部長と私の秘め事
 ベッドに移動したあと、またグズグズになるまでとろかされ、数え切れないほど達かされた。



 また絶頂させられたあと、執拗な愛撫を受けてトロトロにされる。



 喘ぎすぎてすっかり声がかすれているのに、尊さんは攻める手を止めなかった。



 挿入寸前になって焦らされた私は、好奇心と期待に胸を高鳴らせる。



 ――沢山快楽を教えられたけれど、もっとこの先を知りたい。



 ――教えてほしい。



 カタカタと心の奥にある小箱が震え、蓋を開こうとしている。



〝それ〟が開いたら、私は彼を好きになってしまう。



 懸命に蓋を押さえているけれど、蓋は内側から生じる圧倒的な力に押され、今にも開いてしまいそうだ。



 不安を抱きながらも、信じられないほどの悦楽を教えられた私は、すっかり彼の虜になってしまったのだった。







**







 翌朝、目を覚ました私は、パジャマを着せられてベッドで眠っていた。



 隣に部長はおらず、ワンナイトラブが終わった事を知る。



「……ん?」



 でもベッドサイドにうぐいす色の小さな小箱が置かれてあり、そこに刻まれている白いロゴを見て「うぇっ!?」と声を上げた。



 箱の上にはメモ用紙の切れっ端があり、一言だけ【やる】と。



『やる』って、やる? くれるって事?



 憧れてはいても一生買えないハイジュエリーの箱を前に、私は十分ぐらい固まって悩み続けていた。



(……開けていいの? あとから『返せ』って言われたらどうしよう。ちょ、ちょっと待って。部長に連絡)



 私は慌ててスマホを出し、昨晩充電していなかったので電池がギリギリのそれでメールアプリを起ち上げる。



 上司とワンナイトラブをして帰られたくせに、連絡しなければならないなんて気まずすぎる。



 でも、詳しい値段は知らないけれど、これが庶民には買えないお高い万円のジュエリーなのは分かっている。



 だから確認するためにも、その気まずさを我慢してメールを打った。



【おはようございます。昨晩は大変失礼いたしました。つきまして、緑色の箱を見つけたのですが、こちらはどうすれば宜しいでしょうか。ご多忙ななか申し訳ありませんが、なるべく早めにご返信いただけたらと思います】



 私はメールに誤字がないか確認したあと、トンッとスマホをタップして送信する。



(……ワンナイトラブした相手にビジネスメール! ……色気がない……)



 別に上司とどうこうなりたいと思っていた訳じゃない。



 彼の事は『人気のある人だな』と思っていた。



 でもファンの女性社員にライバル視されたら堪ったもんじゃないので、モブ社員Aに徹していた。



「……なんで部長なんかと寝ちゃったんだろ……」



 私はまだ昭人の事が好きなはずで、顔がいいとはいえ部長に一回抱かれただけで、ほだされるなんてどうかしてる。



「部長も部長だよ。なんでこんな訳の分からない事をするの?」



 私は両手で頭を抱え、「ううう……」と唸る。



 するとすぐにスマホが鳴り、メールの返信を知らせる。



 メールを読むのが怖い。



 ジュエリーの事もだけど、昨晩の事も含めて「勘違いするな」と書いてあったら、完全に男性不信になってしまいそうだ。



 ……というか、部長の考えが分からない。



 彼だって私の事をなんとも思っていなかったはずだ。



 部長に声を掛けられるのは、用事がある時だけ。



 休憩時間に私語をしたのは数えるぐらいだったし、いつも男女問わず部下に慕われている彼なら、私より仲良くしている人は大勢いるだろう。



(なんで私だったの?)



 悔しいけど彼はイケメンだ。高身長で仕事ができるし、噂では難関大学卒で、TOEICも満点だったとか。



 部下への気配りもできるし、誰かが失敗してフォローする時も、頭ごなしに叱らず、次に同じ失敗をしないための確認をしっかりする。



 だからみんな『速水部長の下でなら安心して働ける』と言っていた。



 そんな人気者が、普段は親友の恵としか話さない私になぜ興味を持ったのか。



(……昭人に未練があるの知ってるくせに、なんであんな……、上書きするような抱き方をするの?)



 昨晩の嬌態を思いだした私は、カーッと赤面する。
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