部長と私の秘め事
「んー、ジム行ってひたすら体動かして、キックボクシングで殴る蹴るやってるわね。声上げて『畜生!』って言ってるけど、そしたら『負けて堪るもんか』って精神がつくのよ」

「すっご! ストイック!」

 私はとっさに声を上げ、彼女の体をまじまじと見る。

「……だからそんなにスリムで、スタイルいいんですね……」

 私は無意識に自分のお腹に触り、尊さんに評価されているそこをムニムニと揉む。

「割れてるわよ。見る?」

 春日さんはペロンとパジャマの上を捲り、腹筋の縦線が入った素晴らしいお腹を見せてくれた。

「すごーい!」

 私はパチパチと拍手をし、美ボディに見入る。

 彼女はパジャマを戻してから、ソファの上で胡座をかいてキャビアとクリームチーズの載ったカナッペを食べた。

「私、創業者一族の娘だし、管理職だし、『女のくせに』って言われ続けてストレス溜まってるのよ。悔しいから文句を言われないように、バリバリ仕事をこなして稼いでるけど。ミスしたら男性以上に文句を言われるから、なるべくミスしないようにチェックの鬼になってるわ」

「カッコイイ!」

 エミリさんが声を上げ、パンパンと拍手する。

 けれど春日さんは浮かない顔だ。

「……でも、どこに行っても〝女〟で〝お嬢さん〟なのよ。女扱いされるのが嫌なわけじゃない。美人だとか綺麗とか、お金持ちって言われるのも、それなりに気分がいいわ。SNSで見栄張ってるぐらいだしね」

 そう言って彼女は自嘲する。

「仕事で稼ぐ他にも、投資もやってるの。お金はバブちゃんにならないから好き」

 そこでさっきのバブちゃんが戻り、思わず「ぶふっ」と吹きだしてしまう。

「勿論、自分で勉強してるし、投資家が集まるバーやイベント、集まりにも行ってる。ガチの人は情報交換が目的だし、奥さんや恋人のいる人はナンパなんてしない。でも中途半端に『ちょっと稼いでいて投資やってるオレカッケー』な人は、そういう所に来るハイクラスの女性を狙っているの。『見た目だけじゃなく、頭のいい女をゲットして憧れカップルになるオレカッケー』って。それで付きまとわれて、嫌な思いをした事が何回かあるわ」

 やっぱりハイクラス美人でも、色んな嫌な目に遭っているようだ。

「ジムではガチに動くから、沢山汗を掻いてもいいように、体にフィットしたウエアを着ているんだけど、まぁ、いやらしい目で見られるわね。そういうのあるのよ。SNSを見ていても、トレーニーの女性の写真にいやらしいコメントをつける男がいたり」

 春日さんは嫌そうに言ってから裂けるチーズを裂かずに囓り、モグモグと口を動かしたあと、寂しそうに呟く。

「…………本当は守られたいのよ。そんな失礼な事をされた時、『俺の女に何するんだ』ってスマートに守ってくれる彼氏がほしい。……でも私は女にしては強すぎる。滅多な事で泣かないし、経済的に自立してるし、仕事もできるし家柄もいい。自慢してるように聞こえるけど、事実なの」

「分かりますよ。大丈夫」

 私は手を伸ばし、春日さんの背中をさすった。

「……そして日本人の男性のほとんどは、そういう女が苦手だわ。残念ながら、男の人は自分より女性に劣っていてほしいって思っているもの。勿論、全員がそうじゃない。でも私が出会ってきた人はそうだった。……あとは、ヒモになりたがる人かバブちゃんよ」

 彼女は大きく息を吸い、クーッとワインを飲み干す。

「……多分、私はそのうち親が見つけた相手と結婚する。今は仕事を優先して『自分で相手を探す』って言っているけど、恐らく無理。自分の好みじゃない相手とお見合いして、可もなく不可もない結婚をする。一緒にいるうちに愛情は芽生えるでしょうけど、…………私がしたいのは、キュンとするような、夢中になれる恋なんだけどね……」

「…………難しいですね……」

 エミリさんは深い溜め息をつき、手酌で白ワインを注ぐ。

「んー! ごめんね! これは言ってもどうしようもない事だから、口に出しても困らせてしまうだけだけど、誰かに聞いてほしかった。それだけ!」

 春日さんはパンッと手を打ち、エミリさんを指さす。

「風磨さんとはどう? 結婚に向けて進んでる?」

 言われて気づいたけど、もともと春日さんは風磨さんとお見合いする事になっていて、エミリさんは尊さんとお見合いするはずだった。

 ……そう思うと、カオスな女子会だな。

「ゆっくり……ですね。これから彼は社長になるし、パーティーやら何やら忙しくなります。籍を入れるだけならいつでもできるし、結婚式は時期を見てやればいいと思っています。……子供を作る時期は考えないといけませんけどね」

 エミリさんの話を聞いた私は、芋づる式に尊さんのお祖父さんを思い出し、また挙手して質問する。

「……尊さんと風磨さんのお祖父さんに会った事、ありますか?」

 それを聞き、エミリさんは目を丸くして「ああ!」と頷いた。
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