想いと共に花と散る
 それでも、未だ知らないことばかりだった。沖田にとって雪とは、突然現れた嵐のような存在だったのだ。

「……雪ってさぁ、心の底から手元に繋ぎ止めていたいって思える人はいる?」

 それは、自分自身でも気づけなかった本心だった。
 障子越しに差し込む灯りは弱く、部屋の中は静まり返る。
 布団の上で眠る雪は、浅い呼吸を繰り返しているだけだった。

「ほんと、無茶するよね」

 沖田はいつもの調子でそう言おうとして、言葉を飲み込んだ。強く唇を噛み、抱えた膝に額を着ける。
 額に浮かぶ汗、熱に浮かされた赤い頬。そんな顔を見下ろした瞬間、不意に胸の奥が詰まったのだ。

「……女の子、なのにさ」

 誰に向けるでもなく、ぽつりと零す。
 その一言は、いつの日からか沖田の中で一つの違和感となっていた。

「最初から分かってたら、もっと違う距離を取れたのかな」

 喉の奥が、微かに震えた。つんと目の奥が痛んで、胸の奥が握り締められたように苦しくなる。
 それでも言葉は溢れ出して。
 目の前の存在から目を離せなかった。目を逸らしてしまえば、次の瞬間にでも何処か遠くに行ってしまいそうで。
 繋ぎ止めたくて、一秒でも長く存在を感じていたくて手を伸ばす。
 けれど、決して触れることはできなかった。

「でもさ……それでも、君を一人の人間として見てたんだよ。隊士でも、守られる存在でもなくて」

 言葉を選ぶように、間を置く。
 行き場を失った手をぎゅっと握り締め、強く奥歯を噛んだ。

「……傍にいるのが当たり前みたいになっててさ。それを失うのが、こんなに怖いなんて思わなかった」

 沖田は小さく息を吐いた。吐き出された息は震えていて、意思と反して情けない声が溢れる。
 幼い頃から刀を振るって生きてきたからこそ、ずっと己は武士であると自分自身に言い聞かせてきた。
 武士だから、弱音は吐かない。
 武士だから、刀を振るい続ける。
 武士だから、剣の腕以外は必要ない。そこに、人へ掛ける情けも憐憫も。

「はは。今さら気付くとか、遅すぎるよね」

 けれど、一度知ってしまえば、気付いてしまえば、もう己の本心に嘘は吐けない。
 ずっと屈辱だった。相手に何も伝えようとしないのに、想いだけは募らせる自分自身が。
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