部長と私の秘め事
 それを見た私は、自分のプレートのメッセージより興奮してしまい、無言でブンブンと手を振って恵の顔を見る。

 意味を理解した恵は、顔を真っ赤にしてプレートを睨んでいる。

 彼女が返答に窮している間、尊さんがニコッと笑って私に言った。

「朱里、五か月付き合ってくれてありがとう。これからも宜しくな」

「はい!」

 元気よく返事をした私は、グリンッと恵のほうを見てキラキラと目を輝かせる。

「……そんな目ぇしても、何も出ないから」

 恵は私の額に掌を押しつけ、グイッと押す。

「ありゃー」

 私はそう言って一旦引き下がるものの、ニヤニヤがノンストップだ。

「恵は涼さんと親睦を深めたの?」

 ズバッと尋ねると、俯いて指輪を気にしていた彼女は、バッと手を隠そうとして――、テーブルの裏に手をぶつけて「いてっ」と声を上げた。

「だ、大丈夫? ごめん……」

 私は申し訳なくなって恵の肩をさする。

「大丈夫……」

 恵は返事をしたあと、チラッと涼さんを見てモゴモゴと何か言おうとする。

 ――と、恵の代わりに涼さんが言った。

「俺、恵ちゃんと付き合いたいと思ってる」

 スパンッと言われ、恵はこれ以上ないぐらい目をまん丸に見開いた。

 私は声なき声で「キャーッ!!」と叫び、シパパパパパと小さく拍手する。

 恵は真っ赤な顔で泣きそうになり、今にも席を立とうとしていたけれど、グッと堪えた。偉い!

「……わ、私は……」

 恵は何か言おうとし、俯く。

 そんな彼女に涼さんは優しく声を掛けた。

「こういう事、慣れてないよね。困らせてごめん。でも初めてのデートが夢の国なら、ロマンチックな事をしておかないと損じゃないか」

 というか、ランドに来て顔を合わせて話すまでは、涼さんは恵の存在をほぼ知らなかったはずだ。

 それを思うと、指輪もメッセージプレートも行動が速い。

 ……というか、尊さんも一枚噛んでるのかな。だったら納得だけど。

 尊さんの言葉が本当なら、涼さんがここまで女性に構うのは初めてという事になる。なら、余計にサプライズを不発に終わらせたら可哀想だ。

「……ねぇ、恵。恥ずかしいの分かるけど、夢の国の恥は掻き捨てしちゃおうよ。カチューシャだって被ったじゃん」

 恵は物言いたげな目で私を見てから、溜め息をついて言った。

「……私、分からない事だらけなんだ。初対面の人に付き合ってって言われてびっくりしてるし、『よりどりみどりな人がなんで私を?』って思うし、戸惑ってばっかり」

 彼女の気持ちが分かる私は、うんうんと頷きつつ恵の二の腕をさする。

「私と尊さんの始まりも割と突然だったよ。酔っていたとはいえ、結構押し流されちゃったところはあるし。……でも、付き合ってみないと分からない事って沢山あると思う」

 私の言葉を聞いて、恵はコクンと頷く。

 その時、尊さんが言った。

「涼を胡散臭く思う気持ちは分かる。初対面で告白されるなんてホラーだよな。……でも中村さんは俺の事をある程度信頼してくれていると思う。その俺が言う。涼はいい奴だし、これと決めたら裏切らないよ」

 私たちの励ましを聞いたあと、恵はおずおずと涼さんを見た。

「……別れる時は、なるべくダメージのない方法で伝えてくれますか?」

 それを聞き、私は昭和のコントみたいにずっこけそうになった。

「付き合う前から別れる時の事を考えたら駄目だよ」

「……でも、怖い」

 私は今まで見た事がない、恵の強張った顔を見てキュンッと胸を撃ち抜かれた。

「可愛いっ!」

 ギュッと恵を抱き締めると、「はいはい」と背中をポンポンされる。

 涼さんは抱き合っている私と恵を見て、「ふむ……」と腕を組み顎に手をやる。

「恵ちゃんは思っているより、繊細さんなんだね」

 それを聞き、恵はギクリと身を強張らせる。

「……め、面倒な女だと思いますよ。ほら、初めて付き合う女は重たいって言うじゃないですか。引き返すなら今ですよ」

 恵は必死に、付き合わずに済む方法を見つけようとしている。

(涼さんに惹かれてるのは見え見えなのに……)

 なんと言おうか迷っていると、涼さんはニコッと笑って言った。

「いいね。余計に燃える。傷付いて人間不信になっている仔猫を保護した気分だ。これから沢山お世話をして、フッカフカの美猫にできると思うと楽しみだ」
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