想いと共に花と散る
前川邸を出て、町へ向かう道はすでに人の気配に満ちていた。
昼の京は、賑やかな雰囲気に包まれている。行き交う商人、荷を抱えた女房、道端で遊ぶ子ども達。
活気があり、平和。だからこそ、壊れやすい。
沖田を先頭に町中を進む一行の最後尾、雪は列から少し間隔を空けて続く。
見回りといっても、剣を振るう場面ばかりではない。むしろ、何も起こらない時間の方が圧倒的に長いのだ。
「……見られてるね」
先頭を歩く沖田が、軽い口調で呟いた。その一言で一行の空気が一段暗く沈む。
雪もそれらの視線を感じた。周囲に目を向ければ、それは明らかなもの。好奇の目もあれば、警戒の目もある。
浅葱色の羽織は、もはや町の中で目立つ存在になっていた。
「新撰組だ、って顔されてる」
まるで冗談を言うように、沖田は微かな笑みを浮かべて言った。
そんな沖田の横顔を見た雪は、胸の前で手を握り締めて逡巡する。
周りから向けられる視線は、決して歓迎されているようなものではない。蔑み、毛嫌い、遠ざけようとする目だ。
彼らはこの京の町を守るためにいるのに、町にでるほど町人からは恐れられる存在になっていく。
雪は、その矛盾をまだ上手く飲み込めずにいた。
「でも、前よりはましかな」
「前?」
「芹沢さんがいた頃はさ、もっと露骨だった」
もう耳にすることはないと思っていた名前。その男の名前が新選組から消えてから、まだ数ヶ月しか経っていない。
沖田は軽い調子でそう言うが、その裏に含まれる意味は重かった。
町人たちから向けられる恐怖と嫌悪が入り混じった視線、今はそこに警戒と諦観が混ざっている。
それらの視線は秩序が生まれた証でもあり、同時に反発の芽が育ち始めた合図でもあった。
(目立つなって言われたのに……こんなにも見られてる)
何人もの超人とすれ違うたびに、鋭く刺さる視線が向けられる。
それは、隊士達が派手な羽織を着て町中を練り歩いているから目立っているだけではない。
浅葱色の一行の最後尾にいる袴姿の少年が付いて回っている姿が、町人の目には異様に映るからだった。
それから一行が通りを一つ抜けると、道は少し細くなる。洗濯物が頭上を横切り、家と家の距離が近くなった。
「ね、雪」
不意に立ち止まった沖田がくるりと振り返り、先頭から最後尾に回る。
何気ない様子で雪の隣りに立った彼は、まるで世間話の一端のようにその名を呼んだ。
「怖い?」
「……少し」
「それでいいよ」
短くまとめられたその言葉は、もしかすると自分自身に言い聞かせるものだったのかもしれない。
いつでも変わらない微笑みを浮かべて隣りに立つ彼は、一体いつその本心を曝け出しているのだろう。
少なくとも、今の雪には彼の本心の曝け口には器が足りない。
「怖くなくなったら、たぶん終わりだ」
再び前を向いた沖田の横顔がやけに寂しげだったのは、雪の気の所為だったのだろうか。
昼の京は、賑やかな雰囲気に包まれている。行き交う商人、荷を抱えた女房、道端で遊ぶ子ども達。
活気があり、平和。だからこそ、壊れやすい。
沖田を先頭に町中を進む一行の最後尾、雪は列から少し間隔を空けて続く。
見回りといっても、剣を振るう場面ばかりではない。むしろ、何も起こらない時間の方が圧倒的に長いのだ。
「……見られてるね」
先頭を歩く沖田が、軽い口調で呟いた。その一言で一行の空気が一段暗く沈む。
雪もそれらの視線を感じた。周囲に目を向ければ、それは明らかなもの。好奇の目もあれば、警戒の目もある。
浅葱色の羽織は、もはや町の中で目立つ存在になっていた。
「新撰組だ、って顔されてる」
まるで冗談を言うように、沖田は微かな笑みを浮かべて言った。
そんな沖田の横顔を見た雪は、胸の前で手を握り締めて逡巡する。
周りから向けられる視線は、決して歓迎されているようなものではない。蔑み、毛嫌い、遠ざけようとする目だ。
彼らはこの京の町を守るためにいるのに、町にでるほど町人からは恐れられる存在になっていく。
雪は、その矛盾をまだ上手く飲み込めずにいた。
「でも、前よりはましかな」
「前?」
「芹沢さんがいた頃はさ、もっと露骨だった」
もう耳にすることはないと思っていた名前。その男の名前が新選組から消えてから、まだ数ヶ月しか経っていない。
沖田は軽い調子でそう言うが、その裏に含まれる意味は重かった。
町人たちから向けられる恐怖と嫌悪が入り混じった視線、今はそこに警戒と諦観が混ざっている。
それらの視線は秩序が生まれた証でもあり、同時に反発の芽が育ち始めた合図でもあった。
(目立つなって言われたのに……こんなにも見られてる)
何人もの超人とすれ違うたびに、鋭く刺さる視線が向けられる。
それは、隊士達が派手な羽織を着て町中を練り歩いているから目立っているだけではない。
浅葱色の一行の最後尾にいる袴姿の少年が付いて回っている姿が、町人の目には異様に映るからだった。
それから一行が通りを一つ抜けると、道は少し細くなる。洗濯物が頭上を横切り、家と家の距離が近くなった。
「ね、雪」
不意に立ち止まった沖田がくるりと振り返り、先頭から最後尾に回る。
何気ない様子で雪の隣りに立った彼は、まるで世間話の一端のようにその名を呼んだ。
「怖い?」
「……少し」
「それでいいよ」
短くまとめられたその言葉は、もしかすると自分自身に言い聞かせるものだったのかもしれない。
いつでも変わらない微笑みを浮かべて隣りに立つ彼は、一体いつその本心を曝け出しているのだろう。
少なくとも、今の雪には彼の本心の曝け口には器が足りない。
「怖くなくなったら、たぶん終わりだ」
再び前を向いた沖田の横顔がやけに寂しげだったのは、雪の気の所為だったのだろうか。