部長と私の秘め事
祖父母との対面
塀に閉ざされた中に入ると、一気に視界が広がった。
まず目に入ったのは横長の豪邸で、どの部屋も窓が大きくて開放的だ。
庭には芝生が広がって玄関まで小径が続き、その前には綺麗に手入れされた庭がある。
庭木の中には背の高い松もあり、計算された高さ、刈り込みで通りからも見る事ができるようになっている。
よく見ると豪邸の二階には庭を望むバルコニーがあり、テーブルを挟んだソファセットがある。
オープンテラスカフェにもある奴だけど、確か雨が降っても大丈夫な素材でできているはずだ。
とにもかくにも何もかも大きくて開放的で、カーテンの概念もないのかと思ってしまうほどだ。
「凄い……」
ポカーンとして立っていると、小牧さんが「いらっしゃい」と私の手を引いた。
尊さんを見ると、彼は初めて入った速水家をどこか微妙な表情で眺めていた。
緊張して玄関の前に立っていると、小牧さんはチャイムを押してから玄関のドアを開ける。
「来るって分かってる時って、大体開けてくれてるのよ」
そう言って小牧さんは「おじゃましまーす」と言って玄関の中に入り、靴を脱ぐ。
その時、「はーい」と声がしてエプロンをした中年女性が出てきた。
「あっ、こちらは家政婦さんの的場さん。的場さん。こちらは速水尊くんと婚約者の上村朱里さん」
弥生さんに紹介され、的場さんは〝速水〟という名字を聞いて目を丸くする。
「えっ……、と……」
私は異様にドキドキしてその場に立ちすくんだ。
私たちは家主に招待されておらず、いきなり顔をだしても「誰あなた」状態だ。的場さんだっていきなり現れた私たちを、家に上げるべきか迷っているだろう。
招かれざる客だと自覚しているけれど、いざ知らない人の家に上がるとなると緊張する。
尊さんはもっと緊張しているようで、私より表情を強張らせている。
小牧さんと弥生さんはスリッパを履き、私たちに笑いかけた。
「大丈夫だよ。お母さんたちもみんな味方してくれる。的場さん、これは私たちの問題だから……、ね」
そう言われ、的場さんはおずおずと頷いた。
お二人に勇気をもらった私は、尊さんの袖をキュッと掴んで言う。
「行きましょう。きっと大丈夫」
「……ああ」
頷いた尊さんは静かに息を吐くと覚悟を決め、靴を脱いだ。
大勢の人が談笑している声が聞こえるなか、私たちは緊張しながらウッド調の廊下を進む。
「こんにちはー!」
小牧さんがスライドドアを開けて明るく言うと、「ゆっくりだったのね」とちえりさんの声が聞こえた。
「今日、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにどうしても会ってほしい人がいて、連れてきちゃった!」
弥生さんがそう言ったあと、「じゃじゃーん」と言って私たちを振り向く。
……あかん。ハードル高すぎる。
心臓がバクバク鳴り騒ぎ、呼吸が乱れてくる。
尊さんの手を握ると、彼は深呼吸しながらギュッと握り返してくれた。
「どなたなの?」
恐らく百合さんとおぼしき女性の声が聞こえたあと、尊さんはギュッと唇を引き結びリビングに入った。
彼と一緒に私もリビングに入り、広々とした吹き抜けの空間に圧倒されながらも、ゆったりとした大きなソファに座っている人たちを見る。
目に入ったのはちえりさん、雅也さん、大地さんと恐らく婚約者の女性。伯父の裕真さんと奥さん、息子夫婦の貴弘さんに菊花さん、その子供たち。
……そして、八十代の夫婦が百合さんと夫の将馬さん。
「あっ? …………あ、…………れ? あれっ?」
私は品のいい老婦人――百合さんを見て、目を丸くした。
見た事がある。絶対どこかで会った。
一生懸命脳内で記憶をたぐり寄せ、「あぁっ!」と声を上げる。
「…………あの、……札幌の定山渓温泉でお会いしませんでしたか?」
思いだした瞬間、私は「初めまして」を言って名乗るより先に、そんな事を口走ってしまっていた。
言われて、百合さんは驚きや様々な感情を抱いていただろうに、ポカンとした表情をして、「あぁ……」と私を見て瞠目する。
そうなのだ。尊さんとバレンタイン温泉デートして定山渓に泊まり、翌朝にラウンジに向かった時、すれ違った老婦人がよろけて支えた出来事があった。
間違えていなかったら、あの時の老婦人は百合さんだ。
百合さんは短めの前髪にパーマのかかったミディアムヘア、ゆったりとしたワンピースを着ている。
全体の印象に加え、あえて染めていないグレーヘアがナチュラルなお洒落さを醸し出している。
彼女は呆気にとられた顔で私を見たあと、花束を持った尊さんを見てゆっくり立ちあがった。
そして、呟く。
「…………尊……?」
まず目に入ったのは横長の豪邸で、どの部屋も窓が大きくて開放的だ。
庭には芝生が広がって玄関まで小径が続き、その前には綺麗に手入れされた庭がある。
庭木の中には背の高い松もあり、計算された高さ、刈り込みで通りからも見る事ができるようになっている。
よく見ると豪邸の二階には庭を望むバルコニーがあり、テーブルを挟んだソファセットがある。
オープンテラスカフェにもある奴だけど、確か雨が降っても大丈夫な素材でできているはずだ。
とにもかくにも何もかも大きくて開放的で、カーテンの概念もないのかと思ってしまうほどだ。
「凄い……」
ポカーンとして立っていると、小牧さんが「いらっしゃい」と私の手を引いた。
尊さんを見ると、彼は初めて入った速水家をどこか微妙な表情で眺めていた。
緊張して玄関の前に立っていると、小牧さんはチャイムを押してから玄関のドアを開ける。
「来るって分かってる時って、大体開けてくれてるのよ」
そう言って小牧さんは「おじゃましまーす」と言って玄関の中に入り、靴を脱ぐ。
その時、「はーい」と声がしてエプロンをした中年女性が出てきた。
「あっ、こちらは家政婦さんの的場さん。的場さん。こちらは速水尊くんと婚約者の上村朱里さん」
弥生さんに紹介され、的場さんは〝速水〟という名字を聞いて目を丸くする。
「えっ……、と……」
私は異様にドキドキしてその場に立ちすくんだ。
私たちは家主に招待されておらず、いきなり顔をだしても「誰あなた」状態だ。的場さんだっていきなり現れた私たちを、家に上げるべきか迷っているだろう。
招かれざる客だと自覚しているけれど、いざ知らない人の家に上がるとなると緊張する。
尊さんはもっと緊張しているようで、私より表情を強張らせている。
小牧さんと弥生さんはスリッパを履き、私たちに笑いかけた。
「大丈夫だよ。お母さんたちもみんな味方してくれる。的場さん、これは私たちの問題だから……、ね」
そう言われ、的場さんはおずおずと頷いた。
お二人に勇気をもらった私は、尊さんの袖をキュッと掴んで言う。
「行きましょう。きっと大丈夫」
「……ああ」
頷いた尊さんは静かに息を吐くと覚悟を決め、靴を脱いだ。
大勢の人が談笑している声が聞こえるなか、私たちは緊張しながらウッド調の廊下を進む。
「こんにちはー!」
小牧さんがスライドドアを開けて明るく言うと、「ゆっくりだったのね」とちえりさんの声が聞こえた。
「今日、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにどうしても会ってほしい人がいて、連れてきちゃった!」
弥生さんがそう言ったあと、「じゃじゃーん」と言って私たちを振り向く。
……あかん。ハードル高すぎる。
心臓がバクバク鳴り騒ぎ、呼吸が乱れてくる。
尊さんの手を握ると、彼は深呼吸しながらギュッと握り返してくれた。
「どなたなの?」
恐らく百合さんとおぼしき女性の声が聞こえたあと、尊さんはギュッと唇を引き結びリビングに入った。
彼と一緒に私もリビングに入り、広々とした吹き抜けの空間に圧倒されながらも、ゆったりとした大きなソファに座っている人たちを見る。
目に入ったのはちえりさん、雅也さん、大地さんと恐らく婚約者の女性。伯父の裕真さんと奥さん、息子夫婦の貴弘さんに菊花さん、その子供たち。
……そして、八十代の夫婦が百合さんと夫の将馬さん。
「あっ? …………あ、…………れ? あれっ?」
私は品のいい老婦人――百合さんを見て、目を丸くした。
見た事がある。絶対どこかで会った。
一生懸命脳内で記憶をたぐり寄せ、「あぁっ!」と声を上げる。
「…………あの、……札幌の定山渓温泉でお会いしませんでしたか?」
思いだした瞬間、私は「初めまして」を言って名乗るより先に、そんな事を口走ってしまっていた。
言われて、百合さんは驚きや様々な感情を抱いていただろうに、ポカンとした表情をして、「あぁ……」と私を見て瞠目する。
そうなのだ。尊さんとバレンタイン温泉デートして定山渓に泊まり、翌朝にラウンジに向かった時、すれ違った老婦人がよろけて支えた出来事があった。
間違えていなかったら、あの時の老婦人は百合さんだ。
百合さんは短めの前髪にパーマのかかったミディアムヘア、ゆったりとしたワンピースを着ている。
全体の印象に加え、あえて染めていないグレーヘアがナチュラルなお洒落さを醸し出している。
彼女は呆気にとられた顔で私を見たあと、花束を持った尊さんを見てゆっくり立ちあがった。
そして、呟く。
「…………尊……?」