部長と私の秘め事
「その点、二人はいいわぁ~。こういう、偶然の出会いを待ってたの! 自分がいつも過ごしている環境だと、他の会社に勤めている女の子となかなか出会えないじゃない」
「……そ、そんな大したもんじゃないですが……」
恐縮すると、春日さんは「やだー!」と言って私の肩をどーん! と押してきた。
「副社長と恋愛してる秘書、部長と恋愛してる社員! 漫画みたいじゃない!」
「そんなの、三ノ宮グループにもいると思いますけど?」
エミリさんは首を傾げ、スコーンをサクサク囓りながら言う。
「自分の会社は嫌なの。下手したら泥沼化して、聞きたくもない報告を聞く羽目になるわ」
うっ……、き、気をつけよう……。
「惚れた腫れたは、安全圏にいて酒の肴に聞く程度が丁度いいのよ」
「確かに、一理ありますね。私も社内恋愛は自分の事で精一杯で、あとはまったく関係ない人の話を聞くぐらいが丁度いいかな。……あっ、朱里さんと尊さんは別ね」
エミリさんが言い、私も「確かに……」と流されて頷く。
「……っていうか、風磨さんお元気ですか?」
エミリさんに尋ねると、彼女はニコッと笑った。
「元気よ~。一月の事があってから、まぁちょっとは落ち込んでいたけど、『尊だけに重荷を背負わせる訳にいかない。俺は兄だから』って言ってたわ。あの人、ちょっと流されやすくて頼りないところもあるけど、責任感はあるの」
彼女の微笑みの奥に、風磨さんへの無限の信頼感を感じ、私は思わずニコニコしてしまう。
「朱里さんの事も気にしていたわ。『ぜひまた食事会でも開いて、尊ともども仲良くなりたい』って」
「はい、ぜひ!」
ニッコリ笑って頷くと、エミリさんがニヤリと笑って付け加えた。
「もし食べたい物があるなら教えてね。秘書の腕を遺憾なく発揮して、オススメの店をリザーブしておくから」
「えっ? た、食べたい物?」
そこまで食い意地張ってる顔をしてるかな? と思った時、エミリさんがクスクス笑った。
「風磨さんが『朱里さんとも仲良くしたいんだけど』って言ったら、尊さんに色々文句を言われたみたいだけど、最終的に『食い気で釣れる』って教えてもらったみたい。その点は任されてるから安心して」
「もおお……!」
尊さんに食いしん坊を共有された私は、羞恥でバシバシと太腿を叩く。
春日さんは私の様子を見て笑い転げている。
「可愛い……! ねえ、松阪牛のハンバーグあげるって言ったら友達になってくれる?」
「もー! 弄らないでください! ハンバーグは食べたいですけど、ノーバーグでも友達にはなりますよ。……ってか、こうやってお茶してる時点で友達じゃないですか」
そう言うと、春日さんはキョトンとした顔をしたあと、ニヤついて横を向いてしまった。
「そ、そんな……、何もしてないのに友達になってもらえるなんて、思ってないんだからね」
「ツンデレか」
私が思わず突っ込むと、エミリさんが手を打ち鳴らして笑う。
「……ていうか春日さん、友達のなりかた、分かってないでしょう」
指摘すると、彼女はサッと赤面して紅茶を飲み、図星なのを誤魔化す。
「友達になるのに条件なんてないですからね。暇があったら声を掛けてくれたら一緒に遊びますし、『今日こんなもの食べた』ってメッセージくれてもいいんです。友達になってほしいからって、何か〝もの〟を差しだすのは駄目ですからね。友達はゼロからスタートしてこそです。お金やものを与えないと友達になってくれないのは違いますから」
(ちょっとお説教臭かったかな?)
そう思いつつ春日さんに微笑みかけると、彼女は私を凝視してから、「…………好き」とボソッと呟いた。
「朱里さん、好き! こんな子、今までいなかったわ。あ~~~、なんていい子なの!? ちょっ……、どうしよう。なんか買ってあげたくなった」
「人の話聞いてました?」
私が突っ込むと、エミリさんは笑いながら言う。
「春日さんはこじらせてるなぁ~。……てか、そんな状態で今まで恋愛のほうはどうだったんですか?」
すると、私を見てソワソワしていた春日さんの動きがピタッと止まる。
そして眉間に名刺でも挟めそうな深い皺を刻んで重たい溜め息をつくと、まるでロダンの『考える人』のようなポーズで固まってしまった。
彼女はしばし黙っていたけれど、顔を上げて私とエミリさんを指でちょいちょいと呼び寄せると、小声で言った。
「……実は、ダメンズホイホイなの」
「オオン……」
聞いた瞬間、私は悲しい鳴き声を上げていた。
「どうしてですか? 三ノ宮グループでバリバリ働いてるし、駄目な人の見分け方はできてそうな、しっかりしたバリキャリなのに……」
エミリさんは気の毒そうな顔で言う。
春日さんはミニパフェを手に取り、スプーンで一口食べてからしばし沈黙する。
「……そ、そんな大したもんじゃないですが……」
恐縮すると、春日さんは「やだー!」と言って私の肩をどーん! と押してきた。
「副社長と恋愛してる秘書、部長と恋愛してる社員! 漫画みたいじゃない!」
「そんなの、三ノ宮グループにもいると思いますけど?」
エミリさんは首を傾げ、スコーンをサクサク囓りながら言う。
「自分の会社は嫌なの。下手したら泥沼化して、聞きたくもない報告を聞く羽目になるわ」
うっ……、き、気をつけよう……。
「惚れた腫れたは、安全圏にいて酒の肴に聞く程度が丁度いいのよ」
「確かに、一理ありますね。私も社内恋愛は自分の事で精一杯で、あとはまったく関係ない人の話を聞くぐらいが丁度いいかな。……あっ、朱里さんと尊さんは別ね」
エミリさんが言い、私も「確かに……」と流されて頷く。
「……っていうか、風磨さんお元気ですか?」
エミリさんに尋ねると、彼女はニコッと笑った。
「元気よ~。一月の事があってから、まぁちょっとは落ち込んでいたけど、『尊だけに重荷を背負わせる訳にいかない。俺は兄だから』って言ってたわ。あの人、ちょっと流されやすくて頼りないところもあるけど、責任感はあるの」
彼女の微笑みの奥に、風磨さんへの無限の信頼感を感じ、私は思わずニコニコしてしまう。
「朱里さんの事も気にしていたわ。『ぜひまた食事会でも開いて、尊ともども仲良くなりたい』って」
「はい、ぜひ!」
ニッコリ笑って頷くと、エミリさんがニヤリと笑って付け加えた。
「もし食べたい物があるなら教えてね。秘書の腕を遺憾なく発揮して、オススメの店をリザーブしておくから」
「えっ? た、食べたい物?」
そこまで食い意地張ってる顔をしてるかな? と思った時、エミリさんがクスクス笑った。
「風磨さんが『朱里さんとも仲良くしたいんだけど』って言ったら、尊さんに色々文句を言われたみたいだけど、最終的に『食い気で釣れる』って教えてもらったみたい。その点は任されてるから安心して」
「もおお……!」
尊さんに食いしん坊を共有された私は、羞恥でバシバシと太腿を叩く。
春日さんは私の様子を見て笑い転げている。
「可愛い……! ねえ、松阪牛のハンバーグあげるって言ったら友達になってくれる?」
「もー! 弄らないでください! ハンバーグは食べたいですけど、ノーバーグでも友達にはなりますよ。……ってか、こうやってお茶してる時点で友達じゃないですか」
そう言うと、春日さんはキョトンとした顔をしたあと、ニヤついて横を向いてしまった。
「そ、そんな……、何もしてないのに友達になってもらえるなんて、思ってないんだからね」
「ツンデレか」
私が思わず突っ込むと、エミリさんが手を打ち鳴らして笑う。
「……ていうか春日さん、友達のなりかた、分かってないでしょう」
指摘すると、彼女はサッと赤面して紅茶を飲み、図星なのを誤魔化す。
「友達になるのに条件なんてないですからね。暇があったら声を掛けてくれたら一緒に遊びますし、『今日こんなもの食べた』ってメッセージくれてもいいんです。友達になってほしいからって、何か〝もの〟を差しだすのは駄目ですからね。友達はゼロからスタートしてこそです。お金やものを与えないと友達になってくれないのは違いますから」
(ちょっとお説教臭かったかな?)
そう思いつつ春日さんに微笑みかけると、彼女は私を凝視してから、「…………好き」とボソッと呟いた。
「朱里さん、好き! こんな子、今までいなかったわ。あ~~~、なんていい子なの!? ちょっ……、どうしよう。なんか買ってあげたくなった」
「人の話聞いてました?」
私が突っ込むと、エミリさんは笑いながら言う。
「春日さんはこじらせてるなぁ~。……てか、そんな状態で今まで恋愛のほうはどうだったんですか?」
すると、私を見てソワソワしていた春日さんの動きがピタッと止まる。
そして眉間に名刺でも挟めそうな深い皺を刻んで重たい溜め息をつくと、まるでロダンの『考える人』のようなポーズで固まってしまった。
彼女はしばし黙っていたけれど、顔を上げて私とエミリさんを指でちょいちょいと呼び寄せると、小声で言った。
「……実は、ダメンズホイホイなの」
「オオン……」
聞いた瞬間、私は悲しい鳴き声を上げていた。
「どうしてですか? 三ノ宮グループでバリバリ働いてるし、駄目な人の見分け方はできてそうな、しっかりしたバリキャリなのに……」
エミリさんは気の毒そうな顔で言う。
春日さんはミニパフェを手に取り、スプーンで一口食べてからしばし沈黙する。