想いと共に花と散る
あれから月日は巡り、新撰組の中では、組織として体制を整えるための動きが活発化していた。
そんな目まぐるしく変わる日常に四苦八苦する、冬の気配が濃くなってきていたある日のことだった。
屯所に、はっきりとした変化が訪れる。
いつも通りの朝餉の時間を過ごした後、近藤の一声で全員が庭に集められた。
「皆に伝えることがある」
整列した隊士達を前に、近藤は静かに言った。
かつて彼の隣りに立っていた男の姿は、今はもうない。
隊士の中には名前すらも知らない顔が増えていた。恐らく、そのほとんどがあの秋の夜に起きた惨劇を知らないのだろう。
「これからの新選組は、これまで以上に任務が増える。市中見回り、警護、探索……その全てを、今のままの体制で続けるのは難しい」
近藤の言葉に、ざわりと小さく空気が揺れた。
何を感じ取ったらしい隊士達は、顔を見合わせヒソヒソと何かを話し出す。
一歩前に出た近藤は、顔を真っ直ぐと上げ声を張った。
「そこで、隊を分ける。各隊に責任者を置き、指揮を明確にする」
その言葉に続いて、土方が一歩前に出た。
「遊びじゃねぇ。命令系統が曖昧な組織は、いずれ自滅する」
その声に、冗談の余地はなかった。局長、副長という立場の元、二人は責任を重く受け止めている。
雪は庭の端にいながらも、そんな彼らの姿から目を離せないでいた。
「これより、各隊の組長を指名する。まずは一番隊組長――沖田総司」
一瞬、場が静まり返った。土方たちへと向けられていた視線は、一気に沖田へと向けられる。
呼ばれた本人はきょとんとした顔で瞬きをし、それから小さく笑った。
「……俺?」
「お前以外に誰がいる」
有無を言わさぬ土方の即答に、何人かが苦笑する。
未だ戸惑いを隠せずにいる沖田は、肩を竦めながらも一歩前に出た。
「剣の腕でいいなら、やるしかないよね。ま、部下が逃げないように頑張るよ」
軽い口調とは裏腹に、その背筋は真っ直ぐだった。
雪が彼であれば務まると、そう思えるほどの姿をしていた。
それからも、土方は淡々と事前に決めていた幹部達の名を口にしていく。
「二番隊組長――永倉新八」
「期待には答えるさ。部下の上に立つ者として、な」
「三番隊組長――斎藤一」
「……善処する」
名を呼ばれるたび、空気が締まっていく。土方が口にする名は、そのほとんどが結成当初からいる面々。
隊士達の前に立つ土方達の判断に、誰も異を唱えなかった。
「八番隊組長──藤堂平助」
「えっ! お、俺か!? まじか、頑張るぜ」
「十番隊組長──原田左之助」
「尽力しますよっと」
それぞれが自分の立ち位置を理解し、そして受け入れていく。
彼ら街も唱えず素直に従うのは、長い月日で培ってきた信頼があるからこそ。
「新撰組局長は近藤勇が。副長は土方歳三が。新撰組総長は山南敬介がその責を担う」
その宣言を最後に、新撰組は個の集まりではなくなった。
雪は少し離れた場所から、その光景を見守る。変わらず小姓という立場であるため、自分には縁のない話だと一線を隔てた。
だからこそ、個人個人の反応はよく見える。喜ぶ者、不安がる者、当然だと見栄を張る者。
いつの間にか人数が増えていた彼らは、それぞれがそれぞれの想いを抱いていた。
(隊……組長……)
皆が一段、遠くへ行ってしまったような気がした。
けれど同時に、はっきりと分かる。この人達は、もう戻れない場所へ進んでいるのだと。
そして自分もまた、その流れの中にいるのだと。
冬の冷たい風が、庭を吹き抜ける。新撰組は、静かに、確実に戦う組織へと姿を変えていった。
そんな目まぐるしく変わる日常に四苦八苦する、冬の気配が濃くなってきていたある日のことだった。
屯所に、はっきりとした変化が訪れる。
いつも通りの朝餉の時間を過ごした後、近藤の一声で全員が庭に集められた。
「皆に伝えることがある」
整列した隊士達を前に、近藤は静かに言った。
かつて彼の隣りに立っていた男の姿は、今はもうない。
隊士の中には名前すらも知らない顔が増えていた。恐らく、そのほとんどがあの秋の夜に起きた惨劇を知らないのだろう。
「これからの新選組は、これまで以上に任務が増える。市中見回り、警護、探索……その全てを、今のままの体制で続けるのは難しい」
近藤の言葉に、ざわりと小さく空気が揺れた。
何を感じ取ったらしい隊士達は、顔を見合わせヒソヒソと何かを話し出す。
一歩前に出た近藤は、顔を真っ直ぐと上げ声を張った。
「そこで、隊を分ける。各隊に責任者を置き、指揮を明確にする」
その言葉に続いて、土方が一歩前に出た。
「遊びじゃねぇ。命令系統が曖昧な組織は、いずれ自滅する」
その声に、冗談の余地はなかった。局長、副長という立場の元、二人は責任を重く受け止めている。
雪は庭の端にいながらも、そんな彼らの姿から目を離せないでいた。
「これより、各隊の組長を指名する。まずは一番隊組長――沖田総司」
一瞬、場が静まり返った。土方たちへと向けられていた視線は、一気に沖田へと向けられる。
呼ばれた本人はきょとんとした顔で瞬きをし、それから小さく笑った。
「……俺?」
「お前以外に誰がいる」
有無を言わさぬ土方の即答に、何人かが苦笑する。
未だ戸惑いを隠せずにいる沖田は、肩を竦めながらも一歩前に出た。
「剣の腕でいいなら、やるしかないよね。ま、部下が逃げないように頑張るよ」
軽い口調とは裏腹に、その背筋は真っ直ぐだった。
雪が彼であれば務まると、そう思えるほどの姿をしていた。
それからも、土方は淡々と事前に決めていた幹部達の名を口にしていく。
「二番隊組長――永倉新八」
「期待には答えるさ。部下の上に立つ者として、な」
「三番隊組長――斎藤一」
「……善処する」
名を呼ばれるたび、空気が締まっていく。土方が口にする名は、そのほとんどが結成当初からいる面々。
隊士達の前に立つ土方達の判断に、誰も異を唱えなかった。
「八番隊組長──藤堂平助」
「えっ! お、俺か!? まじか、頑張るぜ」
「十番隊組長──原田左之助」
「尽力しますよっと」
それぞれが自分の立ち位置を理解し、そして受け入れていく。
彼ら街も唱えず素直に従うのは、長い月日で培ってきた信頼があるからこそ。
「新撰組局長は近藤勇が。副長は土方歳三が。新撰組総長は山南敬介がその責を担う」
その宣言を最後に、新撰組は個の集まりではなくなった。
雪は少し離れた場所から、その光景を見守る。変わらず小姓という立場であるため、自分には縁のない話だと一線を隔てた。
だからこそ、個人個人の反応はよく見える。喜ぶ者、不安がる者、当然だと見栄を張る者。
いつの間にか人数が増えていた彼らは、それぞれがそれぞれの想いを抱いていた。
(隊……組長……)
皆が一段、遠くへ行ってしまったような気がした。
けれど同時に、はっきりと分かる。この人達は、もう戻れない場所へ進んでいるのだと。
そして自分もまた、その流れの中にいるのだと。
冬の冷たい風が、庭を吹き抜ける。新撰組は、静かに、確実に戦う組織へと姿を変えていった。