部長と私の秘め事
 その晩、何回抱かれたか分からない。

 ありとあらゆる体位で愛されたのに、不思議な事に体はほとんど痛まなかった。

 とにかく尊さんはエッチが上手い。

 私は信じられないぐらい気持ちいい思いをしたあと、いつの間にか気絶してしまい、そのまま深い眠りについていた。



**



「…………信じられない……」

 翌朝の私の声は、カスッカスだった。

 私たちは起きてシャワーを浴びたあと、ダイニングで朝食をとっていた。

 二人ともホテルのパジャマを着たままで、なんとも怠惰な食事だ。

 エッチは気持ちよかったのに私はなぜか腹を立て、照れくささを誤魔化すためにご飯をモリモリ食べている。

「何が信じられないんだよ」

 尊さんはバゲットにバターを塗りつつ、気怠げに言う。

「……なんであんなにするんですか。体力化けもんですか」

「お前だって善がってただろうが。それにこれだけ食べられてるなら問題ないだろ」

 私は照れくさくてムスッとしているのに、尊さんはいつも通りだ。

「そうですけど……」

 溜め息をついた私は、ずっと思っていた事をまた考えて溜め息をつく。

 スッキリしない表情をしていたからか、鋭く察した尊さんが尋ねてきた。

「また何か?」

 私はサクフワのクロワッサンを食べながら、言おうか言うまいか悩む。

「悩んでるなら言えよ。俺もスッキリしなくて気持ち悪い」

 確かにその通りだと思い、私は渋々と言う。

「……エッチ、上手いなと思いまして」

 私の言葉を聞き、尊さんは食事をしていた手を止めた。

 そして少しのあいだ口を動かしながら私を見て、ズバリと尋ねてきた。

「女関係、気になる?」

「…………気にならないと言えば嘘になります。だって、めちゃくちゃ上手いし……」

 ボソボソと言うと、彼はあっけらかんとして言う。

「お前が考えてるほど、ヤってないと思うけど」

「ホントですか? 伝説作ってそう」

「なんだよ、伝説って」

「速水伝説、乱れる春の章」

 冗談めかして言うと、尊さんは「ぶふゅっ」とコーヒーを噴きかけた。

 彼は咳払いし、じっとりとした目で私をみてから気を取り直して言った。

「こういうのは経験人数じゃなくて、相手の事を考えるかどうかだろ。仮に百人とヤッても、独りよがりな事をしてたなら、ちっとも上達しないと思う」

「……そうですね」

「俺は朱里を気持ちよくしたいと思って、お前の反応を見ながら行動しただけだ。基礎知識があって、自分の快楽に流されない忍耐力があれば誰だってできる事だぞ。……あんまり余計な事を考えるな」

「はい」

 彼の話を聞いた私は、何となく安心した。

 尊さんは格好いいし、何だかんだ言っていい男だから、彼に惹かれる女性画いるのは分かる。

 怜香さんの邪魔があってまともなお付き合いをしていないとはいえ、ワンナイトラブなら何度もあったかもしれない。

(……でも、尊さんが最後に選んでくれたのは私だ。過去に嫉妬しても何も解決しないんだから)

 自分に言い聞かせた私は、モヤモヤを打ち明けたついでに、もう一つの事も告白した。

「……私、昨晩、途中で昭人を思いだしてしまいました」

「ふぅん」

 尊さんは動じないし、気を悪くした様子も見せない。

「ごめんなさい。我ながら不誠実だと思います。もう忘れないといけないのに」

「それって、どういう感情で思いだした? 田村クンのほうがいいと思った?」

「違います。真逆です。『昭人はこういう事をしてくれなかったな』って」

「なら、いーんじゃね?」

「はい?」

 予想外の事を言われ、私は目を丸くする。

「田村クンと比べられて、俺のほうが劣ってたらやだけど、要は俺のほうがいい男だから、『何であんな男と付き合ってたんだろ』って思ったんだろ? それって正常な考えだと思う。DVされてた女性が、まともな男と付き合って世界が開けたように感じるのと似てるというか」

「はぁ……」

 言われて「確かに……」と思った。

「お前は今、俺と付き合って幸せなんだよ。だからあまり幸せじゃなかった頃を思いだして、『もっと早く尊さんと付き合いたかった……』って思ってるワケ」

 彼は「もっと」の下りだけ、裏声で言う。

「……変な裏声作るのやめてくれます?」

 唇を突き出してむくれると、彼は「ははっ」と楽しそうに笑った。

 そのあと朝食を食べ終えた私は、彼にプレゼントを渡そうと思い、紙袋を持ってくる。

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