想いと共に花と散る

「……ホンマかどうかは分からん。けど、聞いてもうてん」

 膝の上で握り締めた手が震えている。俯く小夜の目には恐怖がありありと滲んでいた。

「夜、目の前で人が斬られるところを見たっていう人が言ってたんやけど……辻斬りっちゅうんは、“浅葱色の羽織を着とった”らしい」

 ずんと、身体に沈み込むような衝撃が襲う。
 雪は無意識の内に沖田の顔を見ていた。彼のことを疑ったからではない。
 今この瞬間にも、刀を持って走り出してしまうのではないかという不安を感じたからである。
 浅葱色の羽織など、この京の町で着ているのは新撰組の面々くらいしかいない。
 となると、組織の中に裏切り者がいる、ということになってしまう。

「皆、新撰組を恐れとる。ねぇ、雪。ホンマに大丈夫なん?」
「だ、大丈夫って?」

 嫌な予感を感じるのは雪だけではない。
 沖田も小夜も、この町にいる誰もがその予感を抱いている。

「新撰組におって……う、裏切り者と一緒におって」

 すぐに否定できなかったのが、すでに疑っている自分がいる何よりもの証拠であった。
 まだ小夜の言う噂が本当なのか確定したわけではない。辻斬りが人を襲っていることは事実であっても、その犯人が新撰組にいるとは限らないはず。
 浅葱色の羽織を外で着ているのは沖田達のような者だったとしても、呉服屋で似たような羽織を作ることだってできる。
 新撰組になりすましている者である可能性もないわけではないはずだ。
 
「……雪、帰ろう」
「えっ、ちょ、ちょっと、総司君!? まだお団子食べてな────……」
「急がないと、手遅れになる」

 突然立ち上がった沖田に手を捕まれ、そのまま引っ張られるようにして歩き出す。
 背後で小夜が何かを言っていた気がするが、わざと離れるように沖田は足早に甘味処を後にした。
 痛みすら感じるほど強く掴まれた手首からは、微かな震えが伝わってくる。それは沖田のものであり、彼の押さえ付けた怒りであった。

「ごめん、ごめんなさい……。二人とも、ごめんなさい」

 あの時、沖田の手を振り払ってでも彼女の元に戻っていれば。
 話を聞いている時にでもその違和感に目を向けていれば。
 彼女の背後に迫る闇に気づけたかもしれない。
 
「うちじゃあ……どうにもできんねん」
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