想いと共に花と散る
 誰しもが、山南のその言葉が冗談の類ではないと察する。
 そして、もう彼が考えを改める気がないこともまた痛いほど理解していた。
 同じ部屋にいるはずなのに、誰の視線も交わらない。
 そんな重苦しい沈黙を破ったのは、山南の怪我について語る時とはまた別の真剣な表情を浮かべる山崎だった。

「それと……もう一つ」

 静かに落ちる山崎の声に、全員の視線が彼に集まる。
 皆の視線を一心に受ける山崎は、数回瞬きをして光のないその目を皆に向けた。

「近頃、京の町で長州の浪士の動きが目立っています。町医者や薬種商の間で噂が絶えません」
「どんな噂だ」

 土方が即座に問う。前のめりになり、眉間にはこれほどかと言うほど皺を拵えた。
 問われた山崎は、特別気にすることもなく土方に視線を向ける。
 その目には、確かな鋭さを宿していた。

「武器や火薬を集めている、と。御所周辺を探るような動きもあるそうです」

 近藤がゆっくりと目を閉じた。
 腕を組んで俯き、固く閉じられた口から地が唸るような声が溢れ出す。

「……穏やかじゃないね」
「ええ」

 冷静さを忘れていない落ち着いた井上の呟きに、山崎は静かに頷く。

「山南殿が前線を離れる、この時期に……偶然とは思えません」
「偶然なわけがねぇだろ。嫌な予感しかしねぇ」

 とうとう怒りが沸点に達し、態度からもその怒りを露わにする土方を見兼ねて井上が口を開く。

「だが、今はまだ確証がない。軽々しく動けば、こちらが疑われるよ」
「ちっ……分かってる」

 土方は歯を食いしばり、下ろしていた手を固く握った。
 障子を開け、外に出ようとした土方は立ち止まり、完全には振り返らず吐き捨てる。

「……だからこそ、準備が要る」

 その言葉に、山南は静かに目を伏せる。
 薄暗い部屋の中に佇む彼の姿が見ていられなかったと言えば、少しは楽だっただろう。
 しかし、土方に目をそらすという選択肢は与えられない。
 新選組の副長として、そして鬼として、目の前の問題からは逃れられないのだ。

「山崎、君は引き続き長州の動きを探ってくれ。トシ、こちらは備えは進めよう。表には出さず、だ」
「御意」
「元からそのつもりだ」

 近藤や土方が表立って長州の動きを探ろうとすれば、目立ってすぐに勘付かれる。
 直接の調査は監察方である山崎に任せるのが最適解であり、土方も山崎も理解していた。
 山崎が部屋を去り、再び重い沈黙が流れる。
 誰もが口に出さないまま、感じ取っていた。京が、再び血の匂いを帯び始めていることを。
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