想いと共に花と散る
 前川邸の門前に向かうと、沖田の他に斎藤と藤堂の姿があった。
 他の幹部は夜間の見回りに出ているか、明日の朝早くから任務があるため流石に呼び出せない。
 偶然にも、比較的雪と親しい幹部の顔が揃っていた。

「なあ、土方さんよ。こんな時間に呼び出してどうしたんだ?」
「羽織は着て来るなとのことでしたが、何故」
「俺達がこの時間に出歩くんだ。あんな派手な羽織を着て周囲に正体をバラしながら歩くわけには行かねぇだろう」

 こんな夜更けに土方が幹部だけを呼び出すなど、只事ではないことくらい二人は理解している。 
 それでも問うたのは、土方の様子に少なからず不信感を抱いたからだろう。
 二人に問われた土方は、目線で付いて来るように促した。

「お前ら、あいつの行きそうな所に心当たりはあるか?」
「多分、雪は甘味処に行ったんじゃないですかね。あそこの娘と随分仲がいいので」
「ここらの甘味処で言うと、総司が贔屓にしているあそこか」

 夜も深まり、人通りのない町を歩きながら四人は手当たり次第に雪が行きそうな場所を探った。
 一番初めに向かうは沖田行きつけの甘味処。しかし、当然夜間では営業しているはずもなく、固く閉じられた扉の前で一回目の落胆を受ける。
 その次に向かったのは、今日限り開かれた市場だ。開催時間はとうに過ぎ去り、今は露店の片付けをする者達が疎らにいる程度。
 四人は手分けして、残っている人々に聞き込みを行った。

「そこのご老人、夜分遅くにすまねぇ。少し、聞きてぇことがあるんだが」
「ん、なんや? 兄ちゃんが俺に聞きたいことだって?」
「ああ。ここらで、桜色の髪紐で髪を一つにまとめた子供と、同じくらいの年をした娘を見なかったか?」
「桜色……子供………ああ! せやせや、今日の夕刻に二人のお嬢ちゃんらがうちに寄ってくれはってな。おそろいの首飾りを譲ったったわ」
「二人が何処に行ったか分かるか?」

 ようやく手に入れた新たな情報に、すでに土方の冷静な態度は欠いている。
 後少しであの二人がいるであろう場所に行き着く。そう思うと、いても経ってもいられなかった。
 土方の気迫に怖気づいた老人は、震える指先である一点を指し示す。

「あっちの路地に向かってった後、出てきた思たら河原の方に行きよったで」
「河原、だと?」

 年若い娘がこんな夜更けに河原で何をする必要がある。
 疑問は次から次へと湧き上がるが、今は兎に角老人の証言を信じて二人を探すことが最優先だ。

「すまん、助かった」
「お、おう。気つけてな。最近辻斬りとかも出とるみたいやし」
「ああ、気遣い感謝する」

 素早く老人の前から立ち上がった土方は、他の者に聞き込みをしていた三人を引き連れて河原の方へと向かった。
 この京の町にある川と言えば鴨川である。そこの何処かに二人がいると信じて、土方達は駆け出した。
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