部長と私の秘め事
「邪魔するね。女子の部屋なのにごめん」
涼さんは一言断りを入れ、部屋の中に入る。
それから不自然に盛り上がっているカーテンを見て、小さく笑った。
「同じ部屋でって言っても、同じベッドでは寝ないよ。お互いの存在に慣れるために、まず二人きりになったらどういう感じか、体験しておくのも悪くないんじゃないかって思って」
彼がそう言っても恵は何も言わず、カーテンの陰で息を殺している。
「恵ちゃん」
涼さんはゆっくりとカーテンに歩み寄り、彼女の体の両側に手をついて腕の中に閉じ込める。
「変な事はしない。約束する」
大切そうに言われ、恵はカーテンの中でギュッと身を縮こめる。
「……こういう言い方はしたくないけど、俺、あんまり時間の余裕がないんだ。恵ちゃんにデートに誘われたら、何が何でも時間を捻出する。でも毎週末は約束できないし、平日も何だかんだで多忙にしている。専務として働く他にも、色々面倒な付き合いがあるから、呼ばれたら仕事の繋がりのためにも出席しないとならない」
カーテンにくるまった恵は、少し俯く。
「今回はせっかく尊に誘われたし、時間を捻出して思いきり遊ぼうと思った。だからその間に、可能なら恵ちゃんと距離を縮めておきたいんだ。……駄目かな?」
そう言われ、恵はおずおずとカーテンから顔だけ出す。
「……そういう事なら、仕方ないですけど……」
彼女の顔は真っ赤で、私は恵が可愛くてベッドの上でゴロゴロ悶えたくなる。
というか、さっきからニコニコしっぱなしで、表情筋がおかしくなりそうだ。目尻なんて下がりっぱなしで、人相が変わりそうだ。顔が溶ける。
そんな私の顔を見て、恵が心底呆れた声を出す。
「朱里。顔」
「えへへへへ……」
私は締まりのない、緩みきった表情でデレデレする。
「じゃあ、私、荷物を纏めてお隣行くね」
私はサササッと洗面所に行き、置いてあった物を片づける。
「ちょ……っ、ちょ、朱里、マジで行くの?」
「マジだよ。明日会おう!」
私はガシャガシャッと雑にバッグの中に道具を突っ込むと、スチャッと手を挙げて部屋を出る。
廊下に出て隣の部屋のドアをノックすると、すぐに尊さんが顔を覗かせた。
「おう」
「オッス、オラ朱里!」
私は元気よく挨拶をし、「お邪魔します」と部屋の中に入る。
「……という事は、交渉はうまくいったのか」
「うまくいったというか、口説き落としで技あり有効一本?」
「柔道のルール、分かってねぇで言ってるだろ」
尊さんはクスクス笑い、私の頭を撫でる。
ほどなくして涼さんが部屋に戻ってきて、自分の荷物を纏め始めた。
「涼さん、恵は男性慣れしていないがゆえに、当たりがキツイ事もありますけど、嫌ってるわけじゃないので安心してください」
そう言うと、彼はニコッと笑って頷いた。
「了解。ありがとね」
涼さんに隣の部屋のカードキーを渡すと、彼はそれを軽く掲げ、「おやすみ」と言って部屋を出ていった。
「どうなるでしょう?」
「まぁ、涼に任せときゃいいんじゃないか? あいつ、女慣れしてる……わけでもないけど、器用なんだ。責任ある立場にあるからこそ、色んな人と対面して他者の心を汲み取る力がある。だから中村さんを傷つける事はないと思ってるよ。だから俺も今回あいつを連れてきたし」
私はそう言った尊さんの腕に自分のそれを絡め、体をくっつける。
「類友ですよね。尊さんもそういうタイプだと思います」
「ん? ……あんがと」
尊さんはクスッと笑ったあとに私の額にキスをし、「寝る準備するか」と言った。
**
涼さんが……、この部屋に……、来る……?
私――中村恵は窓辺で棒立ちになったまま、見事に固まって何もできずにいる。
朱里が出ていったあと、涼さんは「荷物を取ってくる」と言って一度部屋を出ていった。
(……鍵、開けておいたほうがいいのかな)
おずおずとドアに近寄った時、ロックが解除されドアが開いた。
「!!」
今度は叫ばずに無言で驚く事ができた私は、サササ……と壁際に寄って息を殺す。
涼さんは一言断りを入れ、部屋の中に入る。
それから不自然に盛り上がっているカーテンを見て、小さく笑った。
「同じ部屋でって言っても、同じベッドでは寝ないよ。お互いの存在に慣れるために、まず二人きりになったらどういう感じか、体験しておくのも悪くないんじゃないかって思って」
彼がそう言っても恵は何も言わず、カーテンの陰で息を殺している。
「恵ちゃん」
涼さんはゆっくりとカーテンに歩み寄り、彼女の体の両側に手をついて腕の中に閉じ込める。
「変な事はしない。約束する」
大切そうに言われ、恵はカーテンの中でギュッと身を縮こめる。
「……こういう言い方はしたくないけど、俺、あんまり時間の余裕がないんだ。恵ちゃんにデートに誘われたら、何が何でも時間を捻出する。でも毎週末は約束できないし、平日も何だかんだで多忙にしている。専務として働く他にも、色々面倒な付き合いがあるから、呼ばれたら仕事の繋がりのためにも出席しないとならない」
カーテンにくるまった恵は、少し俯く。
「今回はせっかく尊に誘われたし、時間を捻出して思いきり遊ぼうと思った。だからその間に、可能なら恵ちゃんと距離を縮めておきたいんだ。……駄目かな?」
そう言われ、恵はおずおずとカーテンから顔だけ出す。
「……そういう事なら、仕方ないですけど……」
彼女の顔は真っ赤で、私は恵が可愛くてベッドの上でゴロゴロ悶えたくなる。
というか、さっきからニコニコしっぱなしで、表情筋がおかしくなりそうだ。目尻なんて下がりっぱなしで、人相が変わりそうだ。顔が溶ける。
そんな私の顔を見て、恵が心底呆れた声を出す。
「朱里。顔」
「えへへへへ……」
私は締まりのない、緩みきった表情でデレデレする。
「じゃあ、私、荷物を纏めてお隣行くね」
私はサササッと洗面所に行き、置いてあった物を片づける。
「ちょ……っ、ちょ、朱里、マジで行くの?」
「マジだよ。明日会おう!」
私はガシャガシャッと雑にバッグの中に道具を突っ込むと、スチャッと手を挙げて部屋を出る。
廊下に出て隣の部屋のドアをノックすると、すぐに尊さんが顔を覗かせた。
「おう」
「オッス、オラ朱里!」
私は元気よく挨拶をし、「お邪魔します」と部屋の中に入る。
「……という事は、交渉はうまくいったのか」
「うまくいったというか、口説き落としで技あり有効一本?」
「柔道のルール、分かってねぇで言ってるだろ」
尊さんはクスクス笑い、私の頭を撫でる。
ほどなくして涼さんが部屋に戻ってきて、自分の荷物を纏め始めた。
「涼さん、恵は男性慣れしていないがゆえに、当たりがキツイ事もありますけど、嫌ってるわけじゃないので安心してください」
そう言うと、彼はニコッと笑って頷いた。
「了解。ありがとね」
涼さんに隣の部屋のカードキーを渡すと、彼はそれを軽く掲げ、「おやすみ」と言って部屋を出ていった。
「どうなるでしょう?」
「まぁ、涼に任せときゃいいんじゃないか? あいつ、女慣れしてる……わけでもないけど、器用なんだ。責任ある立場にあるからこそ、色んな人と対面して他者の心を汲み取る力がある。だから中村さんを傷つける事はないと思ってるよ。だから俺も今回あいつを連れてきたし」
私はそう言った尊さんの腕に自分のそれを絡め、体をくっつける。
「類友ですよね。尊さんもそういうタイプだと思います」
「ん? ……あんがと」
尊さんはクスッと笑ったあとに私の額にキスをし、「寝る準備するか」と言った。
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涼さんが……、この部屋に……、来る……?
私――中村恵は窓辺で棒立ちになったまま、見事に固まって何もできずにいる。
朱里が出ていったあと、涼さんは「荷物を取ってくる」と言って一度部屋を出ていった。
(……鍵、開けておいたほうがいいのかな)
おずおずとドアに近寄った時、ロックが解除されドアが開いた。
「!!」
今度は叫ばずに無言で驚く事ができた私は、サササ……と壁際に寄って息を殺す。