部長と私の秘め事
** 家に帰ると町田さんが来ていて、尊さんからすでに連絡を受けていたのか、すき焼きの準備を始めていた。
「アルコールも入るかと思うので、おつまみも作っています」
町田さんはそう言って、キッチンでテキパキと働いていた。
「……亮平、……兄は車なんですが、どうでしょう……」
町田さんの了解を得てサーモンのカナッペを一つつまんで尋ねると、彼女は微笑んだ。
「速水さんの事ですから、運転代行サービスを頼まれるかもしれませんね。勿論、お兄様の了承があればですが」
「あ、なるほど……」
確かに、気遣いの人尊さんらしい選択だ。
多分、恵が帰る時もタクシー代を渡しそうな気がする。……恵は「パパ活か」って突っ込みそうだけど……。
「お手伝いしますね」
「あら、ありがとうございます」
私は着替えたあとに手を洗い、町田さんの手伝いを始めた。
ほどなくして恵が来て彼女も手伝いに参加し、尊さんが帰宅してお土産を持った亮平も現れた。
尊さんは「サシ肉の脂がきつい」というので、彼は赤身肉でのすき焼きとなり、私たちはサシの入ったA5ランクのお肉を「うまいうまい」と言ってつつき、ビールを空けた。
恵にお土産を渡し、車を持ってるから私より頻繁に実家に行ける亮平にも、みんなの分のお土産を託した。
「朱里~、今度は私と女子旅しようね~」
酔っぱらった恵が私の腕を組み、尊さんを挑戦的に見ながらわざとらしく言う。
「行く行く!」
そんな私たちを、尊さんはじっとりとした目で見る。
「みと子はハブにするの?」
「ぶっふぉん!」
尊さんがいきなり〝みと子〟と名乗り始め、私は盛大に噴きだしてからテーブルをバシバシ叩いて笑う。
「亮子も連れてって」
亮平も悪乗りしてきたけど、私はスンッと真顔になって「キモい」と言っておいた。
そんな感じで急遽集まってのすき焼きパーティーは和やかに行われ、町田さんが予想していたように、亮平は運転代行で帰り、恵は「パパ活」と言いながら尊さんにタクシー代を渡され、タクシーで帰っていった。
**
一週間が過ぎるのはあっという間で、つよつよ女たちによる女子会当日となった。
土曜日のお昼過ぎ、私は東京駅まで行って『シャングリ・ラ東京』のザ・ロビーラウンジに向かう。
ロビーと言うと一階を想像しがちだけど、このホテルはビルの上階にあるので、向かったのは二十八階だ。
私は黒いタートルネックニットに黒いロングタイトスカート、その上にチェックのダブルボタンジャケットを着ていった。
五つ星ホテルに入って緊張していると、窓際の席で春日さんが手を挙げてニコニコしている。
(わ……、二人とも装いがフェミニンだ)
春日さんは髪をハーフアップにして巻き、ヌードカラーのワンピース、エミリさんはアレンジ纏め髪に、紺色に小花柄のついた大人っぽいシフォンワンピースを着ている。
私は一人だけマニッシュになってしまい、「場違いだったかな」とちょっと恥ずかしくなってしまった。
「ちょっとぶり!」
春日さんは立ちあがって私にハイタッチしてきて、どんなテンションなのかよく分からないまま、私もハイタッチを返す。
エミリさんがホールスタッフにアフターヌーンティーの準備を頼んだあと、「元気だった?」と微笑みかけてくる。
「はい。あ、そうだ。先日、尊さんと一緒に札幌に行ってきまして……。ちょっとした物ですが、どうぞ」
私が差しだしたのは、定番の北海道銘菓のお菓子と、尊さんが予約して買っておいた『ボン・ヴィバン』の焼き菓子詰め合わせだ。
女子会があると分かっていた彼は、『お決まりのお菓子に加えて、こういうのもあったほうが喜ぶと思う』と言っていた。さすが、気遣いの人、速水尊……。