想いと共に花と散る
 寒さが肌を刺す二月から三月に時は進み、ほんの少し気温が温かみを増してきた頃。
 雪はあの夜以来、一度も目を覚ますこと無く布団に横たわっていた。
 毎日幹部の面々が日替わりで看病に当たったことで熱は下がり、傷もほとんど治っている。
 しかし、自身が集団に痛めつけられたこと、信じていた友人に裏切られた出来事が重く伸し掛かり、雪の意識を外敵から閉ざしていたのだった。

「……雪。まだ、寝てるかぁ」

 外からの光がほとんど届かないこの部屋は、いつでも薄暗い。
 障子を開ければ、辛うじて明るくはなるがそれでも部屋の奥は暗いままだ。
 そんな人の目に付かない部屋に訪れる人物というと、この部屋の存在を知っている幹部くらいだ。
 この時、部屋に来たのは非番の沖田一人。水が入った桶と手拭いを持ち、彼は部屋の中へと踏み込む。

「だいぶ、良くなってきたね」

 水で濡らした手拭いで汗ばんだ雪の額を拭いながら、沖田は呟く。
 毎日、こうして時間があれば雪の部屋に来ていた。来る度に何気ないことを呟くが、一度も雪が返事したことはない。
 
「時間が立つのは早いねぇ……もう、三月だよ」

 少し前までは、手拭いで肌を拭いた後に包帯の交換やら傷口の消毒やらがあったのだが、今は拭い終わればすることはない。
 だからか、いつからか沖田は雪の部屋に入り浸ることが増えていた。
 ひたすら眠る雪に話し掛けるか、膝を抱えてずっとその寝顔を眺めるか。
 
「いつになれば、起きてくれるのかな? また、甘いもの食べに行きたいんだけど」

 雪と出会ったあの日、呉服屋に行って袴を買い、甘味処でみたらし団子を食べた。
 見たことのない変わった服装をした少女は、今ではすっかり男として周りに馴染んでいる。
 それがこの時代とこの場所で生きていくための最適解であると理解しているつもりだ。
 しかし、どうにも拭いきれないやるせさがあった。

「君がありのままの姿で生きられる日は来るのかな……。君は、俺に何も教えてくれないよね」

 何処から来たのか、何処で土方と出会い何故ここへ来たのか。
 気づけば長い月日が流れていた。いつも目の届く所にいて、無意識の内に目で追うようになっていた。
 意外と頑固だったり、正義感が強かったり、脆くてすぐに壊れてしまいそうな儚さを持っていることも知った。
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