部長と私の秘め事
「ずっと目を逸らしていた問題だから、俺も怖い。でも乗り越えるなら今だと思う。結婚式を挙げる時、できるなら父方母方、両方の親戚を呼びたい。速水家の人たちは俺の父親に会いたくないだろうけど、その辺も一日だけ我慢してほしいとお願いしたい。……未来を作っていくために、ちゃんと向き合って話したいんだ」
私はそう言い切った尊さんの腕をそっと撫でた。
小牧さんと弥生さんはニッコリ笑い、頷く。
「いいんじゃない? 応援するよ。正直、私たちに親世代の事はあまり関係ない。親や祖父母が誰かにネガティブな感情を抱いていても、私たちが負の遺産を引き継ぐ必要はないわ。私たちは私たちで、キャッキャウフフと仲良くすればいいのよ。でも尊くんがお祖母ちゃんと和解したいって願う気持ちも十分理解する。だから私たちは尊くんの味方前提で、援護射撃するね」
そう言って、小牧さんは親指と人差し指で銃のハンドジェスチャーをすると、「バンバン」と言って撃つ真似をする。
「当てないでくれよ」
尊さんがニヤッと笑うと、小牧さんは大げさに目を剥いた。
「ホント、口の減らない人だなぁ……」
その時、黒トリュフののったリゾットが運ばれてきて、リゾット大好きな私は目を輝かせて食べ始めた。
「朱里さん、食いつきいいわぁ……」
弥生さんがしみじみと言い、小牧さんはリゾットを嚥下して頷いた。
「先日うちの店に来てくれた時も、美味しそうにパクパク食べてくれるから、作りがいがあるったら」
そう言った時、尊さんがいきなり「ぶふっ」とスパークリングワインに噎せて笑い始めた。
「な、なに!?」
目を丸くしてトントンと彼の背中をさすっていると、彼はナプキンで口元を拭いながら言った。
「こいつ、『To eat is to live』って書かれたTシャツを家着にしてて、同棲し始めた時にそれ見た時、ツボって腹痛くなるまで笑った事ある」
「ぶひゅっ」
「ぶほっ」
姉妹は同時に噴き出し、横を向いて口元を押さえ、プルプルと体を震わせる。
三人に笑われた私は、必死に説明した。
「た、確かにそのTシャツは気に入ってるけど、あれ、恵がくれたんだもん」
数年前の誕生日に、恵が『To eat is to live』――『食べる事は生きる事』と胸元にプリントされたTシャツをプレゼントしてくれた。
本命のプレゼントは別にあったけど、それは自作デザインのグッズを作れるサイトで、恵が作って注文してくれた奴だ。
彼女は『ついで』と言っていたけれど、せっかくもらった物だし、書いてある言葉にも『確かにな……』と感銘を受けて、家ではよく着ている。
恵も私がお気に入りにしたのを喜んでいて、『クタクタになったら次のあげるからね』と言っていた。
……それぐらいお気に入りのTシャツなんだけど、まさかここで笑われるとは……。
私が微妙な顔をしていたからか、小牧さんはパタパタと手を振って「ごめんごめん」と謝る。
「尊くん、朱里ちゃんの大切なTシャツをネタにしたらダメよ」
「悪い悪い。いじりっちゃいじりだけど、可愛いからつい。……嫌だったか?」
尊さんに改めて聞かれ、私は首を横に振る。
「ううん。愛ゆえだって分かってるから。今まで嫌だった事は一度もないですよ」
そう答えると、姉妹は寄り添って「「ヒュ~……」」とはやしたててきた。
私は照れつつも、「それほどでも……」と控えめにピースをする。
そのあとはメインのお肉を食べながら、姉妹がちえりさんとメッセージアプリで連絡をとりつつ、青葉台にある速水家にどんなタイミングで行くかを話し合っていった。
**
私たちはレストランを出たあと買い物をし、ハイヤーに乗って青葉台に向かう。
速水家の豪邸があるのは、二丁目の公園の西側だった。
高級住宅地であるそこは、見える範囲でどの家も面積が広く、通りに面して塀が続いている。
家の中が見えないようにあれこれ工夫されていて、目隠しのための木や、大きなガレージの格子細工にもお金がかかっている。
圧倒されて無言になっていると、車は一軒の豪邸の前で止まった。
降車した小牧さんは勝手口の鍵を開けて「どうぞ」と先に中に入り、続いた私は思わず声を上げてしまった。
「う……わぁ……」
私はそう言い切った尊さんの腕をそっと撫でた。
小牧さんと弥生さんはニッコリ笑い、頷く。
「いいんじゃない? 応援するよ。正直、私たちに親世代の事はあまり関係ない。親や祖父母が誰かにネガティブな感情を抱いていても、私たちが負の遺産を引き継ぐ必要はないわ。私たちは私たちで、キャッキャウフフと仲良くすればいいのよ。でも尊くんがお祖母ちゃんと和解したいって願う気持ちも十分理解する。だから私たちは尊くんの味方前提で、援護射撃するね」
そう言って、小牧さんは親指と人差し指で銃のハンドジェスチャーをすると、「バンバン」と言って撃つ真似をする。
「当てないでくれよ」
尊さんがニヤッと笑うと、小牧さんは大げさに目を剥いた。
「ホント、口の減らない人だなぁ……」
その時、黒トリュフののったリゾットが運ばれてきて、リゾット大好きな私は目を輝かせて食べ始めた。
「朱里さん、食いつきいいわぁ……」
弥生さんがしみじみと言い、小牧さんはリゾットを嚥下して頷いた。
「先日うちの店に来てくれた時も、美味しそうにパクパク食べてくれるから、作りがいがあるったら」
そう言った時、尊さんがいきなり「ぶふっ」とスパークリングワインに噎せて笑い始めた。
「な、なに!?」
目を丸くしてトントンと彼の背中をさすっていると、彼はナプキンで口元を拭いながら言った。
「こいつ、『To eat is to live』って書かれたTシャツを家着にしてて、同棲し始めた時にそれ見た時、ツボって腹痛くなるまで笑った事ある」
「ぶひゅっ」
「ぶほっ」
姉妹は同時に噴き出し、横を向いて口元を押さえ、プルプルと体を震わせる。
三人に笑われた私は、必死に説明した。
「た、確かにそのTシャツは気に入ってるけど、あれ、恵がくれたんだもん」
数年前の誕生日に、恵が『To eat is to live』――『食べる事は生きる事』と胸元にプリントされたTシャツをプレゼントしてくれた。
本命のプレゼントは別にあったけど、それは自作デザインのグッズを作れるサイトで、恵が作って注文してくれた奴だ。
彼女は『ついで』と言っていたけれど、せっかくもらった物だし、書いてある言葉にも『確かにな……』と感銘を受けて、家ではよく着ている。
恵も私がお気に入りにしたのを喜んでいて、『クタクタになったら次のあげるからね』と言っていた。
……それぐらいお気に入りのTシャツなんだけど、まさかここで笑われるとは……。
私が微妙な顔をしていたからか、小牧さんはパタパタと手を振って「ごめんごめん」と謝る。
「尊くん、朱里ちゃんの大切なTシャツをネタにしたらダメよ」
「悪い悪い。いじりっちゃいじりだけど、可愛いからつい。……嫌だったか?」
尊さんに改めて聞かれ、私は首を横に振る。
「ううん。愛ゆえだって分かってるから。今まで嫌だった事は一度もないですよ」
そう答えると、姉妹は寄り添って「「ヒュ~……」」とはやしたててきた。
私は照れつつも、「それほどでも……」と控えめにピースをする。
そのあとはメインのお肉を食べながら、姉妹がちえりさんとメッセージアプリで連絡をとりつつ、青葉台にある速水家にどんなタイミングで行くかを話し合っていった。
**
私たちはレストランを出たあと買い物をし、ハイヤーに乗って青葉台に向かう。
速水家の豪邸があるのは、二丁目の公園の西側だった。
高級住宅地であるそこは、見える範囲でどの家も面積が広く、通りに面して塀が続いている。
家の中が見えないようにあれこれ工夫されていて、目隠しのための木や、大きなガレージの格子細工にもお金がかかっている。
圧倒されて無言になっていると、車は一軒の豪邸の前で止まった。
降車した小牧さんは勝手口の鍵を開けて「どうぞ」と先に中に入り、続いた私は思わず声を上げてしまった。
「う……わぁ……」