部長と私の秘め事
「あ、あの。メリークリスマス。……出遅れましたけど」

「おう、サンキュ」

 昨日会った時から紙袋を持っていたから、バレバレだっただろう。

 でも尊さんは指摘せず、私の格好がつくようにしてくれた。

 ……こういうところ、やっぱりさり気なく気遣い男なんだよな……。

「あの……、金額的に釣り合いが取れないかもですが……」

 そうは言っても、三万円近くするブランドネクタイなので、私にしては背伸びしたほうだ。

「そういうの気にすんな。朱里からもらえるなら何でも嬉しい。開けていい?」

「はい」

 頷くと、尊さんは白いリボンを引き、モスグリーンの細長い箱を開けた。

 中に入っているのは、さり気なくブランドロゴが隠れているシンプルめの紺色のネクタイだ。

「あ、あの。一生懸命考えて選びましたが、好みじゃなかったらすみません」

 彼氏にプレゼントをあげて、こんなに緊張するの初めてだ。

 立ったままモジモジしていると、尊さんはシュルッとネクタイを箱から出して微笑んだ。

「ありがと。大切にするわ」

 お礼を言ったあと、彼は私を手招きする。

「ん……?」

 近寄ると、彼は私を抱き寄せて、自分の膝の上に向かい合うように座らせた。

「初めては朱里が結んで。パジャマだけど」

 そう言われて、胸がキューッとなった。

 なんでこの男、女が喜ぶツボを心得てるんだろ。ムカつく。

「……私、ネクタイ結んだ事ありませんよ」

「お、ネクタイ処女もらい」

「ちょっと! 変な事言うのやめてくださいよ」

 言いながら、私はとりあえず尊さんの首にネクタイを掛けてみて、手順が分からず首を傾げる。

「やり方、分かんねぇ?」

「はい……。すみません。中学はリボンで、高校はセーラーだったので」

「セーラーいいな。ガキには興味ねぇけど、朱里のセーラーならめっちゃ興奮するかも」

「変態!」

 私は彼の顔面を、むぎゅうと押す。

 そして失礼だと承知の上で、ボソッと言った。

「意外と、女子高生とか好きじゃないんですね」

 そう言うと、彼は目を剥いて私を見てきた。

「お前、俺をどういう目で見てる訳? マジでガキには興味ねぇよ。女子大生も論外」

「女子大生ならワンチャンあるんじゃないですか? ふがっ」

 口答えすると、また鼻を摘ままれた。

「あのなぁ、お前が世の男にどういうイメージを持ってるか知らねぇけど、俺は色気のある大人の女しか興味ない訳。これぐらい……」

「わっ」

 尊さんが話しながら、私のお尻を鷲掴みにした。

「これぐらい脂肪がのってるほうが好み。なんなら巨乳で、ふるいつきたくなるような体だと尚いい。……そんで、クールそうでちょっと生意気で、ちょっと抜けてると最高」

「っ~~~~」

 私の事が好きだと言われ、不意打ちを受けてカーッと赤面してしまう。

 なのでつい、照れ隠しで憎まれ口を叩いてしまった。

「脂肪って言うな」

 ボスッと軽く彼に腹パンすると、尊さんは肩を揺らしてクツクツと笑う。

「ネクタイの結び方、教えてやるよ」

 彼は私の両手を掴み、ネクタイを結び始めた。

「こうしてこう、巻き付けて……、こう」

「……複雑、ですね……」

 私はできあがった結び目を見て、目を瞬かせる。

「俺、割と古風なの好きなんだけど。玄関で『あなた、曲がってますよ』ってちょっと直すやつとか」

「ええ? ああいうの好みですか? じゃあ私、着物で割烹着だ」

「やべぇ、それめっちゃ滾る。『奥さん……っ』ってやりたい」

「エロばっかり!」

 私たちはポンポン言い合い、クスクス笑う。

 彼とそんな関係になれたのが堪らなく嬉しく、この時間が愛おしかった。

 そうやって、しばらくイチャイチャしていたけれど、チェックアウトの時間が近づいてきた。

 私たちは服を着て帰り支度をすると、一晩お世話になったゴージャスな部屋に別れを告げる。

「また来ような。他のホテルでもいいし、ここを贔屓にしてもいいし」

 エレベーターの中、尊さんが私の手を握って言う。

「はい。今度はこんなに立派な部屋じゃなくてもいいですよ」

 そう言うと、彼は繋いでいた手を放し、両手を壁について私をその中に閉じ込めてきた。

「躾その二は?」

 言われて、私はゾクゾクしながら答えてしまった。

「『遠慮しない』」

「Exactly.忘れんな」

 彼はそう言ったあと、チュッと私の額にキスをしてまた手を握ってきた。

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