熱反応を起こし、それで中に入っている物を蒸しているというので、思わずうなってしまった。
そのあと湯豆腐やたっぷりのなめこと三つ葉が入ったお味噌汁、そして山菜のおこわを食べて幸せいっぱいになっているところ、物凄い物がきた。
「すっごーい! プルプル!」
運ばれてきたのは、とても大きくてプルプルな、できたての玉子焼きだ。
綺麗な色をしていて、ホカホカと湯気が立って、こんなに美味しそうな玉子焼きを見た事がない。
満腹になったあと、デザートに果物と温かい自家製プリンが出され、ホットコーヒーで締めとなり、私たちはお腹ポンポンになって部屋に戻ったのだった。
歯磨きをしたあと、まだ時間はあるのでもう一回露天風呂に入ろうか迷う。
「チェックアウトに合わせて、タクシーは呼んである。荷造りしてすぐ出られるようにして、もう一回入っておくか」
「はい!」
尊さんに言われ、私はまた螺旋階段を上がり、すっぽんと作務衣を脱いで露天風呂に入った。
「はー……」
「極楽、だな」
「です。個室露天風呂大好き!」
「おっ、じゃあ、次回の温泉旅行も個室露天で決まりだな」
「あっ、そういう意味じゃ……」
図らずもおねだりする言い方になってしまい、私は声を小さくする。
「いいんだよ。生きる金は使うべきだ。朱里と思い出を作るためなら、ジャンジャン使うから、頼ってくれ」
「もう……」
私はぷすっとむくれたフリをして、尊さんの腕を組み肩に頭をのせる。
でも、彼の愛情が嬉しくてすぐに微笑んだ。
「今日の夕方には東京にいるんだぜ。信じらんねぇ」
「ですねー」
返事をした私は、明日から仕事だと思うと、温泉から出たくなくなる。
「……でも、女子会楽しみだな」
春日さんとエミリさんとの約束を思い出すと、尊さんが微妙な顔になった。
「何を話すんだ?」
「んー、よく分からないけど……、恋バナ?」
「どこまで話すんだ? エミリがなかなかの性格をしているのは知ってるとして、あのお嬢さんが何に興味を示すかだな……。……女の下ネタはすげぇって言うし、……食われんなよ?」
尊さんはしみじみと言い、溜め息をつく。
「そこまで怖い事になると思ってませんけど……。うん、一応用心しますね」
「あと、俺らのベッド事情や過去については、お口チャックな」
彼は私の唇をつぅっとなぞり、軽く睨んでみせる。
「はい」
私も、彼との大事な事を話すほど、迂闊ではないつもりだ。
「タクシーで中心部に戻ったら……、カニ買って東京に送っておくか」
「やった! カニ!」
「タラバと毛蟹と、両方いっとくか。家のでかい冷凍庫なら保存できるから」
「尊さんだいしゅき!」
ガバッと抱きついて頬にキスをしたけれど、彼は私をしげしげと見て言った。
「……お前、いつか食い気に負けて誘拐されるなよ?」
「されません!」
思わず笑った声が、凜と澄み渡った冬の空気を震わせた。
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