部長と私の秘め事
「……好きになったら何でも捧げたくなるのよね。というか、私自身が稼いで自立しているから、面倒を見てあげたくなるの。男性が『今度買うつもりだ』って商品名を口にしたら、サプライズで買ってあげちゃう。食事もご馳走するし、ホテル代も出しちゃう」

「ああ……」

 スパダリ並みの財力に、私は思わずうめき声を漏らしてしまう。

「そうしたら、付き合い始めた当初は頼れる感じだったのに、気がついたらバブちゃんになってるのよ。なんでも私の言う事を聞いて、私の決定に従っちゃう」

「それ、ダメンズホイホイっていうより、ダメンズメーカーですね」

 エミリさんに指摘され、春日さんは芸人さんの「ゲッツ」みたいな手で「That's right」と頷く。

「恋をした時は『この人なら私をうまく管理してくれるかも』って思うんだけど、付き合い始めてプライベートな仲になると、私が忖度なく意見を言うものだから、相手は萎縮しちゃうみたい。付き合う人は紳士的な人が多いから、大体私の意見に折れてくれるのよ。……そうしたら、自然とバブちゃんが生まれちゃうのよね……」

 彼女は次に食べる物を吟味しながら溜め息をつく。

「それで経済的にも優位に立ってしまうなら、おかんとバブですね……」

 エミリさんは溜め息をつき、私も春日さんのポンコツな点を知り、親しみを感じるより同情的になってしまう。

 春日さんは紅茶を飲み、しみじみと言う。

「あなた達二人は、恋愛するのに需要と供給が一致していていいわね。……私、自分がどんな人を求めているのか、何をしてほしいのか分からなくなってきたわ」

 その時、私は思った事をつい尋ねてしまった。

「尊さんみたいに動じないスパダリがいたら、どうなりますか?」

 その質問を聞いた春日さんは、想像するように視線を斜め上に向ける。

 それから微笑んで、小さく首を横に振った。

「やめておくわ。人様の彼氏と付き合ったら……なんて、想像するだけでも失礼だもの」

 彼女は冗談めかしてではなく、真剣に言う。

 だから私はとっさに「冗談ですよ」と言えず、ドキッとして後悔してしまった。

「……すみません、変な事を言いました」

 謝ると、春日さんはニパッと笑った。

「いいのいいの! 誰しも自分の側にいる人で『たとえば』を言いたくなるものよ」

「そういえば、今日のディナーはどうする予定なんです?」

 エミリさんが話題を変えてくれ、春日さんが明るく答える。

 私は美味しいスコーンやペストリーを口にしながら、変な空気にしてしまった気まずさを抱く。

 そして大人の対応をしてくれる二人に感謝しながら、少しだけ自己嫌悪に陥った。





 アフタヌーンティーが終わったあと、物凄いスイートルームにチェックインし、私たちはエミリさんとキャーキャー言って撮影会をし、尊さんにポポポポンと写真を送っておいた。

 すると、すぐに彼からメッセージが返ってきた。

【良かったな。俺は今夜は寂しく一人寝するよ】

【枕に私のTシャツ着せて、アカリンを作っていいですよ】

【自分で作ったら寂しいだろうが。いいから、楽しんで】

 スマホを見てニヤニヤしていると、春日さんが咳払いをし、ビクッとする。

「あとから報告ね」

 彼女にニヤリと笑われ、私はミコトゥーとアカリンの事をどう話すべきか、冷や汗を垂らしたのだった。





 部屋でもう少し話したあと、ディナーは同じホテル内にあるイタリアンに行き、コース料理を食べる他に、春日さんに「いいから食いねぇ」と江戸っ子のノリでキャビアをご馳走してもらった。

 食事は事前に彼女が予約していたので、金額の書いたメニューを見る事はなかった。

 けれど一か月後ぐらいに思いだしてホテルのサイトを確認した時、キャビアの金額を見て目玉がポロンと落ちてしまいそうになった。

 でもご馳走してもらった食事、もらったプレゼントの金額を探るのはマナー違反なので、シュッと記憶からデリートしておいた。





 私たちは一度コンビニに行って買い物をし、部屋に戻ったあと、ルームサービスでさらにシャンパンやワイン、ジュースにおつまみ類を持ってきてもらい、本格的に夜の部を開始した。

 パジャマパーティーにしようという事で、それぞれメイクを落としてパジャマに着替え、それぞれソファの好きな場所に陣取った。

 春日さんはトロリとしたベージュ色のシルクのパジャマ、エミリさんは白地に花柄のパジャマ、私はグレーのトレーナーみたいなのと短パンのセットアップだ。
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