部長と私の秘め事
 いつも私の相談に乗ってばかりだった彼女が、やっと自分の幸せを求めてくれて本当に良かった。

 嫌な事もあっただろうけど、これからは「私なんて」と一歩引いた所に身を置かないで、堂々と一人の女性として幸せを求めてほしい。

 涼さんはきっと、恵が求めるささやかな望みぐらい簡単に叶えてくれる人だから。

「二人とも、目線こっち」

 次は尊さんが言い、微笑みながら二人を写真に収める。

 きっと尊さんも、ずっとフリーだった涼さんがやっと重い腰を上げた事に安心してるのかな。

 そう思いながら、私は写真撮影が終わったあとの事を考えていた。

 これが終わったら部屋に戻って寝るだけだけど、いきなり二人を同室にしたら荒療治すぎるだろうか。

(部屋に戻ったら恵に相談してみよう)

 私は「うん」と頷き、涼さんに「ファンサお願いしまーす!」と手を振る。

 すると涼さんは一旦屈んだかと思うと、恵を軽々とお姫様抱っこした。

「ぎゃああ……!」

「ナイス涼さーん!」

 私は予想外のファンサに大喜びし、パシャパシャパシャッと二人の姿を連写する。

「キース! キース!」

 調子に乗ってはやし立てると、恵が真っ赤になって怒った。

「朱里、明日絶叫マシーンで隣に乗ってあげないよ!?」

「いいよ! 尊さんに隣に乗ってもらうから!」

 生き生きとして言い返すと、彼女は墓穴を掘ったと自覚したのか「ああああ……」と低い声で呻いた。

「……で、キスしないのか?」

 スマホを構えた尊さんが言い、涼さんがニコニコして尋ねる。

「いい? 恵ちゃん」

「~~~~~っ、こっ、こういう所で人に見られながら初めては嫌です!」

 確かに、それは一理ある。

「じゃあ、ほっぺで」

 めげない涼さんは姫抱っこをしたままチュッと恵の頬にキスをし、彼女はピキーンと固まる。

「シャッターチャンス!」

 その瞬間、私はまたパシャシャシャシャシャ! と連写した。

 撮影タイムが終わったあと、涼さんは固まったままの恵を地面に下ろし、私たちに笑いかけてくる。

「二人の写真も撮るよ」

 彼はポケットからスマホを出すと、私たちにガゼボを譲る。

 私はとりあえず中に入ったものの、いざ被写体になると照れてしまう。

「……えへへ」

 尊さんの顔を見て照れ笑いすると、彼は「思い出を作るんだろ?」と言って涼さんのように私を姫抱っこした。

「わ……っ」

 びっくりしてとっさに彼の首に抱きついた時、反撃と言わんばかりに恵が連写してきた。

 私は思わず声を上げて笑い、照れながらも尊さんと見つめ合ったあと、彼の頬を両手で包んでそっとキスをした。





 部屋に戻ったあと、私は「けーい」と彼女を後ろから抱き締めた。

「…………今日は冷やかし禁止。自分でも一杯一杯だから」

 彼女は溜め息をついて言い、私は「うんうん」と頷く。

「冷やかさないけど、思い切って涼さんと同じ部屋で寝てみるってどう?」

 尋ねた瞬間、恵は見事に固まった。

 返事を待っていたけれど、恵はフリーズして何も言わず、動きもしない。

「もしもし?」

 私は彼女の前に回り、サッサッと顔の前で手を振る。

 恵は目をまん丸に見開いたまま、フツフツと冷や汗を掻いている。

「……じょ、冗談だよ! そんな真剣に悩まなくても……」

 そう言った時、部屋のドアがノックされた。

「ぎゃっ!」

 恵は跳び上がって驚き、物凄い俊敏さで部屋の奥に向かう。まるで背後にキュウリを置かれた猫みたいだ。

 そのまま恵はモソモソとカーテンの陰に隠れてしまうので、私は溜め息をついて「はーい」とドアを開けた。

 すると期待通りというか、予想通りというか、涼さんが立っている。

「恵ちゃん、親睦を深めるために、今日同じ部屋で寝ない? あれ?」

 彼は笑顔でそう言ったけれど、部屋の中に恵がいなそうなので目を瞬かせる。

「カーテンの裏にいます。忍者モードです」

 私がバラすと、恵がカーテンの向こうからくぐもった声で何か文句を言ったけれど、あまりに不明瞭で何て言ってるのか分からない。
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