部長と私の秘め事
「……なんか方法はないかな。……あいつ、危なっかしいんだよ。しっかりしているように見えるが、まだ中学生の子供だ。友達も少ないって言ってたし、父親を亡くしたなら心に殻を作ってると思う。母子家庭になったなら、親御さんも忙しくしているだろうし」
そう思うと、周囲に気に掛けてくれる大人がいない朱里が不憫になった。
《思い切って会ってみたら? 喜ぶと思うけど》
「無責任な事を言うなよ。依存させたくないから距離を置いたんだ」
《じゃあ……、朱里ちゃんの友達を利用するとかは?》
友達と言われ、俺は顔を上げる。
《本当にやばい奴の手段だけど、校門をチェックしてたら、一緒に帰る友達ぐらい分かるんじゃないの? まぁ、部活とかもあるだろうから、一日で分かるかは保証しかねるけど》
その手段を聞き、俺は深い溜め息をつく。
「本物の変質者じゃねーか」
《じゃあ、俺も付き合ってやろうか? 二人で行って、妹を待ってるっていう体なら、なんとかならない?》
「付き添いはいいよ。お前にまで迷惑をかける訳にいかない。……でも、妹を待ってる体っていうのはいいかもな」
《なら、イマジナリー妹を作って行っておいでよ》
「イマジナリーってな……」
俺は苦笑いして言う。
〝妹〟の話をしている時、なぜだか落ち着かない気持ちになり、頭痛が襲ってくるが、いつもの事なので無視した。
「……サンキュ。話してみて勇気が出た。……イマジナリー妹の方向性でいってみるわ」
《なんかあったらすぐ言えよ? 警察の知り合いいるから》
「おい、不穏な事を言うな」
突っ込みを入れると、涼はクスクス笑った。
**
一月半ばの金曜日、俺は朱里が通っている学校近くの駐車場に車を止めた。
周囲は住宅街で、学校の近くには地下鉄丸ノ内線の駅がある。
下校時刻になると、俺は通行人を装って校門近くに向かった。
(やべぇ……。今すぐ立ち去りたい)
当たり前だが校門から出てくるのは中高校生ばかりで、あまりの場違い感に消え去りたくなる。
調べた結果、朱里は高円寺付近に住んでいて、自転車通学なのではと見当をつけている。
なぜかというと、SNSに頻繁に上がっていたファストフードの店舗を調べると、高円寺駅付近のものばかりだったからだ。
加えて学校から高円寺駅まで、チャリで十五分程で、遠距離の通学でなければ、交通機関を使わず自転車通学になるだろう。
いっぽうで、SNSで友人と一緒に出かけたとおぼしき写真は、高円寺以外の場所が多かった。
高円寺付近の店には一人で訪れているらしく、友人は朱里と違う通学路を使っていると予測した。
そこまで見当をつけた俺は、涼からアドバイスされた通り朱里の友人に話を聞いてみる事にした。
朱里には申し訳ないが、友人に怪しまれるのを見越して、話す時には自殺未遂の事も含めて〝相談〟という体で打ち明けるつもりだ。
俺はスマホを弄っているふりをして校門から少し離れた電柱の陰に立ち、学生たちをチラチラ見る。……我ながら本当にやべぇ。
(あ)
やがて、見覚えのある茶色いダッフルコートに、チェックのマフラーを身につけ、風にロングヘアをなびかせた少女が校門から出てきた。
平均より少し高めの身長の彼女は、間違いなく朱里だ。
こちらに気づかないか息を潜めて見守っていたが、彼女は一緒に校門から出てきたショートヘアの友人に『バイバイ』と言って反対側へ自転車を漕いでいった。
友人はスマホを見ながら、こちら側に歩いてくる。
――仕方ない、今だ。
『すみません』
勇気を出し、俺はショートヘアの少女に声を掛け、近づいた。
俺は自分の容姿を客観的に理解している。
恐らく、十人中八人は俺を見て『高身長のイケメン』と答えると思っている。
だから愛想笑いをすれば、大抵の人には受け入れてもらえると踏んでいた。
彼女も例外なく、自分に笑いかけてきた俺を見て〝男〟を意識し、立ち止まった。
『……な、何ですか』
それでも〝知らない人に話しかけられた危機感〟はあるんだろう。彼女は学校のほうをチラッと見たあと、構わず歩き続ける。
俺は付きまとっている様子を見せず、彼氏のように自然に彼女の隣を歩いた。
『今野朱里さんとは友達?』
彼女の名前を聞き、ショートヘアの少女は目を見開き、歩を緩める。
『……どうして朱里の名前を……』
『大切な話があるから、少し付き合ってもらえないかな。不安なら人が大勢いる場所を選ぶし、時間はとらせない』
『でも……』
少女はまだいぶかしがり、俺を胡散臭そうに見る。
『怪しむ気持ちは分かる。だが話したいのは朱里さんの命や、身の危険に繋がる事だ。……彼女、正月に愛知県に行ったと言っていなかったか?』
彼女は目を見開き、驚いた様子で俺を見た。『どうして知っている?』という顔だ。
『俺は年末年始、一人で名古屋に行った。その時に偶然朱里さんと出会ったんだ。……彼女は旅先で、橋から飛び降りようとしていた』
今度こそショートヘアの少女は、大きく息を吸って立ち止まった。
『……道理で……、様子がおかしいと思った……』
『君には言ってなかった?』
穏やかに尋ねると、少女はコクンと頷いて提案してきた。
『場所を変えて話しませんか? 学校の周りはちょっと……』
『分かった。近くに車を停めているけど、中野を離れても大丈夫? 誓って変な事はしないし、もし様子がおかしいと思ったらすぐ通報して構わない。……でも一応、朱里さんの命を助けた男だと思って信頼してほしい』
『……分かりました。私、中村恵と言います。あなたは?』
『篠宮尊。二十歳の大学生だ』
名乗ってから通っている大学名を伝えると、名のある大学だからか彼女の俺を見る目が変わった。
『じゃあ、行こうか』
俺はポケットに手を入れて車のキーを確認し、駐車場に向かって歩き始めた。
そう思うと、周囲に気に掛けてくれる大人がいない朱里が不憫になった。
《思い切って会ってみたら? 喜ぶと思うけど》
「無責任な事を言うなよ。依存させたくないから距離を置いたんだ」
《じゃあ……、朱里ちゃんの友達を利用するとかは?》
友達と言われ、俺は顔を上げる。
《本当にやばい奴の手段だけど、校門をチェックしてたら、一緒に帰る友達ぐらい分かるんじゃないの? まぁ、部活とかもあるだろうから、一日で分かるかは保証しかねるけど》
その手段を聞き、俺は深い溜め息をつく。
「本物の変質者じゃねーか」
《じゃあ、俺も付き合ってやろうか? 二人で行って、妹を待ってるっていう体なら、なんとかならない?》
「付き添いはいいよ。お前にまで迷惑をかける訳にいかない。……でも、妹を待ってる体っていうのはいいかもな」
《なら、イマジナリー妹を作って行っておいでよ》
「イマジナリーってな……」
俺は苦笑いして言う。
〝妹〟の話をしている時、なぜだか落ち着かない気持ちになり、頭痛が襲ってくるが、いつもの事なので無視した。
「……サンキュ。話してみて勇気が出た。……イマジナリー妹の方向性でいってみるわ」
《なんかあったらすぐ言えよ? 警察の知り合いいるから》
「おい、不穏な事を言うな」
突っ込みを入れると、涼はクスクス笑った。
**
一月半ばの金曜日、俺は朱里が通っている学校近くの駐車場に車を止めた。
周囲は住宅街で、学校の近くには地下鉄丸ノ内線の駅がある。
下校時刻になると、俺は通行人を装って校門近くに向かった。
(やべぇ……。今すぐ立ち去りたい)
当たり前だが校門から出てくるのは中高校生ばかりで、あまりの場違い感に消え去りたくなる。
調べた結果、朱里は高円寺付近に住んでいて、自転車通学なのではと見当をつけている。
なぜかというと、SNSに頻繁に上がっていたファストフードの店舗を調べると、高円寺駅付近のものばかりだったからだ。
加えて学校から高円寺駅まで、チャリで十五分程で、遠距離の通学でなければ、交通機関を使わず自転車通学になるだろう。
いっぽうで、SNSで友人と一緒に出かけたとおぼしき写真は、高円寺以外の場所が多かった。
高円寺付近の店には一人で訪れているらしく、友人は朱里と違う通学路を使っていると予測した。
そこまで見当をつけた俺は、涼からアドバイスされた通り朱里の友人に話を聞いてみる事にした。
朱里には申し訳ないが、友人に怪しまれるのを見越して、話す時には自殺未遂の事も含めて〝相談〟という体で打ち明けるつもりだ。
俺はスマホを弄っているふりをして校門から少し離れた電柱の陰に立ち、学生たちをチラチラ見る。……我ながら本当にやべぇ。
(あ)
やがて、見覚えのある茶色いダッフルコートに、チェックのマフラーを身につけ、風にロングヘアをなびかせた少女が校門から出てきた。
平均より少し高めの身長の彼女は、間違いなく朱里だ。
こちらに気づかないか息を潜めて見守っていたが、彼女は一緒に校門から出てきたショートヘアの友人に『バイバイ』と言って反対側へ自転車を漕いでいった。
友人はスマホを見ながら、こちら側に歩いてくる。
――仕方ない、今だ。
『すみません』
勇気を出し、俺はショートヘアの少女に声を掛け、近づいた。
俺は自分の容姿を客観的に理解している。
恐らく、十人中八人は俺を見て『高身長のイケメン』と答えると思っている。
だから愛想笑いをすれば、大抵の人には受け入れてもらえると踏んでいた。
彼女も例外なく、自分に笑いかけてきた俺を見て〝男〟を意識し、立ち止まった。
『……な、何ですか』
それでも〝知らない人に話しかけられた危機感〟はあるんだろう。彼女は学校のほうをチラッと見たあと、構わず歩き続ける。
俺は付きまとっている様子を見せず、彼氏のように自然に彼女の隣を歩いた。
『今野朱里さんとは友達?』
彼女の名前を聞き、ショートヘアの少女は目を見開き、歩を緩める。
『……どうして朱里の名前を……』
『大切な話があるから、少し付き合ってもらえないかな。不安なら人が大勢いる場所を選ぶし、時間はとらせない』
『でも……』
少女はまだいぶかしがり、俺を胡散臭そうに見る。
『怪しむ気持ちは分かる。だが話したいのは朱里さんの命や、身の危険に繋がる事だ。……彼女、正月に愛知県に行ったと言っていなかったか?』
彼女は目を見開き、驚いた様子で俺を見た。『どうして知っている?』という顔だ。
『俺は年末年始、一人で名古屋に行った。その時に偶然朱里さんと出会ったんだ。……彼女は旅先で、橋から飛び降りようとしていた』
今度こそショートヘアの少女は、大きく息を吸って立ち止まった。
『……道理で……、様子がおかしいと思った……』
『君には言ってなかった?』
穏やかに尋ねると、少女はコクンと頷いて提案してきた。
『場所を変えて話しませんか? 学校の周りはちょっと……』
『分かった。近くに車を停めているけど、中野を離れても大丈夫? 誓って変な事はしないし、もし様子がおかしいと思ったらすぐ通報して構わない。……でも一応、朱里さんの命を助けた男だと思って信頼してほしい』
『……分かりました。私、中村恵と言います。あなたは?』
『篠宮尊。二十歳の大学生だ』
名乗ってから通っている大学名を伝えると、名のある大学だからか彼女の俺を見る目が変わった。
『じゃあ、行こうか』
俺はポケットに手を入れて車のキーを確認し、駐車場に向かって歩き始めた。