部長と私の秘め事
「トイレであっても、あんまりそういう事をおおぴらに言ってると、自分の首を絞める結果になりますよ」
すると、そこで初めて彼女たちは私を見て、「ぷっ」と噴き出した。
「やだ、自分の事だと思ってるの? 自意識過剰えっぐ」
「っていうか、私たち脅されてる? こっわぁ……。これって脅迫じゃないの?」
あーあ、こりゃもう話が通じないやつだ。
ペコリと会釈してトイレから出ようとした時、後ろから容赦のない言葉が突き刺さった。
「死ねばいいのに。ブス」
廊下に出た私は、なるべく何も考えないようにしてスタスタと歩き、呟く。
「なるほど」
あまり深く考えたらめちゃくちゃダメージを受けそうで、私は一生懸命別の事を考えようとする。
(スマホに何か面白いもんでもあるかな)
写真でも見ようと思ってスマホを出した時、「あの……っ」と声を掛けられて振り向く。
あとを追うように小走りに近寄ってきたのは、やはり他部署の若い女の子だ。
(また何か言われるのかな)
ちょっと警戒して「はい?」と尋ねると、彼女はトイレのほうをチラッと振り向いてから、スッと息を吸って早口に言った。
「私、上村さんと速水部長の事、応援してますから!」
「ええっ?」
いきなり応援され、私は上ずった声を漏らす。
「……私、さっきトイレの個室にいて、出ようとしたんですけど変な会話が始まっちゃって、出られなくて……」
「ああ、被弾しちゃったんだね。ごめんね、なんか……」
あのあとなら、物凄く出づらかっただろう。
「……『大きいほうじゃね?』って言われました……」
「あああ……! ご、ごめん。ホントに」
不名誉な勘違いをされ、よりいっそう申し訳なくなる。
「いえ。……それはそうと、私、総務部なんですが速水部長ってやっぱり人気があるんです。で、上村さんが秘書になる事でみんな殺気立ってる感じで……。でも私、前から上村さんのファンでもあるんです。……キャーッ、言っちゃった!」
「えっ、えええっ?」
まさかこうくるとは思わなかった。
「上村さんって芸能人顔負けに美人だし、めちゃくちゃスタイルいいし、ずっと陰から拝んでいたんです」
「いや、拝むって……」
「さっきの人たちは総務部の先輩なんですが、ただの性格ブスなんで相手にしなくていいです!」
そう言って、彼女はビシッとサムズアップした。……はい。
「あの人たちいつも女子社員を値踏みして、自分の〝下〟だったら陰でドン引きするような悪口を言ってるんです。口が悪くて本当にびっくりしますよ。育ちを疑います。〝下〟じゃなくても、上村さんや丸木さんみたいに太刀打ちできない美人だと、やっぱり悔し紛れに陰口叩くんですよね。ホント、何をしても悪態しか出てこないので、相手にしなくていいと思います」
「おお……」
彼女は大人しそうな印象だけど、割と手厳しいな。
「そのくせ、若くて顔立ちの整った男性社員には媚び売るんですよね。そうじゃない人の事は悪く言ったり『私の胸見てた』とか自意識過剰で……」
彼女は深い溜め息をついてから、「あっ」と顔を上げる。
「すみません、つい愚痴が」
「ううん」
私を微笑んで首を横に振る。
初対面の私にポロポロ愚痴をこぼしてしまうぐらい、多分毎日我慢してるんだろうな。
「あっ、すみません。私、総務部の西川紗綾って言います。歳は二十三歳です」
「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。商品開発部、企画三課の上村朱里です」
私たちはペコペコとお辞儀し合う。
「とにかく、ああいう性格ブスは何をしても文句を言いますけど、私が仲良くしている人とか、四十代、五十代の先輩は『良かったね』って反応です。速水部長は確かに素敵でファンが大勢いますけど、みんながみんなガチ勢じゃないですから」
「うん、ありがとう」
お礼を言うと、紗綾ちゃん顔を近づけてヒソッと尋ねてきた。
「……で、上村さんと速水部長って、やっぱり付き合ってるんですか? あっ、どっちであっても絶対他言しません! 私、推しの迷惑になる事はしないんで!」
ビシッと掌を向けられ、私は「う、うん」と頷く。
(どうしようかな)
私は「付き合っているのか」と問われて、どう答えるべきか悩む。
すると、そこで初めて彼女たちは私を見て、「ぷっ」と噴き出した。
「やだ、自分の事だと思ってるの? 自意識過剰えっぐ」
「っていうか、私たち脅されてる? こっわぁ……。これって脅迫じゃないの?」
あーあ、こりゃもう話が通じないやつだ。
ペコリと会釈してトイレから出ようとした時、後ろから容赦のない言葉が突き刺さった。
「死ねばいいのに。ブス」
廊下に出た私は、なるべく何も考えないようにしてスタスタと歩き、呟く。
「なるほど」
あまり深く考えたらめちゃくちゃダメージを受けそうで、私は一生懸命別の事を考えようとする。
(スマホに何か面白いもんでもあるかな)
写真でも見ようと思ってスマホを出した時、「あの……っ」と声を掛けられて振り向く。
あとを追うように小走りに近寄ってきたのは、やはり他部署の若い女の子だ。
(また何か言われるのかな)
ちょっと警戒して「はい?」と尋ねると、彼女はトイレのほうをチラッと振り向いてから、スッと息を吸って早口に言った。
「私、上村さんと速水部長の事、応援してますから!」
「ええっ?」
いきなり応援され、私は上ずった声を漏らす。
「……私、さっきトイレの個室にいて、出ようとしたんですけど変な会話が始まっちゃって、出られなくて……」
「ああ、被弾しちゃったんだね。ごめんね、なんか……」
あのあとなら、物凄く出づらかっただろう。
「……『大きいほうじゃね?』って言われました……」
「あああ……! ご、ごめん。ホントに」
不名誉な勘違いをされ、よりいっそう申し訳なくなる。
「いえ。……それはそうと、私、総務部なんですが速水部長ってやっぱり人気があるんです。で、上村さんが秘書になる事でみんな殺気立ってる感じで……。でも私、前から上村さんのファンでもあるんです。……キャーッ、言っちゃった!」
「えっ、えええっ?」
まさかこうくるとは思わなかった。
「上村さんって芸能人顔負けに美人だし、めちゃくちゃスタイルいいし、ずっと陰から拝んでいたんです」
「いや、拝むって……」
「さっきの人たちは総務部の先輩なんですが、ただの性格ブスなんで相手にしなくていいです!」
そう言って、彼女はビシッとサムズアップした。……はい。
「あの人たちいつも女子社員を値踏みして、自分の〝下〟だったら陰でドン引きするような悪口を言ってるんです。口が悪くて本当にびっくりしますよ。育ちを疑います。〝下〟じゃなくても、上村さんや丸木さんみたいに太刀打ちできない美人だと、やっぱり悔し紛れに陰口叩くんですよね。ホント、何をしても悪態しか出てこないので、相手にしなくていいと思います」
「おお……」
彼女は大人しそうな印象だけど、割と手厳しいな。
「そのくせ、若くて顔立ちの整った男性社員には媚び売るんですよね。そうじゃない人の事は悪く言ったり『私の胸見てた』とか自意識過剰で……」
彼女は深い溜め息をついてから、「あっ」と顔を上げる。
「すみません、つい愚痴が」
「ううん」
私を微笑んで首を横に振る。
初対面の私にポロポロ愚痴をこぼしてしまうぐらい、多分毎日我慢してるんだろうな。
「あっ、すみません。私、総務部の西川紗綾って言います。歳は二十三歳です」
「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。商品開発部、企画三課の上村朱里です」
私たちはペコペコとお辞儀し合う。
「とにかく、ああいう性格ブスは何をしても文句を言いますけど、私が仲良くしている人とか、四十代、五十代の先輩は『良かったね』って反応です。速水部長は確かに素敵でファンが大勢いますけど、みんながみんなガチ勢じゃないですから」
「うん、ありがとう」
お礼を言うと、紗綾ちゃん顔を近づけてヒソッと尋ねてきた。
「……で、上村さんと速水部長って、やっぱり付き合ってるんですか? あっ、どっちであっても絶対他言しません! 私、推しの迷惑になる事はしないんで!」
ビシッと掌を向けられ、私は「う、うん」と頷く。
(どうしようかな)
私は「付き合っているのか」と問われて、どう答えるべきか悩む。