部長と私の秘め事
「……あいつら、一筋縄じゃいかねぇだろ」

「うん、そうなんですけど、なんだろう。馬が合ったんですよね」

「まー、三ノ宮さんはかなりフィーバーしてたな。エミリが酔っぱらったらどうなるかは知ってるけど」

 そこまで話したあと、私はエミリさんが色んなシーンを撮影して尊さんに送っていたのを思いだし、彼の感想を聞いてみたくなった。

「……エミリさんから送られてきた動画や写真を見て、どう思いました?」

「ん? 楽しそうだなと思ってたよ。その場にいたら『こんにゃろう』ぐらいは言ってたと思うけど、基本的に女子会に口だしするつもりはない。男のいる合コンなら別だけど、女子同士、酒を飲んで初めてできる話もあるだろうし、朱里も息抜きしたほうがいいと思ってる」

 思っていた以上に大人な回答があり、私は「さすが尊さん」と小さく拍手をする。

「……俺をなんだと思ってるんだよ」

(復讐のエロエロ御曹司)

 私は心の中で呟き、顔ではニコニコと菩薩のような笑みを浮かべておく。

「まだ昼前だし、腹は減ってないか」

「はい。めっちゃ美味しいエッグベネディクトをご馳走になりました」

 私はフランス料理みたいにお上品で最高に美味しい一皿を思い出し、うっとりと微笑む。

 すると、尊さんが左手を伸ばしてツンと私のお腹をつついてきた。

「この腹は俺じゃない奴に驕られた飯でも、パクパク食うんだな。せっかく評価してたのに……」

「お腹が浮気するって新ジャンルを確立するの、やめてくれます? それに、お腹に口は開いてません! どこの妖怪ですか」

「妖怪アカリン」

「むふんっ」

 奇しくもアカリンの名前を出され、私は噴きだしてしまう。

「いい感じに柔らかく育てるのは、俺の役目なんだけどなぁ……」

「そんな事で残念そうにぼやかないでくださいよ。それより、春日さんってすっごい鍛えてて、めちゃくちゃ格好いい体をしてたんです! お腹なんて引き締まって割れてたんですよ? 凄くないです? 私、あれを目指したいな」

「えぇ……」

 はしゃいで言ったのに、尊さんはめちゃくちゃ嫌そうな声を出す。

「なんですか、その返事は」

「……朱里はフワッと柔らかい抱き心地が最高なんだから、あんまり頑張らなくていいよ」

「もー、女子ウケする体になりたいんです」

「……尊ウケしてくれよ」

 けれどそう言われて、まんざらでもない自分がいる。

 評価されているお腹と言うけれど、そうお肉がたっぷりついている訳でもない。つまんだら……、ちょっと……主張してくるぐらいで。

 何せ胸元にボリュームがあるものだから、へたに服のチョイスを間違えると、本当に大柄に見えてしまう。

 だから多少胸元が目立ってセクシーと思われようが、胸元とウエストの差をつけて「お腹はちゃんとへこんでますよ!」というアピールをしている。

 けど、人によってはいやらしい目で見てくるので、悩ましい問題でもある。

 ていうか、そういう目で見てくる人は、何を着てもそう見てくるけど。

(……あ、痴漢に遭った愚痴を女子会で言えば良かった。……また今度にしとこ)

 二人の事を思いだして微笑んでいると、尊さんがクスッと笑って言った。

「お前、だいぶ明るく笑えるようになったよな。いい傾向だと思う。前は割とツンとしてたから」

「あ……、ですね」

 確かに、この数か月でかなり表情豊かになった自覚はある。笑った回数がとても多い。

「でも、全部尊さんのお陰ですよ?」

「ん? そうか?」

「尊さんが私を明るくしてくれました。……それに尊さんも最近、笑顔が明るくなったと思います。心から楽しそうに笑ってるなって思うんですが、……その解釈で合ってます?」

「お陰様で、毎日楽しいよ」

 その言葉を聞き、胸の奥から喜びがキューッとこみ上げた。

「やった……!」

 私は呟いて、ぐっと小さく拳を握る。

「最初に口説いてきた頃、皮肉っぽい笑い方しかしなかったじゃないですか。『自分は幸せになれない』って諦めている感じで、あの笑顔を見ていると凄く悔しかったんです。だから私『絶対、尊さんを幸せにしてやる』って思ってました」

 それを聞き、尊さんはクスッと笑った。

「ありがとう。朱里は俺の招き猫かもしれないな」

「両手で招いてる、レアな奴ありますよね」

「あー、テレビで見たかも」

 そんないつも通りの話をしながら、私たちは三田のマンションに戻った。



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