部長と私の秘め事

ラビティーシー

「……朱里、起きるぞ」

「んぁ……」

 尊さんに揺さぶられたのは、五時半だ。

「……ねもい」

「こら、潜るな」

 もう着替えている尊さんは布団を捲り、「おはよ」と額にチュッとキスをしてくる。

「……おかわり」

「喜んで」

 私のコールに応えて、尊さんはチュッチュッとキスの雨を降らした。

「んー……」

 私は目を擦って起き、思いきり伸びをする。

「……恵、大丈夫かな」

「涼は大丈夫だよ。むやみやたらと女の子を襲うほど飢えてないし」

「メッセージ送ってみよ」

 私は充電が満タンになったスマホを手に取り、恵に【おはよー】とメッセージを送る。

 しばらくすると既読がつき、キャラクターが【おはようございます】と挨拶しているスタンプが送られてきた。

 続けて、【寝不足です】とキャラクターが眠そうにしているスタンプも送られてくる。

 私はそれに【どんまい!】とスタンプを返してから【朝食楽しみだね! 胃のウォーミングアップしとく!】と送った。

 顔を洗ったあと、一日経っても持つよう念入りにメイクをする。

 その間、尊さんは「ちょっと優雅な事をしとく」と言って、バルコニーに出て歯磨きをしていた。うん、貴族だ。

「準備できました! 行きましょうか! ビュッフェが俺を待っている!」

 パンパン! とお腹を叩いてやる気を見せると、尊さんが「食べ物をさらいに行くバイキングだな」と笑った。





 部屋を出て隣室をノックすると、真っ赤になった恵が出てきた。

「おっ、おはっ、よう!」

「何があった。吐け」

 私は笑顔で恵の腕を組み、エレベーターホールに向かいながら言う。

「……な、何もないよ」

「嘘だ。恵は意味もなく乙女な顔をしない」

 廊下を歩いている間、恵は言うか言わないか迷っていたけれど、チラッと後ろを歩いている涼さんを見てから、溜め息混じりに言った。

「……ちょっと、今回の旅行中は勘弁。この二泊三日が終わった後日、改めて落ち着いてから言う」

「ん、分かった」

 見てるだけで一杯一杯だと分かるので、私はからかうのをやめてポンポンと恵の背中を叩いた。





 ホテル一階にあるレストランは、ヨーロッパのお城風の外観をしていて、外から見ると、コの字型にせり出している建物の右側に当たる。

 入り口にはドンとした白いアーチに青銅色の錬鉄の門があり、蔦とお花が絡まりウッド調の看板がついている。

 店名にガーデンとついているだけあり、お城の庭で優雅に食事をするお姫様のような気分だ。

 店内に入るとすぐ、精緻な模様が描かれた円形の床飾り――メダリオンがあり、真上には同様に天井が丸く窪んでいて、側面から間接照明の光が漏れていた。

 その横がお会計のカウンターになり、アーチをさらにくぐった奥にホールがある。

 女性スタッフは白いパフスリーブシャツにアイボリー地の柄物のベスト、エメラルドグリーンのロングスカート。

 男性スタッフは白シャツにダークオリーブのベストにえんじ色のネクタイ、ベージュのズボンというスタイルだ。

 広々とした店内は白い天井に壁、白いテーブルクロスが掛かった角テーブルに、くすんだ赤とマットゴールドを基調にしたストライプの椅子があり、その配色が昔からの正統派ラビティーランドっぽくて、一目見て好きになった。

 勿論、椅子はそのタイプだけでなく、アイボリー、クリーム色とブラウンのストライプなどバリエーションがある。

 白い格子枠の窓の上部には、椅子と同じ色の半円を描いた上飾り(バランス)があり、その下のレースのカーテンもエレガントだ。

 窓の向こうには綺麗に整えられた庭園があり、朝から贅沢な眺めにうっとりしてしまう。

 私たちは席に案内されたあと、食べ物をとりに行く。

 順番に見て行くと、シリアルにサラダ、フルーツポンチに、小さなグラスに入ったパンナコッタや、フルーツ盛り合わせがあり、しょっぱい系から甘い系、ノーマルと色々あるパンも並んでいる。特に甘い系はラビティーの形の物もあり、見た目が可愛い。

 ポテトサラダやエッグサラダなどは、ホールケーキのような円形で、その上にプリンセスのシルエットがついているものだから、崩すのが勿体ない!

 他にも雑炊やスープ、筑前煮やおいなりさん、魚のソテー、チキンのトマト煮に玉子料理各種、パンケーキにワッフル、フレンチトースト、お味噌汁にご飯、グラタン、蒸し野菜……等々。意外と和食メニューもあり、色んな物が選べて嬉しい。

「可愛い~。美味しい~」

「どっちかにしなよ」

 恵に突っ込まれつつも、私は幸せいっぱいにパクパク食べていく。

 尊さんと涼さんは和食メインだ。

 いわく、「俺たちおっさんだから……」らしい。ブレない。

 ゆっくり味わっていたいところだけど、今日は二日目だ。モリモリ食べたらすぐに部屋に戻って歯を磨いて、シーに向かわなければならない。

「……まだ入る……」

「腹八分目にしときなよ。朝からよく食べるなぁ」

 また恵が突っ込み、ポンポンと私のお腹を叩く。

 食事を終えたあと、私たちは可愛いレストランに別れを告げ、身支度を調えて大きい荷物を持ち、フロントに行く。
< 358 / 373 >

この作品をシェア

pagetop