部長と私の秘め事
 大物だ……!

 ……というか、私も尊さんにこんな事を言われたような気がする。

 尊さんと付き合う前、私は昭人にフラれ、彼が結婚すると聞いてボロボロになっていた。

 やけっぱちになって飲んでいたところを、尊さんにお持ち帰りされたわけで……。

 私も恵も、ある意味似た者同士だったから、仲良くやれてきたんだと思う。

 どこか傷付いて繊細な部分があるから、お互いの弱点を庇って慰め合える。そんな親友同士だった。

 尊さんと付き合う前までは、『男なんて別にいなくてもいいよね』と親友二人で気ままにデートし、気兼ねない付き合いを楽しんでいた。

 でも今、私は尊さんと付き合って大切にされ、愛情を掛けられて涼さんの言うフカフカの猫になった。

 最近、恵がちょっと私に対して遠慮しているように思えたのは、『今まで通りには付き合えない』という諦め、寂しさがあったからだと思う。

 でも私は、親友として恵に同じ場所に留まってほしくない。

 傲慢な考えかもしれないけど、一緒に一歩前に出て、同じように愛される事を知って、「幸せだね」と言い合いたい。

「……ねぇ、恵。お付き合いしてみようよ。私の恋人はみんな大好き速水部長だよ? 付き合う時はめっちゃ気が引けたよ。でも、捨てられる事なく今に至ってる。それは恵も分かってるでしょ?」

 私は恵の手を握り、彼女の横顔を見つめて言う。

「捨てられる事なく」のところで、視界の端で尊さんがギョッとしたのが見えたので、あとでフォローしておこう。

「涼さんは格好いいし、御曹司だし、気が引けるよね。でもこんなにハイスペックな人なら、わざわざ『付き合いたい』って言わなくても、恵を手玉にとるなんて朝飯前だと思う。本当に悪い男はね、捨てる時に『付き合おうとは言ってない』って言うんだよ」

 そう言うと、恵は「確かに」と頷いた。

「涼さんはサプライズしてまで、恵を好きだって言ってくれてる。その本気具合を信じてみようよ。それで、これから本当の意味でダブルデートしよう? 初回がダブルデートなら、手を繋いでシーを回るのだって、ちょっと気楽になるじゃん」

 恵は明日もこのデートが続くのだと思い出し、「あああ……」と両手で頭を抱える。

 そのあと恵は溜め息をつき、私の手を握ると、顔を真っ赤にし、意を決したように涼さんを見た。

「……き、傷つけないって約束してくれるなら」

 それを聞き、涼さんはニッコリ笑った。

「何をされるのが嫌かは分からないから、沢山話してお互いを知っていこう。それでも信じられないなら契約書を作ってもいい。俺は約束を破らないし、恵ちゃんを大切にする。でも恵ちゃんも、なるべく思っている事や望みがあったら口にして伝えて。お互い意見を言い合わないと、対等な恋人にはなれないから」

 私は涼さんの言葉を聞き、「彼なら大丈夫だな」と確信を得た。

 そもそも彼は尊さんの親友だ。

 沢山傷付いて人間不信気味になっているという意味では、尊さんの右に出る人はいない。

 涼さんはそのハードルを越え、私たちに紹介された選ばれし者だ。

 尊さんとしても、二人が付き合うとは思っていなかっただろう。

 でも「もしかしたら気が合うかも……」と思った可能性はある。

(涼さん、お願いします)

 私は彼に微笑み、トンと恵の背中を叩く。

 ――大丈夫だよ。

 その想いが通じたからか、恵は息を震わせながら吐き、バッと手を差しだした。

「宜しくお願いします!」

 決断した彼女の声を聞き、私たち三人は一瞬固まった。

 涼さんから「付き合おう」と言っているのに、なぜか恵から申し込んだからだ。

 そのあと三人で顔を見合わせ、破顔した。





 レストランを出たあと、私たちは一旦外に出た。

「ねぇ、恵。せっかくだから涼さんと記念写真撮りなよ。初デートでランドってなかなかないよ? このゴージャスなホテルに泊まれた記念に、思いっきり楽しまないと」

「う……、うん……」

 恵はまだモジモジしていたけれど、ノリノリになった涼さんが例のガゼボに向かうと、私と尊さんが二人を撮影する。

 いわずもがな、尊さんが涼さんに、私が恵にデータを渡す算段だ。

「わ……っ、わぁっ」

 恵は涼さんに肩を抱かれ、ガッチガチになっている。それもまた、いとかわゆし。

「はい、三、二、一」

 私は明るく声を掛け、今日結ばれたばかりの二人を撮る。

 ライトアップしたお城みたいなホテルの前、恵と涼さんはとても幸せそうだ。

(良かったね、恵)
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